女子会帰りに出逢ったばかりの彼に押し倒されそうです

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宛先不明の恋

 

 ――彼に出会ったのは間違いなく偶然だと思う。


 だけど、本能的に彼が私の運命の相手だと感じてしまった。


 どうしようもなく、私のたましいを奪われてしまったのだ。



 ついさっきまで女子会で友達の亜由と「コイなんかよりやっぱり食べられるご飯よね〜」なんて言ってたばかりなのに。



 彼は雑踏の中を、堂々と進んでいた。

 割と細身なんだけど、中身はきっと筋肉で詰まっているんだろうなって分かるくらいスタイルが良い。

 彼が途中で立ち止まり、キョロキョロし始めた時に……私はつい見惚みとれてしまっていた。



 ――あっ。



「どうかしましたか? ここに止まっていると危ないですよ?」



 ――やばいやばい! 話しかけられちゃった!!


 こんなんじゃ完全に不審者だ。

 たとえ女は捨てていても、流石に犯罪者はなりたくないよ!!



「ご、ごめんなさい。ちょっと知り合いに似ていたもので……その……」


「あぁ、僕も良くありますよ! どうしても顔を覚えるのが苦手で……もしかしたら本当に僕たちは知り合いかもしれませんよ?」



 綺麗な口でニコっと笑って言ってくれた。

 絶対ウソってバレバレな言い訳なのに信じた!?

 ……いや、たぶん私のこと気遣って言ってくれたんだよね。

 私が悪いのに更に気まで遣わせて……消えたい!!



「あ、あの……」


「あ、いや。ごめんなさい。知らない奴にいきなりこんな馴れ馴れしく言われたら戸惑いますよね。忘れて忘れて!」


「い、いえ。悪いのは私の方ですし……」


「あはは、貴女は気にしないで。あ、もし気にするようでしたら……ちょっとお願いがあるんですけど」


「はい? なんでしょう?」


「実は知り合いとこの辺で待ち合わせをしていたんですけど、行くのが初めての場所でして。もし詳しければ道を教えていただきたいんですが……ってナンパみたいですね、コレ」


「ふふ。なら最初に貴方を見つめていた私の方がナンパみたいじゃないですか。私はここの辺りをいつも回っているので、多少は詳しいですよ?」



 やった、本当にナンパじゃないけど、このイケメンさんと仲良くなれるチャンスかも!

 とても整った顔なのにクリッとした彼の目に見つめられて、私はかなり調子に乗っていた。

 詳しいとか言っちゃったけど、本当は何も考えずフラフラしながら美味しいものを探しているだけだし、あまりにボーッとし過ぎて危ない奴に襲われかけたこともあるくらいなのだ。



「えーっと。ライトアップされた船と灯台が見えて、星空が綺麗に見える場所……なんて巫山戯ふざけた事言われたんですよね。そんな曖昧な場所見つかる訳……」


「知ってる……私、その場所知ってます!!」



 そうなのだ。

 夜になるとイルミネーションのようにキラキラと光ってて、毎晩のようにたくさんの人が訪れる場所。

 男友達のコウが、「行けば絶対に釣れる最高のスポットだ!」なんて最低な事を言ってたっけ。

 でも、なんでそんな場所に?


「本当!? まさかこんな所で知っている方に出逢えるなんて! いやぁ今日の僕はラッキーだな〜」



 ニコニコと心があったかくなるような笑顔に釣られて、私のテンションも最高潮だ。

 ごめんよ、亜由。私だけこんな出会いを経験してしまっているよ。



「そうだ、自己紹介もせずに申し訳ない。僕は深田といいます。貴女のお名前を聞いても?」


「かっ! 片口です! よろしくおねがいします!」


「ぷっ……くくく。そんな、圧迫面接じゃないんだから。とって食ったりしないよ?」


「(むしろ深田さんになら食べられたいなんて言えない……)じゃ、じゃあ! そろそろその場所に行きませんか? ご友人も待っているでしょうし……」


「そうだった。まぁアイツの事はいいですよ。折角だし、お喋りしながらゆっくりいきません?」



 くぅ〜っ!! これだからイケメンは!!!

 女に勘違いさせるような事を簡単に言っちゃうんだから!!

 でも、こういう男に限って腹黒いのだ。

 女を食い物にして、あたり一面食べ散らかすようなクズかもしれない。

 私は騙されんぞー!!



「そういえば片口さんはもうご飯は食べました? 僕こう見えて大食いで……お腹ぐーぐーなんです」



 ふぉおぉお!

 食べられたい! 

 むしろ私、この人に食べられて満たしてあげたい!!

 "ぐーぐー"て!

 立派な大人がそんなお可愛いこと言わないでください!!


 ……ていうか私、さっきまで女子会でエビ食べ放題なんてしてきたばっかりなんだけど。

 やだ、生臭くないかな私。



「わ、私はちょっとダイエット中でして……で、でも! この辺りは美味しいものがたくさんあるので、食べながら行きませんか?」



 なんとか誤魔化した私は、深田さんを引き連れてグルメツアーを開催した。

 途中、私の同族のような方たちが恨めしい顔をしながら去っていったが、今日だけだから安心して欲しい。

 明日には私もそっち側にいくよ。




 星空の下を二人きりでゆっくりと進んでいく。

 周りには遠くに見える灯台ぐらいしか灯りになるものは無く、暗闇の心寒さをお互いの声で暖め合っている。


 彼は普段の取り留めのない話を柔らかい口調で面白く話してくれるので、男慣れしていない私でも楽しく会話することができた。

 そう、できてしまったのだ。


 一度味わってしまった麻薬のように甘い時間は、今夜だけで終わらせてしまうにはあまりにも依存性が高すぎた。



「あっ……」


「ここが……」



 そんな事を考えているうちに、約束の場所に着いてしまった。

 星と船の明かりが海にキラキラと反射して、まるで宇宙の中で泳いでいるような感覚におちいりそうだ。


 隣にいる彼も、幻想的な世界に目をまん丸にしている。



「綺麗だ……」


「えっ?」


「まるで幻想的な海に降り注ぐ流星群と、その中で泳ぐ人魚のようだ……。まさかこんな光景が見られるとは……」



 えっ? それは私も含めての感想なの??

 告白!? これはもう告白ととってもいいよね私!?

 ふと彼の顔を見ようとすると、既に私の顔のそばまで来ていた。



「わっ、わわわわ!」


「片口さん」


「ひゃ、ひゃいっ!」


「僕、実は最初から嘘をついてました。すみません」


「えっ?? 嘘……ですか?」


「はい。知り合いと約束していたことは嘘なんです。……もっと言うなら、貴女に話しかけたのも偶然じゃない」


「……どういうことですか?」


「最初から片口さん狙いでした。いえ、見かけたのは本当に偶然でした。……でも貴女が僕を見つめる前から、


「見て……た?」


「はい。最初見たときから目が離せなくて……貴女に興味を持ってしまった。それで、貴女も僕を見ていることに気が付いて……」


「ワザと立ち止まってから私に声を掛けた……?」


「はい。少なからず僕に興味を持ってくれていたみたいなので」


「な、なんでまた私を……」


「ひと目惚れですよ。ひと目見た瞬間……貴女が欲しくなった」



 ――ゾクッ。

 私の心臓を鷲掴みにされるような、真剣な表情で私の目をじっと見つめてくる。

 ……でも、不思議と怖くはない。

 だって、なんとなく分かってたし。

 運命だって感じたのは、きっと私だけじゃなかったんだ。



「……私は。出会った瞬間から深田さんの事は気になっていました。でも、私なんかがお相手になんて無理だって思って……今だけなんだって……」


「僕は貴女のその全てが好きです。好きになってしまいました。だから……」


「分かりました。私も覚悟を決めます。私もそんな深田さんを……受け入れます」


「片口さん……」



 そうして無幻の星灯りの中、深田さんの唇が私に近付いてきて……



 この夜、私は深田さんに完全に呑まれてしまった。

 深田さんのモノは立派で、私の身体なんてひとたまりも無かったのだ。


 結局、私の勘は当たっていたようで、日が昇る頃には深田さんはもう私になんか興味を無くしたように去っていった。



 そして私は……





「ん? ふかだ。おーい、フカがいたぞ〜」


「フカ? あぁ、サメですかぁ。コイツ網を噛みちぎったりするから本当迷惑ですよねぇ」


「コイツはイカ餌のカタクチイワシまで喰っちまうからなぁ〜」


「あっ、あっちの船でフカが釣られましたよ。これでイワシの仇はとれましたね〜。あっはっはっは」






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