1-4. 着せ替えさせられても嬉しくない
「素敵ですわ!」
「こんなに女性物のお召し物が似合う美麗な男性は他にいらっしゃいませんわね」
「東雲様のお見立てですの?」
一度に三人から口々に言葉を浴び、律は冷や汗をかきながら曖昧な微笑みを浮かべた。その背中側に類が回り、律の肩に手を回す。
「ええ、私の見立てです。最近こうした格好が流行るのでは、といった情報が入りましたので、うちの店でも取り扱おうかと。ちょうどこうして適任がおりましたので着せてみたのですが、どうでしょう?」
要するに、律は新作着物の試着実験台というわけだ。
それにしても、人を着せ替え人形みたいに言うんじゃない! そう思いながらギっと類を見上げた律の前で、三人のお嬢様方が強く頷いた。
「最高ですわ!」
女性陣から口をそろえて目を輝かせながらそう言われ、律はたじろぐ。
「ど、どうも。お褒めに預かり光栄です。ありがとうございます」
しどろもどろに先ほどの類の口上を真似て笑顔を浮かべた後、律はさり気なく類の手を肩からさっと外す。そして一つ息を吸い込み、笑顔を接客モードに切り替えた。
「立ち話も何ですし、皆様こちらへどうぞ」
先ほどご令嬢たちが入ってきた扉は表の『東雲呉服店』と繋がっている。その扉を開いてこの部屋まで入ると、まずは手前に食材を扱う調理場が奥に控えるカウンターがあり、部屋の中まで行くと大きな四人掛けのソファーテーブルが一つ、部屋の中に存在感を放って鎮座している。その横には類と律が座れるように一人掛けの洋風の椅子が二つ置かれていて、その光景がすでに、今ここにいる客は不意打ちで来たのではないということを示していた。
壁際には食器が収められているガラス張りの洋風な棚に、壁と同じ色の木材で出来たチェスト。部屋の一番奥の窓際にあるのは、類が自分の書斎から運び出したどっしりとした飴色の机と椅子だ。
「じゃ、お嬢様方へお茶を」
「かしこまりました」
類の言葉を受け、律は頷いて壁際の食器棚から透明なグラスを四つ取り出した。部屋の真ん中のソファーテーブルへとご令嬢方を誘導する類をちらりと横目で確認し、律は早速カウンターの方へ向かう。
「あ、ちょっと律くん」
「はい?」
数歩進んだところで肩を叩かれ、律は咄嗟に振り返った。
「グラスが一つ足りないよ?」
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