第1章 6話 人が増えれば、雑念も増える

二時間かけて来てくれたあの男性は、あれから達也の興味からは外れたため特に恋愛感情を持つことなく、友達のまま関係は続いていた。

この頃から、達也の仲間たちは一気に数を増やし、もう私が知らないメンバーも沢山いる。達也の家に出入りするのは、基本私とあきらさんだけだったが、毎週金曜日の夜、定例会という名目で達也は彼らを集めては何かをしているようだった。私は学生だし、門限もあるから彼らのその集まりに出ることはできなかったが。


「今日も、定例会があるから君はお帰り。あきら、この子を自宅まで送ってあげてね」


「わかったよ、達也。じゃあ、行こっか?」


定例会がどこで開かれるかは、達也と呼ばれたメンバーしか知らない。私だってもう1年近く彼らと行動してて、呼ばれないのは不服だった。


だからーー


「ありがとう、あきらさん。でも、今日はちょっと寄りたいところがあるからお母さんに迎えに来てもらうよ」


彼らの行き先を突き止めることにした。


「え?でも、達也が……」


「そうなんだ。あんまり遅くなると心配するだろうから、早く帰るんだよ?」


あ、ダメかもしれないと私の中で警告音が鳴り響く。確信はないが、達也は私がしたいことに気づいたかもしれない。達也は、普段と変わらない受け答えをしているけど。


「あ……えっと、ごめんあきらさん。やっぱり家まで送ってほしいかな」


「そうだね。君に何かあったら、僕はその何かに何をしてしまうかわからないからなぁ」


全身に悪寒が走る。その何かって、そうさせた原因……つまり、私の行動のことだろう。

ペナルティー。まだ受けたことはないから、それがどんなものなのかは分からないが。この人を敵にしてはいけないと本能が言っている。


「じゃあ、送るよ」


そのときだったーー


達也の携帯が鳴り響いた。彼は送るからちょっと待っててというと、携帯を持って部屋を出た。


「ねぇ、さっきのやり取り。あれ、なに?」


すかさず、あきらさんが話しかけてきた。

言葉の感じからだいたい察しはついているだろうに。


「何……って」


「定例会、気になるの?」


「別に……」


「俺が協力してあげようか?」


この男は、楽しそうにそんな提案をしてくる。協力なんて受けたら、途中で手のひらを返すに決まってる。


「いいよ、自分で頼むから」


「達也は君を連れてなんて、いかないと思うけどね」


私は渾身の眼力で睨み付けるけど、そんなものはものともしない。

すると、リビングの扉が勢いよく開かれた。

流石のあきらさんもビックリしたようで、私と同じように開いた扉を凝視した。


「達也……?」


怒ってる?も、ものすごく。

達也は、表情は穏やかだが滲み出る雰囲気が怖い。


「ねぇ、あきら。僕に嘘をつくのは、どうしてだろうね。悲しいなぁ。ねぇ、君……君だって僕に嘘をつこうなんて思わないだろう?」


「え……たつ兄?」


「嘘って、どういうこと?どうしたの、達也」


達也はふらふらとソファへと、倒れこむ。

片手で髪をかきあげたため、その眼光がはっきり見えた。それは鋭く、眼力だけで人をころしそうだとさえ思う。


「今日の定例会はなしだ。ここに、大和、小林くん、吾潟を呼べ」


「わ、わかったよ、達也」


あきらさんはとても慌てたように部屋を飛び出した。まるで、何かに怯えているように。


「君は、僕の隣に」


え、嫌です。……とは言えないので、少し間を空けて隣に移動した。


「僕は、仲間を増やしすぎたのかもしれないね」


達也は、申し訳ない程度に空いた距離をつめる。そして、ぶっきらぼうにそう言うと私の肩に頭を預けて目を閉じた。





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