第31話「衝突に至る邂逅」
この爆音と衝撃に慣れている者などいない。車内にいても感じる揺れと、顔を照らしてくる光に、アズマなどはギョッとした顔を店としまう。
「何!? 何!?」
アズマが顔を向けた窓の外では、爆炎が深夜に差し掛かった闇夜を赤々と照らしていた。
このタイミングでの爆発は、
「火事? 爆発事故?」
日々の点検を欠かせた事などない拘置支所での爆発は、少なくとも八頭には、ただの事故とは思えない。
――確か、超自然現象の定義は、温度低下、発火、帯電、物体の移動、異臭、異音の6種の内、2つが同時に起きた時だったか?
先代から引き継いだ知識を辿り、答えを探す八頭だが、答えは知識より先にアズマがくれる。
「電気だよ」
雷獣であるアズマだからこそ、不意に拘置支所の受電設備が電圧低下を起こした事を感じ取れた。
通常時であれば問題はない。機器の稼働に支障が出ないように自家発電機や無停電電源装置が設置されているし、それで
だがワット数の高い機器に電圧低下が起こり、そこへ自家発電機や無停電電源装置からの電力が送られた場合、全く違う結果になる。
電力は電圧と電流の掛け算で求められるのだから、消費電力に対し、電圧が低下すれば電流値があがる。
電流値の増加は過電流となるが、一瞬で起こってしまえば保護機器も働かない。それが想定を大きく超える値でも。
しかし想定を遙かに超える大電流が流れれば、拘置支所の各部を支えていたコンデンサや電源装置が、一瞬にして破裂、爆発を起こす。
八頭の頬を冷や汗が伝う。
――狙った?
偶然と考えてしまう程、八頭の思考は逃避しかけるが、アズマがいう。
「
霊の痕跡に帯電現象がある、とアズマがいうと、八頭は思考を切り替え、愛車のドアを開けていた。
「来たって事か!」
八頭の手にはいつもの剣だけ。
今回とて支給されたものは姿を隠す隠れ蓑くらいなもので、この高い塀を跳び越えたり、壁を擦り抜けたりする能力は付与されていない。
それでも八頭は進入路がある事を確信していた。
――この壁はRC造り。中に鉄筋が入ってるんだから、霊は通り抜けられない!
鉄の
ならば壁の一部を
そして、それは当たる。
爆発と呼応するように動く壁が視界に入ると、八頭は剣の柄に手を沿わせ……、
「チェイッ!」
――やっぱりな!
四散するする霊には
――
呪術師が霊を送り込む場所だ。中にいる明津が
八頭の感覚でも、霊に取り殺されても文句のいえない相手である。
――それを守る!? クソッ。
クリスの時にはねじ伏せられた感情を、もう一度、ねじ伏せなければならない。
――グズグズしてたら間に合わない!
ねじ伏せながら向かう、と八頭は走った。
***
同じく爆発を見たベクターフィールドも車から飛び出していた。
「電気だな」
ベクターフィールドが出した結論もアズマと同じ。
何度か繰り返さた爆発に、亜紀も顔を青くさせられている。
「これ……
ここを爆破できる手段など、亜紀には思いつかない。呪術師だ霊だといわれても、この状況は別次元だ。
ベクターフィールドからは「落ち着け」の一言もない。ただ呪術師が大規模に霊を動員したからこそ起きた事態だ、とだけ教える。
「中の直流電源装置や、コンデンサを電圧降下させたんだろ。そうしたら自家発電や無停電電源装置からの電流が上がって破裂させられる。まぁ、明日の新聞には事故って載るだろうぜ」
それだけいうと、ベクターフィールドが手を翻し、
「行くぞ」
ベクターフィールドは亜紀を
八頭と同じ壁を――。
ならば後ろから追いかけてくる悪魔がいる、とアズマが気付く。魔王も雷神も、同じく
「八頭さん!」
立ち止まり、振り返るアズマは、敵から見ればいい的だっただろうが、ベクターフィールドは立ち止まる。
「!?」
知っているからだ。
――雷獣!
――つまり、ここには非正規の死神もいるんだな!
警戒は当然だった。雷獣を連れた非正規の死神が何人いるのかは知らないが、ベクターフィールドを破った者が一名、確実にいる。
ベクターフィールドの前で立ち止まった非正規の死神は、女ではなく男だったが、武器を手に取るのだから、これから起こる事は容易に想像が付く。
激突だ。
何よりも、明津一郎が収監されている房は、もう近い。
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