わたしは、わたしなりのやり方で。

 * * *



 薫を探そう。


 そんな話をしたのが、昨日の夜。

 薫が帰ってこないと言う話を聞いたときだ。


 胸元でこぶしを握って、小さく息を吸って、吐く。


 わたしは、やりきらないといけない。

 それが、例え、二人を裏切ることになったとしても。


 わたしにしか、できないことだから。


 チャイムが鳴る。

 返事をして立ち上がる。

 ちらりと窓が視界に入る。

 そこに映ったわたしの前髪は、すっかり伸びていた。


「お待たせ」


 ドアを開けば、夜色の髪に、青白い肌。

 そして、透き通った黒い瞳を持った茜がいた。

「確認もせずに開けちゃ駄目だよ。危ないでしょ」

「気配がしたから。でも、そうだよね、これから気をつける」

 眉尻を下げて困ったように微笑む茜に、わたしはごめんね、と頭を下げる。

「じゃあ、早速薫を探しに――」

「茜」

 こちらに背中を向けかけた茜の腕を、掴む。

 驚いたように目を丸くして、茜がこちらを振り向いた。

「どうしたの、舞白」

「あのね、茜。薫の居場所がわかったの」

 澄んだ黒が、わたしをじっと見下ろす。

 なにもかも見透かそうとするような瞳に、わたしは静かに見つめ返した。

 逸らしてはいけないと、そう思ったから。

「どうして、君が薫の場所を知ることができたの?」

 落ち着いてはいるけれど、でも、どこか強張った声。

 一気に、ピン、と空気が張りつめる。


 疑われている、のだと思う。

 当たり前だ。

 わたしのうしろにクロくんがいることを、茜は知っているだろうから。


 クロくんの評判があまりよくないのは知っているし、その評判も、まあ、だいたい合っているわけで。


 わたしが薫の場所を知っている、ということはクロくん関係だと睨まれているのかもしれない。

 小さく息を吐いて、わたしは口を開く。

「そのことについて、話したいんだ。中、入ってくれるかな」

 茜の整った眉が、ピクリと跳ねる。

「吸血鬼を招くって、意味わかって言ってる?」

「もちろんわかってるし、わたしは、茜にしか言わないよ」

 沈黙。

 道路を通っていく車の音だけが、静かに走っていく。

「俺は」

「わたしは」

 ギュッと、腕を掴む手に力を入れる。

 茜の瞳が、揺れた。


「わたしは、茜を、信じているから」


 きっと、わたしはたくさんの嘘を彼に吐くことになる。

 だけど、それでも。

 たとえ茜が、薫が、わたしを疑い、恨んだとしても。


 わたしは、茜と薫を、守ってみせる。

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