突然の電話

 あの連絡があってから、翌日の夜。


 夕飯も食べ終えて、片付けも済んだ。

 温かいものが飲みたくなって、紅茶を淹れる。

 ついでにせっかくだからなにか本でも読もうと席を立ったときだった。


 テーブルの上に置いたままのスマホから、軽快な呼び出し音が流れる。

 ディスプレイには、公衆電話の文字。


 出ようか、どうしようか。

 頭の中でグルグルと回る。

 だって、どうして、誰がわざわざ公衆電話からわたし宛に電話をかけてきたのか、意味がわからないから。


 わたしの連絡先を知っている人なんて、クロくんくらいだ。

 浮かんだのは、薫と茜。

 二人とも、離れてしまったその日に着信拒否してしまった。

 だけど、だからって今まで連絡してこなかったのに、今更わざわざ公衆電話からかけてくる理由が思い当たらない。


 切れる様子のない呼び出し音が、ずっとわたしに呼びかけてくる。

 わたしは恐る恐る手を伸ばして指をスライドさせる。

 ゆっくりと耳にあてて、口を開いた。

「もしもし」

「舞白?」

「そうだけど、茜?」

 切羽詰まったような声に、胸騒ぎがする。

「急にごめんね、薫がそっちに行ってたりしないかな」

「薫が? 来てないけど……」

 受話器の向こう側の空気が、一気に冷たくなったのがわかる。

 きっと今、茜は真っ青な顔をしている。

 そんな気がする。

 わたしだって、今、心臓が変な音を立てている。

 最後に薫を見たのは、あの夜だ。

 わたしを殺そうと、木の杭を手にした、薫。

「薫が、どうかしたの……?」

「……家に、帰ってこないんだ」

 今まで、そんなこと一度もなかったのに、と。

 震える声で出された言葉に、わたしは胸元で、ギュッとこぶしを握った。

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