靴擦れ厳禁

 * * *



 絶対に靴擦れとかしないような格好にしてよ。


 そう、何度も何度も薫に釘を刺された。

 だからちゃんと履き慣れたスニーカーを履く。

 本当は浴衣を着たかったけれど、しょうがない。下駄を履いたら間違いなくやらかす自信があったから。


 ドアを開けば、二人がいた。

 当たり前だ、今から三人で花火大会に行くのだから。

 わかっているけれど、でも、一週間ぶりなのだ。

「薫! 茜!」

「わっ!?」

「おっと」

 地面を蹴って、二人に飛びつく。

 流石というか、二人ともしっかりと受け止めてくれた。

「ちょっと! 怪我したら危ないでしょ?」

「ごめん、嬉しくて」

 正直に言えば、もう、と薫は大げさに肩をすくめた。

 その横で、茜は眉を下げて困ったように笑っている。

「ほら、離れて。あんまりのんびりしてると、たどり着くまでに始まっちゃう」

 ぽんぽんと肩を叩かれて、はーい、と返して離れる。

「お土産、今度会うときに持ってくるから」

「ええ、いいのに」

「お菓子の詰め合わせ」

「お菓子! やった! ありがとう」

 ぴょんっと飛び跳ねれば、はしゃがないの、と薫に笑われた。

「そこまで喜んでくれると選んだ甲斐があるね」

「確かに」

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