後悔先に立たずと言うけれど
+ + +
「お待たせ、舞白。どうしたの、顔色悪いけど」
なにか怖いことでもあったのだろうか。
舞白は、真っ青な表情で手元を見ていた。
よく見ると、一枚の紙切れを握りしめている。
ただでさえ白い指を、心配になるくらい真っ白にさせて、力一杯に。
「あ、薫、茜……」
そっと上げた瞳。まつげが、小刻みに震えている。
すぐにうつむいてしまった彼女は、けれどもう一度顔を上げたときには、笑顔を浮かべていた。
少しでも舞白のことを知っている人なら、作り笑いだとわかるそれ。
こんな笑顔、この子に向けられたことがない。
「なんでもない」
本当になんでもないのなら、そんな返答はしない。
嘘が苦手なのだと、思った。苦手なら、嘘なんて、つかなきゃいいのに。
胸が、針につつかれたように痛い。
その痛みが嫌で、私は手を伸ばした。
「そんなこと──」
「立ちっぱなしだったから、貧血とかかな」
思わず舞白に掴み掛かりかけた私を遮るように、茜が前に出てくる。
茜の背中越しに困ったように微笑む舞白が見える。
今日はまっすぐ帰ろうか、と話しかける声は、酷く優しい。
まるで怯えた子供に、怖くないよ、となだめているようだ。
もう一度うつむいてしまった舞白は、小さくうなずく。
大丈夫? 歩ける? と、茜は心配そうに何度もたずねている。
貧血じゃないとわかっているだろうに。
舞白になにがあったのか。
気になるけれど、どこまで踏み込んでいいのかわからない。
もしも今選択肢を間違えてしまえば、取り返しのつかないことになりそうで。
こんなことなら、もっと沢山、いろんな人と関わるべきだったと後悔した。
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