後悔先に立たずと言うけれど

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「お待たせ、舞白。どうしたの、顔色悪いけど」

 なにか怖いことでもあったのだろうか。

 舞白は、真っ青な表情で手元を見ていた。

 よく見ると、一枚の紙切れを握りしめている。

 ただでさえ白い指を、心配になるくらい真っ白にさせて、力一杯に。

「あ、薫、茜……」

 そっと上げた瞳。まつげが、小刻みに震えている。

 すぐにうつむいてしまった彼女は、けれどもう一度顔を上げたときには、笑顔を浮かべていた。

 少しでも舞白のことを知っている人なら、作り笑いだとわかるそれ。

 こんな笑顔、この子に向けられたことがない。

「なんでもない」

 本当になんでもないのなら、そんな返答はしない。

 嘘が苦手なのだと、思った。苦手なら、嘘なんて、つかなきゃいいのに。

 胸が、針につつかれたように痛い。

 その痛みが嫌で、私は手を伸ばした。

「そんなこと──」

「立ちっぱなしだったから、貧血とかかな」

 思わず舞白に掴み掛かりかけた私を遮るように、茜が前に出てくる。

 茜の背中越しに困ったように微笑む舞白が見える。

 今日はまっすぐ帰ろうか、と話しかける声は、酷く優しい。

 まるで怯えた子供に、怖くないよ、となだめているようだ。

 もう一度うつむいてしまった舞白は、小さくうなずく。

 大丈夫? 歩ける? と、茜は心配そうに何度もたずねている。

 貧血じゃないとわかっているだろうに。


 舞白になにがあったのか。

 気になるけれど、どこまで踏み込んでいいのかわからない。

 もしも今選択肢を間違えてしまえば、取り返しのつかないことになりそうで。

 こんなことなら、もっと沢山、いろんな人と関わるべきだったと後悔した。

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