御佩刀教
「すまなかった、あのとき俺の監督が行き渡らず火傷を負わせ、そのうえ俺がいない間にこのような苦役に従事させてしまって」
志摩家の子息であるが、非があれば謝罪をしなくてはならない。それは満おじいさまも同じこと。おじいさまは無礼を働いたとしても、必ず自分が心からの詫びを入れた。
だがそんな謝罪の意を受けた彼は、いままでの労苦をからっきし忘れたように笑い声をあげた。
「へへ、大丈夫でさ。あのとき負った火傷に比べたら、あんな鞭のひとつやふたつ」
「そっか、火傷のほうが熱かったか、じゃあなおさら俺が悪いな」
翳りのある風貌を見せ、盈はさらに頭を低くする。
「あ、いえいえそういうわけでは」
そんな彼の反応を見て、盈はかつてのあどけない少年の心を浮かばせ、思わず噴き出してしまう。
「元気そうで何よりだ、元気な心だけでも生きていて良かった」
こんな言葉は他人事かもしれない。笑うべきではないことだと盈は重々わかっている。けれど、彼を心から生かすのには特効の言葉だった。盈との再会でひさびさに笑ったのだろう、彼の顔は途端に生き生きとし始めた。
「俺がいない間、何があった? 教えてくれ」
ぼろぼろで粗末になった労働服、彼の肩に触れて盈は問う。彼の目から涙が音を立てて落ちた。きっと悲しい二年間だったのだろう。だがそれに触れずにはいられなかった。
「お嬢様と坊ちゃまがいなくなったあと、それは酷いものでした。村から都に出ようにも、ふもとに警備の兵を置かれ、逃亡しようものなら直ちに刀で首を打たれました」
満ち満ちてくる怒りに盈は叫びそうになる。だがその感情以上のものを、村人に抱えさせてしまったのだから。
それと同時に申し訳ないと思い、盈はいたたまれなくなる。
奴らの行ないこそが許されない行為である。だが、そうなってしまった責任の一端を、盈は感じざるを得なかった。
「そして知ったのです、彼らが神剣を讃え崇める『
決して黙っていられない。
「盈坊ちゃまが生きていてよかった、それだけでも感激でございます」
「それだけで感激するな!」
激昂して盈は、彼の細くなった両肩を掴む。
「ぼ、坊ちゃま?」
「この村のみんなを蹂躙させたあいつらを追い出してこその感激だろ、感動の涙はそのときまでに取っておけ!」
彼の目の光が宿る。失っていたはずの人並みらしい心が宿ったか、彼に笑顔の花が咲いた。
「その言葉、盈坊ちゃまが絶対に言うと思ってました。やっぱり間違いなく坊ちゃまは盈坊ちゃまです!」
思わず胸が熱くなって、盈は横を向いてしまう。別に頬が照れているとか、涙が流れそうになったというわけではない。
それから盈は、志摩シノギの振りをし、服従させられている村人を新たに四人呼び出した。おのおのに盈は自分の正体を明かした。
みんながみんな盈の帰還を喜んで迎えた。だが、いまは歓迎される時ではない。一刻もこの状況から村人を解放しなくてはならない。
なるべく見張りが来ないような場所で話がしたい。そのように希望すると、うち二人が自分たちを匿えそうな場所を教えてくれた。
七人は廃屋同然の家屋に潜む。実にむさ苦しい。それでよかった。ここならばさすがに奴らの目を免れると思ったからだ。
「あの後の奴らの狼藉ぶり、なんて酷いことだっしょ。玉鋼作りの記録を探すためと、ひっかきまわすように満様の部屋を荒らしていきました。彼らにとって有用な物になる物は何一つ見つからなかったみたいで」
やりたい放題やってくれる。聞けば聞くほど腹が立ってくる。それを我慢するように盈は唾を飲み込んだ。
こんなことがあってはならない。たとえ志摩シノギが志摩家の本家を名乗ろうとも、これは先祖に対する冒涜である。
「それで次に目をつけたのが、残された我々村人ですわ。わしらが玉鋼作りをしてたこともあって、その経験に頼って彼らはわしら全員を徴用し始めたんですわ」
しかもそれだけでなく、満おじいさまが逝去する時まで、愛して止まなかった村人にこのような扱いをするとなるか。そんなこと、おじいさまに許されるはずがない。
だが二年経ってもまだ働かせているということは、玉鋼作りは思うように進まなかったようだ。それは当然だ、なぜならいまこの時点で、玉鋼作りの監督ができる
「ここに皆を集めて、折り入って頼みがある」
「なんでございましょう!」
「
「はいっ!」
五人が声を揃える。
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