滅びの宣告

『うふふ……♪』『うふふ……♪』『うふふ……♪』『うふふ……♪』『うふふ……♪』『うふふ……♪』『うふふ……♪』『うふふ……♪』『うふふ……♪』『うふふ……♪』『うふふ……♪』…



 その日、コンチネンタル聖王国中の人々は、皆揃って雲一つない上空の方向を見つめ続けていた。彼らの視線にいたのは、1人の美女であった。緑色の長髪、誰もが振り向く美顔、スタイル抜群の肉体、そしてそれを申し訳程度に覆う純白のビキニアーマー――普通なら人々の破廉恥や嫉妬に満ちた視線が集まる風貌であったが、人々の表情は全員揃って驚愕と恐怖に満ち溢れていた。当然だろう、そこにいる美女は、聖王国の人々はおろか、木々や建物、果ては小さな山よりも大きな肉体を有していたのだから。しかも彼女は1人ばかりではなく、王都を始めとするあちこちの町や村――聖王国を『脱出』出来ず、取り残された人々が住む場所にくまなく現れ、下で右往左往する人々を見下すかのように笑顔を見せていたのである。


「な……なんじゃこりゃ……」

「ひぃぃ……で、でかい……!」

「怖いよぉ……」


 そして、人々はその巨体の美女に見覚えがある事に次第に気が付き始めた。このような破廉恥な衣装を身に着け、人々の前で裸体を見せびらかすような舞を見せつけ、『女神エクスティア』にその身を捧げるかの如く振る舞い続けた、1人の女性――セイラ・アウス・シュテルベンに非常に似ている事に。


「せ……セイラ……」

「セイラだ……」

「な、なんでセイラが……!?!?」

「セイラは悪い事やって追放されたはずじゃ……!!」


 彼らは女神エクスティアを崇めるエクス教、そして聖王国自体からの言葉を何も考えず信じきっていた。セイラ・アウス・シュテルベンは女神に対して侮辱行為を働き、それ以前から密かに続いていた様々な犯罪行為が明るみになった結果、二度と生きて帰れない『帰らずの森』へ追放された、と言うのが彼らの常識だったのである。だからこそ、そんなセイラが天まで届きそうな巨体となり、笑顔で自分たちの前へ姿を現した事は恐怖が具現化したようなものだった。


 そして、次々に腰を抜かし、恐怖に慄く民衆は、世界中で一斉にセイラが語りだした言葉を聞く事となった。


『『『『『『『『『『『ごきげんよう、コンチネンタル聖王国の皆様』』』』』』』』』』』

『『『『『『『『『『『私は「女神エクスティア」の使徒。貴方たちに女神からの言葉を伝えます』』』』』』』』』』』


 貴方たちは長年に渡りコンチネンタル聖王国を穢し、女神を敬い謙虚に生きる心を忘却の彼方へ追いやった。貴方たちは欲望に溺れ、自分勝手な快楽に浸り、内部から腐り続ける己の心から目を反らし続けた――世界中の巨大なセイラたちは声を揃え、この国に残された人々の罪を次々に述べ続けた。例え耳を塞ごうとしても、大声を挙げてかき消そうとしても、セイラの声は彼らの『心』へ直接響くため、どう足掻こうが人々はセイラの声を受け入れざるを得ない状況だった。


 悲鳴すら上げ始めた人々の様子を気にもせず、巨大なセイラたちは言葉を続けた。


『『『『『『『『『『『私は貴方たちに改心の機会を幾度か与えました』』』』』』』』』』』

『『『『『『『『『『『ですが、それは無駄に終わりました』』』』』』』』』』』


 今この国に残されているのは、特に罪深き者として女神エクスティアから選ばれた者たち。改心する事なくこの国の富にしがみつき、現状を変えることなく目の前の享楽を味わい尽くす生活を変えず、そのまま居座り続けた愚かな者たち。貴方たちは、既に生きていく価値を失ってしまった。いや、自分自身で捨ててしまったのだ――女神の代弁者と名乗る巨大な美女たちの辛辣な言葉が、コンチネンタル聖王国中に響き渡った。



『『『『『『『『『『『貴方たちには、存在意義などありません』』』』』』』』』』』

『『『『『『『『『『『よって、女神エクスティアの名を借りて宣告します』』』』』』』』』』』』



 コンチネンタル聖王国は、滅びます。

 女神エクスティア、そして貴方達に見捨てられた『聖女』の手によって。

 最早、貴方たちに逃げ場など存在しません。


 では、その日まで、ごきげんよう。



『うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』うふふふふ……♪』…



 そして、無数の笑い声を聖王国中に響かせながら、巨大なセイラたちはその姿を消していった。後に残ったのは、今まで見たものは錯覚でも幻覚でもない事を示すかのように残る、セイラによって捻り潰された大地、木々、そして建物の痕跡であった。

 やがて、しばしの沈黙ののち、聖王国全体に響き渡ったのは人々の悲鳴だった。恐怖、絶望、後悔、様々な負の感情が抑えきれなくなった人々は、ただ大声で喚き、慌てふためく事しか出来なかった。涙を流し、女神に必死に懺悔しようとする者もいたが、それに応える存在は姿を現すことは決してなかった。許されざる人々は、ただ『聖王国』という檻の中で右往左往するしかなかったのである。


 だが、その中でたった1人、狂気に満ちた、と例えても過言ではないほど、勝ち誇った笑みを見せる存在がいた。


「はーっはっはっは!!!どうだ見ろ!!!わしの考えは正しかったのだ!!!!」


 大神殿の自室の中で、フォート大神官は散々舐められ、一切信用がなかった自分自身の考え――全てはセイラ・アウス・シュテルベンと言う存在が引き起こしたものだ、と言うのが正しかった喜びを全身に示していた。煌びやかな装飾に彩られた部屋の中で、彼は飛び回り跳ね回り、まるで好きなものが手に入った子供のようにはしゃぎ続けた。


「どうだどうだ!!!見ろヒトア!!見なさい国王陛下!!わしは常に正義なのだ!!!!!」


 勝ち誇ったように蔑むような表情を見せるフォートとは裏腹に、ヒトアとヒュマスはただ怯えることしか出来なかった。互いに体を抱きしめ合い、『滅び』という言葉から逃れるかのように感触を抱きしめ合い続けていたが、それでも彼らの心に植え付けられた恐怖は大きいものだった。当然だろう、自分たちが事実上の死刑に等しい追放処分を行った憎たらしき存在が、常識を超えるような途轍もない力を身につけ、自分たちを含めたこの国そのものへ『復讐』を遂げようとしているのだから。

 声も出ず、震えるだけの2人には、興奮の絶頂にあるフォート大神官を気にかける余裕など一切なかった。


「あーっはっはっはっは!!!!!さあ来いセイラ!!!!!!わしが今度こそ葬ってやる!!!!!!ぎゃーはははははは!!!!」


 

 何も出来ずうずくまる国王と聖女。

 その周りで笑い声をあげながら狂ったようにはしゃぎ続ける老人。

 まさにそれは、滅亡を宣告された国にふさわしい光景であった……。 

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追放聖女は滅びを纏う 〜聖王国から追放されし真の聖女、女神の力を授かりて国を滅ぼさん〜 腹筋崩壊参謀 @CheeseCurriedRice

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