プロローグ2 シドーの家族の話
20XX年 科学者の秘書と名乗る女性がある家族の元を訪れていた。
中肉中背40前の母と少し痩せているが手足の長い切れ長の目をした10歳前後の娘の親子だ。似ていると言えば似ているし似てないと言えば似ていないそんな微妙な二人だ。
「石嶺士道さんから手紙を預かっております。」
科学者の秘書と名乗った女性はそう言って、各々に宛名のついた手紙を手渡した。
娘は涙を流して震える声で「パパは?」ときいた。顔はもう鼻水やら涙やらでぐちゃぐちゃだ。
対して、母の方は無表情だった。
「石嶺士道さんは、我々の実験に参加することを決断して下さいました。このどこにいるかは勿論、実験内容は当然お伝えできません。」
秘書は二人にわかるよう簡単な言葉を選んだ。
そしてこう付け加えた。
「ただ、一つだけ言えるのは、彼が望んで実験に参加してくれた、そのことだけです。」
「パパ、ずっと苦しかったもんね。よく頑張ったよね。ごめんね。ごめんね。」
娘は泣きながらそう言った。
「あの人の持っていた資産は?私はこれからどうやって生きていけば良いのよ!」
女、いや母親は秘書の女性に詰めよった。
「彼の個人的な資産がどうなっているは存じ上げませんが、実験に参加する対価としてあなた方には生活に困らない様、私どもより手当させて頂きます。」
秘書は相変わらずの終始無表情でそう告げた。
「ママ!またお金なの!私知ってるよ!パパがずっとお仕事してお金をもらっていたこと、最後の1年にもらうお金が凄く減って、ママがパパに酷いこと言ったりしてたのも!それでもパパは家のこととか一杯やってくれてた!それなのにママはいつも自分の気分次第でパパに酷いことばっかり言ってた!」
娘は母親に怒りをぶつけるように激しく言った。
「だってパートじゃ食べていくのが精一杯なのよ!子供に何がわかるのよ!一人前の口をきかないで!」
「パパが10年出来たことをママは1年も出来ないの?」
母親は愕然とした。自分がいかに夫に甘えて生きていたのか辛くあたってきたかのかがわかったのだろう。
秘書は相変わらず淡々と、
「とにかく手紙はお渡ししました、あなた方の生活費は石嶺士道さんの実験参加報酬としてお渡しします。以上です。」
秘書は振り返り帰ろうとした、がその時娘に呼び止められた。
「パパのこと、よろしくお願いします。有難うございました。」
涙を流しながら必死にお礼を言い頭を下げる子供に秘書は少しだけ表情を崩し笑顔の様な顔で娘に一枚の名刺をそっと握らせた。
(お母さんには見せないように。いつか自分で会いに来れるくらい大きくなった時、なにか困っていたら連絡して頂戴)
秘書は娘の耳元でそっと囁き、そのまま去って行った。
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