第一章4話 脳内少女は中年を諭し現実を受け入れさせる
士道は折角生き帰ったのだから、新しい人生を満喫したいと思っていた。以前の自分はやりたくもない仕事だ何だと必死で生き、それこそ息をするのも有料か?とまで落ち込んでいたからである。幸運にも今の自分は若く健康で希望がある。レイに提案され無くても、この場所を離れて色々行ってみたくなるのは当然の結果だった。
道中レイからは名前を付けたおかげでポーチの中身を説明してもらった。何でも手のひらに取れば物質の組成がわかるとのことだ。
「この錠剤が鎮痛鎮静抗菌薬兼抗生物質みたいなもので、コンソメブロックは万能栄養食か。この錠剤がすごすぎる!万能薬かよ!こんなのあれば俺はベットで大量に薬を飲まされて薬嫌いにならなくて済んだのに!未来スーパーとかで売ってる品みたいだよ。俺の病気で苦しんだ時間返せよっ!」
「て、、、今はどうでも良いか。薬って事はモルヒネみたいに多幸感みたいなのもあるのかねぇ?現状が全くわからないし貴重すぎるね。ありがたやありがたや。水筒は何となくわかっていたけど、フード付マントは雨風しのげて寝床にもなる。で防弾防刃って軍隊仕様?安全の定義が違いすぎて恐い?刀は刀で謎のボタンを試しに押したら刀身が灼熱するわ、高振動するわ、あげくのはてに帯電するわ。便利を通り越して流石に恐いわ!あとはポーチについてる録音機能な。まるで水掛け論のトラブルが起こるとでも言いたげじゃないか。」
『マスター?独り言の最中に何ですがカタナの感想は作用が真逆ですよ?まず電気の力があるから帯電してスタンモード、それを使って刀身を振動して高周波モード、で熱エネルギーに変換してヒートモードです。物理苦手でしたっけ?』
「アナタっていちいち人に一言悪口挟まないと話せないんですかねぇ?」
『わたしの疑似人格の形成は何と言ってもあの科学者さんですから!こう言う女性が好みだったそうですよ。2次元好きでしたし』
「最後のはやめて差し上げろ。多分泣くぞ。ってそう言えば今持っているものとかレイとか、俺の生きていた時代には明らかにオーバーテクノロジーじゃない?想像の産物過ぎるんだが?どれ一つとっても軍事転用してれば世界が変わる代物よ?」
『一般ピープルのマスターが知らなかっただけで世界の暗部は常に最先端で動いていましたよ。まぁ、その結果がこの始末なんですが、、、』
結局もう一度崖まで行き、そこから適当に崖沿いを歩いていたら数時間で渡れる高さの場所までついた時の話だった。
「ん?今何気に凄いこと言った?結果?始末?」
『えーとですね。ワタシに繋がっていた情報端末からの報告なんですけど、マスターの生きていた世界、マスターが眠りについてから20年後に崩壊してるんですよー。』
レイは如何にも当たり前の様に重大な事実を士道に伝えた。終末のラッパこと核戦争だ。経緯は二つの大国が牽制し合っていた当時、西側の国の偵察機が相手国の領空ギリギリを飛行中に東側が警告もなくいきなり撃墜。当然報復行動に出た西側洋上艦隊は相手国の首都を含む主要施設をロックオン。ロックオンを検知した側が核を発射。その核自体は洋上から撃ち落としたものの激昂した勢いで反撃の核を数十発発射。撃たれた側も核で応戦。それを契機に各国入り乱れて核の大放出セール。抑止力とは何だったのか、、、
『で、綺麗さっぱり更地になったこの世界はどれ位立つんでしょうねぇ。マスターのカプセルとワタシはイリーガルな存在だったので偶然にも辺鄙な施設に移設されて地下核シェルター内に格納されてました。おかげで破壊こそされませんでしたが、電力供給がなくなり予備電力の自家発電に切り替えた結果、外界の情報は取得できなくなりまして。偶然地殻変動で地下施設の電力をゲット出来たのでそこから復旧をしてなんとか地上近くにでれたわけです!』
「え?嘘でしょ?事実は小説より奇なりとはこの事か。確かに一触即発な状況だったけど、そこまでなる?それに地殻変動とか偶然過ぎるしそれで電力不足の解消ってどうやったの?」
『為政者の気分なんてわかりませんよ。おじいさんが怒りにまかせてボタンをポチーのボカーンみたいなもんです。あと地殻変動は最近何度か起きていましたよ。マスターにわかるように言えば地震ですね。振動を感知してましたし。後地下深くって結構色んなエネルギーがあるんですよ。地熱がエネルギー利用できるか研究されていたとか知りません?その中で施設の装置で電力に変換できるものを見つけ出したサクセスストーリーです!』
士道は都合が良すぎるだろと思ったが察知される前に心の奥底にしまい込んだ。詳細を説明されたところで理解できそうにない。偶然も重なれば奇跡なのだが、この世界には自分以外人間は誰もいないのかもと思うとこれからの目的が検討がつかなくなってきた。本当に自給自足の無人島いや無人世界生活じゃないか。
「こういう時は生きているだけでも幸せと考えた方が良いんだろうねぇ、、、」
『そーですよマスター!物事は前向きに考えましょう!大体マスターのカプセル自体、計画が露見仕掛けて急遽場所を移転して計画を一時凍結してたんですから。あ、その間マスターも凍結されてましたけど。プププ』
「いや、全然わらえねー」
『違うんですって、計画が順調に進んでいたらワタシの機能ももっと早く完成してたんですよ。マスターは本当は数年で回復する予定だったんです。そしたらマスターは核戦争で消滅ですよ?流石にワタシもそこからの再生は不可能ですって!』
確かに一理ある。結果オーライとはよく言ったものだろう。法的に問題がある実験が隠蔽の為に遅延した結果、士道は今ここにいるのだ。
しかし、自分の家族、娘は数少ない友人は?皆死んだのだ。『幸せに生きろ』なんて遺書を残しておきながら、実は自分が生き残ってしまった。どうしようもないやるせなさが士道を責めた。
『石嶺士道さん、その考えは違います。貴方は現実では死亡が確定してました。只のモルモットが偶然成功して生き返った。それだけです。厳しいことを言いますが、あなたに何か出来る事は何もありませんでした。死後の世界なんてありませんよ。貴方は天国、若しくは地獄からエールでも送るつもりだったのですか?そう思いたいのならそれはそれで構いません。だが事実は貴方がここにいて恐らく世界は崩壊した。貴方は生きて行くしかないのです。もしも貴方が言うとおり天国があるとしたらそれこそお嬢さんはエールを送っているのではないですか?違いますか?』
レイはナノマシン本来の口調、いや機械に相応しい論理的な意見だった。普段マスターと呼ぶところをまるで患者に接するように名前で語りかけたのが証明になるだろうか。
「ごめんな。レイ。少しショックが強すぎておかしくなっていたわ。確かにどうしようもないし、何も出来ないな。うん。あの子なら人類が絶滅する一瞬前まで幸せに生きてくれたと信じられるよ。あと、天国はあるのかなぁ、、、」
士道は目に涙を溜めたまま空を仰いだ。どうか見守ってほしいと願いながら。
『あのー、感動中のところを悪いんですがワタシ『世界は崩壊した』とは言いましたが人類が絶滅したなんて言ってませんよー。』
「は?」
『いや、冷静に考えて核シェルター位あるでしょう。絶対とは言わないまでも生き残った可能性はゼロではないのでは?』
「あ、、、」
士道はショックの余り冷静さを全く欠いていた。
『ま、少なくとも今の時代に生きている可能性はほぼ考えられないですけどー。地中の計測をやってみたんですが、所謂放射性物質の量は人生物が生存可能なレベルなんですよね。確かマスターの国って原子爆弾の被爆国ですよね。74年後の土壌調査で13%まで減少したはずです。』
「つ、つまり少なくとも20年後に核戦争で更に74年以上は経過してるって事?」
『良く出来ました!仮に生きていても90過ぎのお婆ちゃんですね♪更に、核弾頭が何だったかでも状況は変わってきますから。』
「と、というと、、、?」
『まぁ、核分裂とか核融合とかの話は端折っちゃいますけど、物質によっては放射能汚染の半減期が300億年とかありますから♪』
「つまり?」
もう、士道の脳は思考を完全にストップしていた。
『ぶっちゃけ何年経ったかわかりませんっ!』
「まじかー!!!」
『あ、でも報告というかなんというか、、、一つ発見があるんですけど大気中にも地中にもナノマシンが大量に散布されてます。』
耳を疑う事実だらけだった。
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