幽霊になった君と最後の奇跡を

檸檬soda

幽霊になった君と最後の奇跡を

僕が愛していた人は、

不慮の事故で急に亡くなった。

その日は、とても寒い冬の日だった。

僕と君で高校の帰り道に買い物をしたり、映画を見に行ったりして遊んだ日だった。

その日の帰り道、僕と帰り道が別れた後、

君は自動車に跳ねられた。

搬送されてからずっと僕の名前を呼んでいたんだと聞いた。

医師達が懸命な手術を施しても君は亡くなった。僕は自分を悔いた。

あの時君を家まで送り届けていれば。

そう考えてしまうことがほとんどだった。

悔やんでも、仕方ない。

そうに思うことなんていつまで経っても出来なかった。

気がつけば、君が居なくなってから七年という月日が流れていた。

季節はまたあの頃のような冬に近づいてきていた。

「さみぃ…早く帰ろっと。あれ、夕飯なんだっけ、何か買ってある?あれ」

誰にも聞こえない声量でぶつぶつと喋りながら歩く。

口元は白い息が漂う。ふと上を見るとひらりひらりと白く舞うものがあった。

「え、雪…?」

さすがに早すぎやしないか?と考えながら上を向いて歩いていると。

「あの、」

そんな声が聞こえた。たった一言だったが、何か引っかかった。

「マサくん、ですか…?」

正くん、という風に呼ばれたのは何時ぶりだろう。

懐かしさを感じる呼び方と同時に、あの日の記憶が脳裏に浮かぶ。

だって、俺の事を正くんと呼ぶのは、君だけじゃないか。

ゆっくりと後ろを振り返る。正直にいって怖かった。君はいないからこそ、今の声の主がわからなかったから。

そして、後ろを向いた時、そこにはあの日の君と同じ笑みを浮かべた君がいた。

「、え?なん、で?」

「やっぱり、正くんだ。久しぶりだね。」

「久しぶり…だね」

「どうしたの?そんな死人でも見るような顔して」

「…」

「なんで居るのかって、思うよね。」

「あぁ。」

「それはね、最後の奇跡ってやつだよ。」

「最後の、奇跡?」

「うん。正くんに会える最後の奇跡。」

「へぇ…。」


俺は半信半疑だった。目の前にいる君は触れられそうな程にリアルで、でも君は死んでいるんだ。

きっと、これは夢を見ているんだ。

「俺、疲れてるんだな。はは。」

「正くん、これは夢じゃないよ。ほらっ」

そういうと、君は俺の手を掴んで握る。

「ね?触れてるでしょ?」

確かに触れた、温かい君の手。君の体温が心の中に溶け込んで自然と涙が零れた。

それでも、

「…信じない。信じたら、きっともう、耐えられない。」

君が再び居なくなった時、君が死んだという事実を再確認させられる事になる。

「信じてよ。だって、私がここにいられるのは…」

「今だけなの…か?」

「ううん。四十九日間」

「結構、長いんだな…」

「そうだよ。だからさ、正くんと最後に思い出を作ろうと思って。」

「思い、出?」

「私を、あっちに行かせてよ。そろそろ。」

「そろそろ、って」

「ずっと、行けなかったの。正くんを残して行けなかった。でもね、」

ー私が、消えてしまう前に、正くんが次に進めるように、手助けしに来たんだよ。ー


それは、俺と君が最後にすごした忘れられない冬の物語。

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