20.遺書(完)

 この書き置きをキミたちが目にしているということは、おそらくわたしは生きていないだろう。

『文字喰い』と呼ばれる恐ろしいバケモノに、名前を喰われて殺されている。

 文字喰いは、その名のとおり、紙魚の如く文字をけしさってしまう。ヤツに名前の文字をうばわれると、死ぬことになる。

 キミたちは名前の文字をうばわれないように気をつけなさい。


 まずやらなければならないのは、一も二もなくテガキの書面をすてることだ。

 文字喰いは印刷された文字はけせない。

 マイニチつけていた日記を、まっさきに処分すべきだろう。プライベートな事柄が記載された日記は、文字をうばわれるだけでなく情報もうばわれることを意味する。

 日記だけではなく、テガキの書面があったなら処分をすすめる。

 もやしてしまって、田んぼや原っぱにすてるといい。


 危険なので、けっして犯人捜しをしてはいけない。

 かえりの連絡船がくるまで、部屋にこもっておとなしくトキがすぎるのをまったほうが良いだろう。

 文字喰いに文字をうばわれるスキを与えないことだ。ヤツ自身は文字を書くことができない。単体でいる間は、文字をうばわれる危険はないとみていい。

 いいかい、絶対にムチャをするんじゃないぞ。文字喰いはヒトと似た姿をしているが、ヒトではないのだ。

 たとえ無害な子供や女の子の姿をしていても、たとえ愛するヒトや知人と同じ姿をしていたとしても、似ているだけでちがう存在――バケモノだ。


 最後に、これだけは言わせてほしい。

 文字喰いに殺されるのは無念であるが、ヤツの存在を証明できることに満足はしている。

 わたしの友人の死が、文字喰いというバケモノによるものと証明できたなら、彼女もすこしは救われるだろう。

 それだけで大きな意味がある。

 キミの未来が幸多からんことを祈っている。


 【柄本大輔】

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文字喰い 丸田信 @se075612

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