「おまたせ。ごめんね。時間掛かっちゃった」


 抱きしめる。ふたり。


「いや。この天気で仕事を受けた俺が悪い。ごめん。ありがとう」


「あなたのスーツの匂いがする」


「雨が」


「大丈夫。すぐ雨はやむから。一緒にいようね」


 傘も差さずに。濡れるふたり。


「わたしのため、なんだよね?」


「狐の残党狩りの仕事でさ。宗教の影響を受けないとはいえ、君のいる街に、狐は入り込ませたくなくて」


「ありがとう。うれしい」


 雨。ゆっくりと、勢いが弱くなっていく。


「ねえ」


「うん?」


「キスして」


 キス。

 やわらかく、静かに。


「野菜ジュースの味がするな」


「さっき、レストランで飲んでたの。野菜ジュース」


「そうか」


「あなたが口移しで飲ませてくれたほうが、好き」


「帰ったら飲ませるよ。お礼に」


「うん。雨がやむまで、ゆっくりおやすみ」


 彼が、目を閉じる。

 スカートが濡れるのも気にせず、彼女は彼を抱きしめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨が止むまで、キスをして 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ