第6話 past.

 数年前。

 自分は、海外にある狐の本拠地を壊滅させる作戦のメンバーだった。

 いくつかの部隊に分かれ、別々に個人で本拠地入りして合流する手筈てはずだったのが、自分のところにだけ不運な攻撃があった。


 地盤沈下。

 ただ、攻撃目標は自分ではなかった。女がひとり、地下に孤立していて。狙われたのはその女のほうだった。後から知ったことだが、彼女は宗教の影響を受けない特殊体質を持っている。

 自分が見つけたとき、その女は何も食べることができず震えていた。平衡感覚喪失の恐怖による、一時的な摂食の不具合。口移しで野菜ジュースを飲ませたのを覚えている。


 それが、今の恋人。


 狐の方は、自分と彼女の二人を一緒に始末しようとしたらしい。雨が降ってきて、自分の心が壊れていくのを感じた。

 宗教の攻撃には、理屈で説明しにくいものもある。ただただ、とにかく雨が怖くなった。しかし、逃げられない。

 そのとき、彼女が守ってくれた。自分を抱きしめて、雨から守ってくれた。


 彼女は、自分を雨から守ってくれて。自分は、彼女に野菜ジュースを口移しで飲ませて彼女の命を繋いだ。


 今も、彼女は、自分以外の人間のスーツに接触することができない。地盤沈下の恐怖を思い出してしまうから。


 そして、自分は、いまだに雨に対して強い恐怖を持っている。

 土砂降り。

 心が恐怖で押し潰されそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る