15 青い城の予言者

 それからわずか20分後、サムとテリーは男爵低のリビングにいた。この間と違うのは、ホリアとエリカがいたことだった。男爵は、自分の家族とサムたちをさっそくあの飾り模様のついたおしゃれなエレベーターに乗せると、今日はB1ではなく、B2のボタンを押したのであった。

「地下は一年中18度くらいだから、みんなドレスの上に上着をはおったかな」

 みんな大きくうなずいた。女性陣はおしゃれなサマーコートをはおっている。

「パパ、先にネフェルのおばさまのところに行って、みんなが来るって言ってくるわ」

 ドアが開くと、そう言ってホリアが飛び出した。なんか嬉しそうだった。男爵が言った。

「墓場公園の地下を通って40メートルちょっとかな。途中に分かれ道が多いから。決してみんなから離れないようにね」

 そこは地下に作られた迷路のようだった。なるほど少しひんやりした空気がみんなを出迎えた。10メートルほど歩くたびに分かれ道があり、すぐに迷子になりそうになる。男爵たちと歩いていた通路は大理石の壁があり、さらにきちんとセンサーライトが設置され、近づくと明かりがつくようになっていたが、自然のままの洞窟のような通路や真っ暗な通路も多く、いったいどこに通じているのか…。

「ほら、もう到着だ」

 そのゲートの部分だけ、大理石が青みがかっていた。ルナサテリア夫人がインターホンを押した。グリフィスが言った。

「僕が設置した最新のインターホンだ。高画質の監視カメラもついてるよ」

「アナスタシア、私よ、ルナサテリアよ。みんなを連れてきたわ」

 すぐにドアが開いて、ホリアともう一人の女の人が笑顔で迎えてくれた。

「初めまして、アナスタシア・ネフェルと申します。ルナサテリアの姉です。よろしく」

 アナスタシアはルナサテリアとよく似ていたが、なぜか瞳の色が青みがかった銀色だった。まずは入り口から大きなホールに通される。城の中は天井が高く、古風な家具が並んでいる。グリフィスの話では、現在は電気やガス、水道も来ていてテレビやインターネットも見れるように工事もしたのだという。ただ照明は青みがかった暗めの照明で、なんとも不思議な雰囲気を醸し出していた。するとアナスタシアが言った。

「ルナサテリア、ミュリエルが言っていたわ。オルファーヌからお告げがあったの。今日の客人にはすべてを打ち明けていいと」

「本当?、でもオルファーヌからお告げがあったなら間違いないわね」

 その言葉を聞くと、なぜか男爵もグリフィスもほっとしたようだった。

「でも久しぶりのお客様で本当にうれしいわ。まずみんなに特別なお茶を出しますからこちらへどうぞ」

 みんなはそのまま隣のリビングへと移っていく。この銀の瞳のアナスタシアは、古代から伝わる薬草を使った秘術の専門家で、精霊の術を継承する魔法使いなのだという。

「今日は特別な人にしか出さない、秘蔵のハーブティーを出すわ」

 イギリスの特別な場所にある、数百年を経たエルダーフラワーからとったハーブに、さらに高価なローズエキスと、そこに薬草酒を加えた特別なお茶だという。

「私は初めてお屋敷に来たのに、こんなに特別な場所にお招きいただいて、しかもおいしいお茶までもらってもいいのかしら」

 エリカが少し遠慮しているようだった。するとホリアがそっとささやいた。

「実はミュリエルが、市長さんにとても会いたがっているの。だから私がお誘いしたのよ」

「そう、ならばよかったわ」

 エリカはそう言ってお茶をひと口飲んだ。

「おいしい…。こんな深い味のお茶は初めていただいたわ」

 すると上機嫌のアナスタシアは、銀色の瞳を輝かせてみんなにこう聞いてきた。

「みなさんは、社交ダンスとかは踊れるの?」

 サムが答えた。

「あれですよね、ワルツとかタンゴとか…。俺は、ちょっとなら踊ったことあるけど、下手っぴで…」

 するとテリーが自信たっぷりに答えた。

「大学のころ友達にサークルに誘われて…ひと通りは踊れると思いますよ」

「あらやだテリー、私得意なのよ、今度踊る?」

 エリカが盛り上がる。実はダンス、特にタンゴがお好きというアナスタシア、しばらくダンス談義で盛り上がった。

 するとホリアが喜んで先にミュリエルに知らせてくる、ミュリエルの用意ができたら歌で知らせると言って、うれしそうに部屋を出て行った。

すると一族みんなに愛されている男爵が、ぽつりぽつりと話し始めた。それはまさかの驚くべき発言だった。

「この青い城に住んでいるネフェル家は、中世の時代に、アナスタシアの師匠に当たる高名な魔法使いから精霊の秘儀を受け、不老不死の一族となったのだ。その秘儀のおかげでアナスタシアもミュリエルも、20代から年を取らない。大ケガをしたりしなければいつまでもそのままだ。だがその秘儀のおかげで大きな制約も生まれた。ネフェルの不死の者は、直射日光を受けると全身に大やけどをして、命を失うこともある。彼らは何世紀もの間、薄暗がりの中でひっそりと生きてきたのだ」

そして男爵に続き銀色の瞳のアナスタシアが話し出した。

「ネフェル家は地方の王家として栄え、絶頂期には7人の伝説の騎士を従える名門でした。でも不死の一族として恐れられ、あるいは魔女裁判にかけられることもあり、だんだんと隠れて暮らすようになりました。ちなみに、私の夫も不死の秘儀を受けていましたが、フランス革命のときに暴徒に襲われて命を落としました。妹の結婚をきっかけに、我々は膨大な資産を整理し、アメリカに渡って、ここエッグシティに移ってきたのです」

魔法使いの秘儀…不老不死…魔女裁判、フランス革命で死亡…サムもテリーも声が出なかった。でも今度は男爵夫人、妹のルナサテリアが続けた。

「私ももう300年以上生きている。ヨーロッパで過去に2回結婚して、2回夫を看取ったわ。でもオズワルド・テンペストと出会って、この人ととなら一緒に死んでもいいって思ったの。だから結婚したときに不老不死は終わらせた。それでも私のほうが長生きしそうなら、男爵の死期が近づいた時、私も王家に伝わる秘儀の一つを使って一緒に死ぬの。今からとても楽しみだわ」

そう言うと、ルナサテリアはニコッと笑って男爵の肩をそっと抱いた。サムが何も考えずに訊いた。

「じゃあ、グリフィスやホリアも不老不死なんですか?」

「二人とも20才になるまでに、私とよく話し合って不老不死にならない道を選んだの。好きな人はみんな先に死んじゃうし、直射日光の下に出られないのは辛いってきちんと教えたの。とくにグリフィスはね、パパが大好きだから、パパが死んだあといつまでも長生きしたくないんですって」

ネフェルの王家はこのような不老不死や死人を生き返らせる秘術などを受け継いでいるのだという。そして現在、その秘術を極め、自らも超能力を持つというのが、アナスタシアの娘でグリフィスやホリアのいとこにあたるミュリエルなのだという。

そのとき、美しい歌姫の声が聞こえてきた。ホリアが歌っているのだ。

「ホリアはね、私たちが、歌が好きだと聞いて、新しい歌ができると聞かせに来てくれるの。今は私の指導のもと、すべてを浄化する特別な歌を練習中で、ここによく来て歌っているわ。歌で合図するって言ってたから、きっとミュリエルの用意ができたのね」

そうか、青い城の歌声はホリアの歌声だったに間違いない。

男爵やルナサテリアはここで待っているという。サムとテリー、そしてエリカはアナスタシアに連れられて薄暗い青のライトの廊下を通って、らせん階段を昇り、地上一階のミュリエルの部屋へと進んでいったのだった。

もちろん、どこにも窓がなく光は入ってこない。不思議な青色の照明だけが大理石の通路を照らしている。その時ミュリエルの部屋の前に、うっすらと人影のようなものが見えた。

「…あ、あれは…」

テリーが気付いて一瞬身構える。その二人の人影は、金属の触れ合うような音を出してこちらをじっと見つめた。テリーは一瞬心の中をのぞかれたような気がした。

「ミュリエル様、この者たちはみな純粋で光に近いものばかりです…ご安心を…」

そんなささやきが聞こえたかと思うと、その二人の人影は透き通るように消えていった。いったい何だったのだろう。アナスタシアがほほ笑んだ。

「青い城を守護する7人の騎士のうちジーグとエクトルの霊があなたたちを見に来たのよ。彼らはいつも鎧や剣を身に着けているから、あんな音がするの。ああやっていつも私やミュリエルを守ってくれるの」

確かに二人の人影を見たサムは、いつか必ず記事にしてやると心に誓った。

ミュリエルには予知能力があり、さらに占いの能力も高く、一族みんなから信頼を集め、この国の発展にも実は大きな貢献をしているというのだ。

「あの子はね、とにかく人の役に立ちたいと、超能力を使って何回も大災害や歴史的事件から人々を救ったの。幽体離脱をして道に迷う人に希望の星を指し示したり、南北戦争の時や第一次世界大戦の時などは、たくさんの子供たちを救ったし、キューバ危機の時とか、最近のいくつものテロ事件とかはね、予言や占いで大統領の相談に乗ったりもしている」

なんかとてつもない話だが、嘘を言っているようには思えない。

「ミュリエル、入るわよ」

「どうぞ。お待ちしておりました」

中に入る。ホリアが出迎える。中には水晶やパワーストーン、宝石などの神秘的な置物や天球図などが輝いて見えた。

「今、ミュリエルはエリカさんの未来を超能力で見ていたところなの。やっとビジョンが見えたので、みんなを呼びなさいと指示が出たところよ」

部屋の奥には古代の紋章の描かれた衝立のようなものがあり、ミュリエルはその中にいるらしく、まだ姿は見えない。

「まずはサムさんからね。こちらへどうぞ」

サムが珍しく黙って歩き出す。みんなもその後ろをついていく。若い女の声が聞こえる。

「サムさん、あなたが知りたいことや、確かめたいことがあるなら教えてください」

「ええっと、僕は今まで3回ほど、美人の少女の幽霊に手招きされているんです。都市伝説バスターズなんてのをネットでやっているから、なんか霊がついたんじゃないかと、とても心配で、もやもやしてるんです」

「では、こちらへどうぞ」

サムがゆっくり近づいて行った。珍しく緊張しているのが分かった。

「答えはここにあります」

衝立の中をのぞいたサムは息が止まるほど驚いた。

「私がミュリエルです」

衝立の中にいたのは、あの超絶美少女その人だった。幽霊でもなんでもなく、確かに生きてそこにいた。しかし、今日も神がかったように美しかった。

「美しい…あなたでしたか」

サムの言葉に、ミュリエルは、自分の胸元から金色のペンダントを引っ張り出して見せた。テリーが、エリカが驚いた。そこにはあの光の古代文字が刻まれていた。

「美しいと言ってくれてありがとう。でもあなたが私を美しく感じるのは、このオルファーヌの光の紋章のせいね。これを長く身に着けていると、自分のことより他人の幸せを願うようになり、厳しいけれどそれを実践することで神の波動を受け取れるようになるの」

神の波動を受け取れるとはどういうことなのだろう。

「すいません、あなたも不老不死なんですか?」

「はい、ヨーロッパにいた時もここでも、この青い城で200年以上生きています」

200年と聞いて、テリーは唖然として何も言えなかった。どうみても16か17ぐらいの少女にしか見えない。でも、サムは違った。

「ちょっとお聞きしたいんですが、外に出ないで退屈しませんか?」

するとミュリエルは輝くように微笑んだ。

「今はもう、ここでもテレビでもネットでも見れるしね。ここにいて、占いや予言をしたり、墓場パークの中にある7人の騎士の霊廟を回ったりするのは、みんなが喜んでくれてとても楽しいですよ。あと太陽が沈んでからこの付近を散歩したり、時々グリフィスが夜中にバスで街に連れて行ってくれて、社交ダンスを踊ることもあるんです」

それを聞いてサムは思わずグリフィスに言った。

「えっ、もしかしてあの霊柩車みたいな幽霊バスを運転していたのグリフィスなの?」

「ああ、誰にもバレないようにコースの選定から信号待ち時間まですべて計算して、うちの家族やネフェルの家族を古いビルまで運んだんだ。苦労したよ。それからあのバスはね、アナスタシアが昔乗っていた馬車をもとにデザインしたんだ」

そうだったのか。さらにミュリエルは続けた。

「それに私、魂を体から飛ばしてあちこちを見て回る能力があるんです。好きな時間に好きな場所に行けるので、退屈はしませんね。マスターのいるエッグベースにもときどき行ってるし…」

タンゴダンスビルの謎もわかってきたし、幽霊バスも真相がわかった。エッグベースで見かけたのはそういう訳だったのか…。最後にミュリエルはサムに言った。

「安心して、サムさんにはあなたの行いが正しかったおかげで、よい霊がついているの。あなたに協力したり、何かの時には守ってくれる霊です。だから今は悪い霊はついていません。でもあなたの行いが悪くなったり、あまりに危険な場所に行けば、もちろんすぐに危険になります。今まで通りのペースで、無理をしないほうが良いですよ。いいですね」

「わかりました。気を付けます」

サムは結果がよかったのでとても安心したようだった。

さらにそこにテリーとエリカが呼ばれた。どうしたのか、テリーもエリカも特に確かめたいことはないのだが…。

「実は今夜、偶然皆さんがここにお揃いになったので、ぜひお話をしておかなければならないことがあるのです」

そしてミュリエルの会話が核心へと触れたのだった。

「実は、このエッグシティには、近い将来大きな災害が起きます」

みんなの間に驚きと緊張が走った。突然のことに、市長であるエリカの目の色が変わった。

「それは、いったいどういうことなのですか?」

「ウソではありません。このまま何もしないで放っておけば、このエッグシティでは、住宅地の多い中央部から北部で数万人規模の死者が出ます」

数万人規模の死者…。誰も何も言えなかった。ミュリエルの言葉には絶対的な重みがあった。

「大地が揺れ、住宅が木の葉のように次から次へと舞い上がるビジョンが見えます。さらに…」

その時、エリカの心にたくさんの住宅が、ビルも一戸建てもすべて、木の葉のように舞い上がり、吹き飛ぶ映像が本当に見えてきた。

ミュリエルはサム、テリー、そしてエリカの顔を見回して言った。

「災害だけではありません、エッグシティに駐留する軍隊が、なすすべなく撤退していく映像も見えます。いま、私たちのいるこの南部でも、信じてもらえないようなとんでもない戦いが同時に起こるのです。でも、それをなんとかできないかと、私なりに探っていました。そしてやっと、やっとのことで見つけたのです、希望の光を。あなた方三人を」

ミュリエルはみんなをまっすぐに見つめて言った。

「運命の日は意外にすぐにやってきます。エリカさん、あなたが困難を乗り越えて市民たちをこのエッグシティから速やかに脱出させなければなりません」

だがその話を聞きながら、エリカは廃工場に立てこもり、話し合いにも応じないあの反対派の市民たちを思い浮かべていた。

「サムさん、あなたはこの南部の町で起こる、信じられない戦いで、重要な役目を持つことになるでしょう。その勤めをやりぬいてください」

「重要な役目…。でも、僕は戦いだなんて…」

「安心してください、グリフィスさんも一緒です」

とたんにやる気が出るサム。

「そしてテリーさん、あなたはその時大変な困難に出会うかもしれません。でも、あなたが全力で行った努力は、どんな結果を生もうとも、人類の希望になるでしょう」

その時、テリーはミュリエルの透き通った瞳をただ見つめていた。そこには何の曇りも嘘もなかった。

「わかりました。全力で取り組みます」

するとミュリエルが、エリカに再度告げた。

「それでは今私の心に降りてきた予言の言葉を述べます。特にエリカさん、心して聞いてくださいね。…天災が起こるとき、強き者、大いなる者の鎧は重く、故に最後の一歩を踏み出すこと能わず。だが、わが身を捨てることをいとわぬ真に強き者は、光の階段を昇り、用意された席に座れるであろう」

エリカはやはり全く分からなかったが、自分は真に強き者には、なかなかなれそうにないと、ふと思った。

するとエリカが少し厳しい目で質問した。

「承知しましたミュリエルさん。でもその災害とはいったい何なのですか。地震だとか、台風や山火事だとか…」

するとミュリエルは慎重に答えた。

「地震でも台風でも山火事でもありません。たぶんそれを詳しく語れるのはテンペスト男爵でしょう。あの方は、すべてを救おうとして日々努力している。私の偉大なおじ様です」

そしてミュリエルの話は終わった。みんなは男爵たちの待つ地下一階へと歩き出した。

「ミュリエルが嘘を言っているとは思わないけど、言葉を聞いた後でもまだ信じられない。何もしなければ数万人が死ぬなんて」

エリカがそうつぶやくと、テリーが声をかけた。

「でも、僕たち三人ががんばれば、誰も命を落とす者はないかもしれないんだろう?!、そのために僕たち三人はここに来たんじゃないのか…」

「そうね、そうよね。ありがとう。テリーといると、心を強く持てる気がする」

そして三人はアナスタシアとホリア、グリフィスとともにもとのリビングに戻ってきた。

「そうか、エッグシティの災害のビジョンが出たか…。わかった、改めて2日後にきちんと話をしよう。いやなに、2日後にサンジェルマン伯爵がたまたま来るんでね。さらに詳しい話ができると思うんだ」

「サンジェルマン伯爵ってこの間来ていた人ですよね。いったい誰なんですか?」

そうテリーに聞かれて、男爵は少しおいてからとんでもないことを言い出した。

「未来人だ…。さあ、もう今日は引き上げよう。夜おそくまで付き合せて悪かったね」

男爵は、それ以上多くを語ろうとしなかった。予想もしなかった青い城での出来事にまだ胸がドキドキしていた。

帰り道みんなでがやがやしながら地下通路を歩いていると、一つの薄暗い通路から誰かが二人でこちらを見ていた。テリーがいち早く気が付いてサムに教えた。

「なんで地下通路に…。いったい誰だ」

ところが最初はいぶかしげに見ていたサムだったが、突然ニコニコしながら歩き出した。

「いやあ、あの時はありがとう」

最初は引き気味だった二人だったが、無理やり握手を迫るサムに押され、だんだん笑顔になっていった。

「いやね、テリー。僕の愛車が山の中で溝にはまって動けなくなったとき、二人で車を持ち上げて助けてくれた人たちなんだよ。暗い夜道で途方に暮れてたんだけど、あの人たちはライトもつけずに平気で助けてくれたんだ」

「ハハ、こちらこそ、あのお菓子はおいしかったよ」

そういって一人がポケットからゼリーボーンズの紙箱を取り出した、もうほとんど食べて残り少なかった。そしてみんなで手を振って見送った。

テリーがすぐ近くを歩いていた男爵たちに訊いた。

「あの人たち、いったい誰なんですか。青い目でプラチナブロンドですね」

すると男爵が笑った。

「もともとこの辺の洞窟で暮らしていた洞窟先住民の人たちだ。長い間地下に住んでいたので、地上の先住民と大きく異なり、すっかり髪の毛が銀色になって、瞳も青くなり、大きく発達したらしい」

 そうだったのか、でも態度も礼儀正しいし美しい人たちだとテリーは思った。

「もともと石灰の採掘場のある山から街の西側に沿っていくつもの洞窟があるんだよ。こっちが地下通路を作ったら、その彼らの住んでいる洞窟にぶつかってしまったってわけだ。こっちがにぎやかに歩いていたんで様子を見に来たんだろうね」

「へえ、そうだったのか…」

 するとグリフィスが付け加えた。

「いい人たちだよ。僕らは地底人って呼んでいる」

 グリフィスが小さいころ言いつけを無視して地下室で迷子になり、洞窟でさまよったとき、助けてもらい、それからは家族付き合いをしているという。今では光ケーブルが彼らの洞窟まで引っ張ってあり、何かあるとすぐ連絡が取れるのだという。

 それからまた、みんなでがやがやしながら屋敷のエレベーターまで歩いて行った。未来人がお客様でやって来て、家のリビングの下には地底人…。この屋敷はいったい…。テリーが首をかしげて歩いていると、エリカがテリーの手をぎゅっと握って引っ張った。

「さあ、テリーさん、これから忙しくなるわよ」

「もちろん。やり抜くさ」

 テリーもエリカの手をしっかりと握り返した。

 男爵邸のリビングに出ると窓には少しやせた半月が煌々と輝いていた。あの鼻の長い家政婦のバーゼルさんと、長身の執事のパーカーがみんなを迎えてくれた。

「もちろん、帰りも送らせてね」

 エリカの華やかな銀色のイブニングドレスが月の下でゆらめいた。サムとテリー、そしてエリカは男爵一家に見送られてテンペスト邸を後にした。

「テリー、これ、私の電話番号。ごめんね、メールやSNSは仕事用しかないの」

 自動車の中で、急にエリカが私的な携帯番号を渡してきた。テリーも自分の携帯番号を渡した。でも、自分から電話する勇気はまったくなかった。エリカは月の光の下でただただ美しかった。   (了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゼリーボーンズのお化け一家「青い城」 セイン葉山 @seinsein

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ