14 運命の女神

「うわあ、最初は地味だと思ってたけど…。サムのやつ、またすごいものを借りてくれたなあ」

 招待状を開けてみると、当然のようにフォーマルなどのドレスコードが記してあった。だが、観光地であるここエッグシティに、タキシードなどの礼服を持って来ているはずもなく、テリーが困っているとさっそくサムが動いてくれた。

「実は、遊園地のまわりにあるオフィシャルホテルで、俺好みの貸衣装があるんだ。サイズさえ教えてくれれば、俺がテリーにぴったりのスーツを借りてくるぜ」

 じゃあ頼むということで、借りてきてもらったのだが、朝、ビジネスホテルに届いていたスーツはなかなかのものだった。最新の素材を使ったレインボウシリーズの、オーロラブラックというスーツで、黒いきちんとしたスーツなのだが、光に当たると虹のような光沢が輝くというもので、特にこのスーツは、強い光が当たるとオーロラのような赤や緑の光が浮かび上がるものだった。

「どうですか、マスター。おかしくないですか?」

 マスター自慢のコーヒーを飲みながらテリーが訊いた。

「シックだし、ドレスコード違反にはならないと思うよ。意外と派手でおしゃれかもね」

 と、そこにサムが入ってきた。

「おお、テリー、やっぱ似合うね。俺の見立ては間違っていなかった」

 早速サムのスーツ姿を見せてもらうと、マイケルボーンズやスカルマリアのイラストが銀ラメで輝く相当なもので、もっとずっと派手だった。

「まあ、スーツを借りた場所が、遊園地のオフィシャルホテルだからね。でもきっと、会場に行けば盛り上がるよ」

 まあそうかなと無理やり自分を納得させて、テリーはいつものサムの小型車に乗り込もうと外に出た。だがそのとき、後ろから誰かが声をかけた。

「ねえねえ、よかったら一緒に行かない?」

 リムジンで乗り付けたエリカだった。シルバーのドレスがドキッとするくらい綺麗でセクシーだった。

「いやあ、いいんですか?じゃあお言葉に甘えて」

 サムがさっさとテリーの手を引っ張り、リムジンに乗り込む。あたふたとテリーが乗ると、リムジンは走り出した。なんでも二人が貸衣装のことでおとといから騒いでいるとマスターから聞き、一緒に行こうと計画していたらしい。

「あれ、あのブレスレッド、今日もしてるんだ」

 するとエリカ市長はニコッと笑った。

「だって、あの博物館を作ったのはテンペスト男爵、リニューアルに尽力したのは息子のグリフィス・テンペスト氏、そうしたらルナサテリア・テンペスト夫人のアクセサリーをしていかなきゃ、ダメでしょ。私このアクセサリーは昔から憧れていたんだけど、お高くて手が出なかったのよ。そうしたらプレゼントされて、もうナイスなタイミングね!」

 なるほど、そういうわけか。でも、それって、もしかすると…。

 やがて、夢のようにうっとりするような夕日を見ながら、リムジンは会場に到着、待ち構えるマスコミのフラッシュを浴びながら、三人は会場に入っていった。

 リニューアルされたからくり人形博物館には新しい展示室のほかに、オペラ座のような大ホールが完成し、ここでからくり人形によるいろいろなショーが行われるという。

 第一部の式典や記念イベントは大ホールで行われるということで、劇場の入り口から入場だ。受付で招待状を渡していると、受付の女の人から話があった。

「都市伝説バスターズで有名なサム・ピートさんですね。実は…」

なんだろう、のぞき込むテリー。サムはニコニコしながら生年月日かなんかを紙に書いている。これが後で、サプライズプレゼントとなるらしい。

そのとき会場がどよめいた。

「世界的シンガーのホリアだ。実物はめちゃくちゃかわいいぞ」

大仕掛けの舞台や奇抜な衣装、ミュージカルとオペラを融合させたネオオペラという芸術的な演目で今をときめく世界的なシンガーだ。このエッグシティ出身のアーティストだとは全く知らなかった。フワッとした純白なドレスに、あばら骨のような優雅な曲線を持つ不思議な髪飾りをつけている。サムより年下で、瞳が大きく愛らしく才能豊かな知的な感じもする。

「ハーイ、エリカ市長、お久しぶりです」

ホリアの方から親し気に挨拶を交わしてきた。笑顔で答えるエリカ。ルナサテリア夫人も出てきてにこやかに微笑む。

「あら、今日は二人でおそろいね」

なんとエリカのブレスレッドとホリアのブレスレッドが同じスカルパールだった。ルナサテリアは、エリカのすぐ後ろにテリーが立っていることに気付き、素早くテリーにささやいた。

「そういうこと?、応援するわね」

悪い予感が当たった。テリーは顔を赤くして、何も言えなかった。そのまま大ホールに入る。サムとテリーは二人並んで3列目の特別席だ。まわりには街の名士たちや外国からの招待客が集まっている。

「ほう、新しいけど、昔風のしっとりとしたいいホールだね」

最新のテクノロジーが使われているようには見えない、木調の落ち着いた室内、舞台の幕がゆっくり上がると、なんとプレゼンテーションの大画面の前に、テンペスト男爵本人が立っていた。舞台の隅に立つ司会者から紹介があると、男爵は、自分でマイクを手に取り、とつとつと説明を始めた。画面にはそれに関係した写真や動画が次々と映る。

もともとからくり人形が好きで、日本やヨーロッパのコレクションを持っていたこと。ゼリーボーンズのキャラで、からくり人形を作ってみようと思ったこと。

「そこで私が最初に作ったマイケルボーンズのからくり人形がこれです」

なんということ、この天才は独学でカラクリ人形を学び、自分のアイデアを本物のカラクリに作り上げてしまったのだ。

舞台に愉快なガイコツの人形が運ばれてくる。背中側を向けると、そこから支える棒やいくつもの操作ケーブルのようなものが伸びている。

「これが最初のマイケルボーンズのタップダンスショーの人形です。ケーブルの中のピアノ線を三人がかりで操縦して手足を動かしていたものです」

昔の映像が映る。舞台に三つの棺桶が立てかけてあり、ギィーっという音ととともにふたが開く。すると3体のガイコツ人形が飛び出し、挨拶したり、音楽に合わせてタップダンスを踊ったりするのである。背中の支え棒やケーブルは観客からは見えず、突然棺桶から飛び出したガイコツが踊っているようにしか見えない仕掛けだ。

「これが今回のリニューアルによって新しく生まれ変わりました。では次のプレゼンターを紹介しましょう」

すると、蝶ネクタイでパリッと決めた若い男が出てきた。お客に向かって両手を上げてアピールすると、その瞬間、シルクハットから、花火やら紙吹雪やらが噴き出す。司会者が叫ぶ。

「若きロボット工学博士、グリフィス・テンペスト!」

なんとあの恥ずかしがり屋のグリフィスが出てきた。なんだか別人のように表情が硬い。

「ええっと、新しいからくり人形博物館のために、僕は5つの発明や工夫をしました。まずは棒人形ロボットです」

すると、細い棒と三つの箱だけでできた細いロボットが舞台を歩いてやってきた。頭と胸、腰に小さな小コンピュータや動力の入っている箱がついているだけで、あとは全身棒と関節だけだ。

「バッタやカブトムシの細い脚や関節を研究して作りました。この細い棒の中に、体を支える骨格と筋肉と動きを指示する神経の三つの働きを押し込みました」

すると、今度は棒人間ロボットをもとに作られた最新のマイケルボーンズの人形が舞台の上手から歩いてきて、そしてみんなの前でくるりと回って見せた。

「これが棒人間ロボの細い体に骨のパーツを取り付けて作った、新しいマイケルボーンズ人形です。ほら、もうどこにもつながっていない完全自立型のロボットになりました」

そしてグリフィスが合図すると、さらに2体のガイコツロボットがやってきた。

「二つ目の工夫、それはカメラで撮影するだけで、本物のダンサーが踊った通りに動ける動作コピーシステムを工夫したことです」

するとさっそく三体のガイコツ人形は動作の乱れなく、全く同じ動作で、タップダンスを踊ってみせた。会場から拍手が起こる。

「三つ目の工夫、実はリニューアル前の博物館には、小人ロボットに着ぐるみを着せて演技させるという人気コーナーがありました。三つ目の工夫は、小人ロボットを改良し、さらにドローンロボットを開発したことです」

すると身長60センチほどの小人の人形が隊列を組んで入場だ。サムの意見では昔より、顔の表情が豊かになり、はるかに生き生きとかわいらしく動いているという。

「おやまたガイコツ人形が来たぞ。動きがちょっとふわふわしてるね」

するとそのガイコツは、小人とぶつかって転び、、骨がばらばらになってしまった。ところが頭からスウーっと立ち上がると、また骨がすべてくっついて復活だ。

「あ、なるほど。頭がドローンになっていて、その推進力で胴体や手足を持ち上げて進んでいるのか。転ぶと骨をつないでいる糸がゆるんでばらばらになり、立ち上がるときはドローンが上昇しながら糸が縮んで復活するんだ」

さらに半透明の体で悲鳴を発しながら飛び回る、ゴーストのドローンロボットも迫力だし、最後に飛んできた超小型の透き通った羽の妖精のドローンロボは、美しくて超かわいかった。

「そして4つ目の発明、この棒人間ロボットに空気で膨らむゴムの部品を取り付けて、わからないようにカモフラージュするとこんなことができます」

そしてグリフィスは急に苦しみだした。

「え、え、え、いったいどうしたの?…うおおおおおお!」

最初、意味が分からずキョロキョロしていた観客、グリフィスは突然苦しみだすと次の瞬間、顔面の皮膚が破れ、瞼が膨らんで昆虫のような赤い複眼となり、頭にニョキニョキ羊のような角が生え、あっという間に怪物に変身してしまった。怪物が叫んだ。

「4つ目の工夫、それは変身機能です」

驚く観客。ゴムで作った怪物の部品を空気で一瞬にして膨らましたのか。だが、じゃあ、グリフィスはどうなったの?!すると舞台の袖からなんと本物のグリフィスが現れ、すたすたと近づくと怪物の首のところをカチっと外し、怪物の首をスポット取ると、中から棒人間ロボットが現れた。気づかなかったが、怪物も最初に出てきたグリフィスもこのために用意されていたのだ。

「ふう、驚いた。でも、恥ずかしがり屋のグリフィスが堂々とよくしゃべるからおかしいと思ったんだ。ロボットがしゃべっていたのか?!」

サムもしてやられたといった感じで喜んでいた。

次に、リニューアル後のからくり人形博物館の、CGによる立体的でリアルな映像が流れた。

1、展示エリア。からくり人形の歴史、貴重なコレクションと実演。

この間、ミステリーランドで一部展示されていたからくり人形コレクションだ。実際にはその3倍ほどの展示があるらしい。

2、体験エリア。からくり人形の仕組み、コントローラーによるからくり人形の操作体験。2‐1、ホネホネアスレチック。ガイコツを操って、墓場や魔界をイメージしたコースを進む。落ちたりぶつかったりするとホネがばらばらになる。2‐2、イモ虫レース。モコモコ進むイモ虫で葉の上や枝をつたってゴールを目指す。1位になると、さなぎから蝶にからくり変化し、最後は空を飛べる。

3、大ホールでのからくり人形によるショー。これからこの大ホールでホリアがショーで見せてくれるのだ。

すると突然、舞台の大画面に魔法陣のような不思議な図形が床に描かれた部屋が映った。

「観客の皆さんこんにちは、レポーターのチャールズです」

驚いた。その部屋の隅に、あの歩く卵チャールズがマイクを持って立っている。卵の上のほうに賢そうな瞳がパチッと開き、瞳の少し下の口が動いてしゃべりだす。

「ここは体験エリアの運命の女神の部屋です。ここでは楽しみながら詳しい星占いを受けることができます」

テリーは何気なく観客席を見渡してみる。観客の誰もが、あれは卵型の着ぐるみだと信じているようで、誰も疑いの目を向ける者はいない。

「床を見てください。12に仕切られた大きな円が書いてありますよね。これ、実は直径10メートルある、星占いで使うホロスコープ、星空のどこに太陽や月、惑星たちが位置しているかわかる図なのです。でもからくり人形博物館では、このようになります」

まず、床に描かれた12ある部屋には12の星座のシンボルマーク、さらにおひつじ座とかおうし座とかの12のシンボルの動物などの美しい彫像が配置されている。よく見ると精巧なからくり人形であり、その部屋で重要な運勢の動きがあると、光ったり動いたりするそうだ。

さらに太陽と月、10の惑星、水星、金星、火星などの輝く惑星の模型をかかげた神話の神々が、それぞれの星の運航の法則にしたがって盤面を、12の部屋を厳かに歩いていくのである。神々の像は、ギリシアやローマの古代の神像をもとに作られており、特に、金星をかかげるビーナスの優雅さや、木星をかかげるジュピターの神々しさは特筆ものである。

「占う人の生年月日や時刻をこの部屋で声に出すだけで、その日のその時刻に、太陽や月、各惑星が空のどの星座のどの辺りの角度にあったのか瞬時にわかり、それぞれの星の模型は神々とともにその位置に移動するのです」

しかも星と星の角度によって、その星の持つ運勢が強くなったり弱くなったりすることがあり、その意味が大きい時には、その惑星の神が光り輝くというのだ。

「では試しに、今日会場に来られているお客様の一人、ネットで有名な都市伝説バスターズのサム・ピートさんの生年月日を打ち込んでみましょう」

するとホログラムの円の中心に、床から光り輝く運命の女神の彫像がせり上がってくる。卵レポーターのチャールズが、その運命の女神にサム・ピートの生年月日のデータをそっと伝える。すると床の12の星座のシンボルたちが光り、太陽、月、惑星の模型が神々とともに動き、神々の彫像も光り輝いて、サムの生まれた日の星の位置と運勢が部屋全体に表現されたのだ。そして運命の女神から重要な運勢ワードが告げられ、詳しく運勢の書かれた紙が瞬時にプリントアウトされて渡されるのである。

「運命の女神が告げたサム・ピートさんの運勢ワードは、思い起こせ、特に来月の新月の日には運勢の節目で大きな変化が訪れるとあります。そんな時でも冷静に、何が大事か思い起こすのが大事だと言っています。さて私、レポーターのチャールズは、このあとそちらに行って、このプリントをサム・ピートさんに渡そうと思います。みなさん、どうもありがとうございました!」

テンポの良い、よくまとまったレポートだった。そして画面は消えた。

「いかがでしたか。新しくなったからくり人形博物館をお楽しみください」

本物のグリフィスのセリフはそれだけだった。そして若き天才学者は拍手喝さいを受けながら、舞台を去っていった。

すると司会者がさっと出てきて言った。

「では、いよいよ世界の歌姫ホリアとからくり人形によるマルチオペラ『7つの王国』の中から、二つの場面をご覧ください!」

巻き起こる拍手と声援の中ゆっくりと幕が上がる。

マルチオペラって何だろう?テリーは今日の演目のパンフレットに目を通した。

マルチオペラ…舞台を中心に映画、ドラマ、コンサート、ビデオゲーム、小説などいろいろなメディアで同時に本編、外伝、エピソード、楽曲などを展開する、クラシック要素を取り入れたミュージカル的な総合アート。ホリアが最初に始めたと言われている。特徴はメインコンテンツが、舞台で行うオペラで、主演女優が歌って演じるオペラであるということで、今回の演目「7つの王国」では次のように設定されている。

バックストーリー…環境破壊や愚かな戦争によって人口を半分以下にまで減少させてしまった惑星アロマリア。滅亡の時代を経て、現れた7人の賢王によって、破壊兵器や科学技術は打ち捨てられ、自然とともにい生きる時代が始まった。中央大陸は7つの王国によって納められ、新しく発達した魔法科学によって、1000年の間、平和で穏やかな時代が続いた。主人公ホリアが演じるのは、7つの王国の一つ、精霊国ネロミネアの王女セフィア、失われた魔法を発掘し暗躍する黒の魔法士と魔人、邪悪な地下の闇王、7つの王国からやってきた英雄たち、魔獣の出現、軍団の闘争、裏切り、渦巻く陰謀に飲み込まれていくセフィア、そしてその恋…。

驚いたのはメインストーリーと楽曲の作詞作曲をすべてホリア自身が行っているということ、彼女はそれをしごく当たり前のように創る天才らしい。

まずは今日の前半の場面「王女セフィアの旅立ち」だ。ホリアが精霊族の王族の衣装で登場。舞台は立体映像装置で突然、静かな森の中へと変貌する。

ある朝仲間を率いて、不穏な動きを始めた北の王国カリアムへと旅立つことになった、王女セフィア。

「木々のざわめきが、鳥のさえずりが教えてくれる、昨夜の不吉な赤い星の意味を…」

静かなアリア「森が教えてくれる」が舞台に響く。雄大な風景がゆっくりと舞台を流れてゆき、花が咲き乱れ、あの小型のドローンを使った空気の精シルフィードが何人も出てきて会場を飛び回る。さらに、旅の仲間たち、聖剣の女戦士、弓の名手、怪力の格闘士、少年魔法士たちが集まってくる。

だが音楽がそこで急に変わり、それを邪魔しようと送り込まれた闇の魔人ドレイクアイと部下の闇の兵たちが襲い掛かってくる。王女危うし。でも仲間のそれぞれが得意技を駆使して最初の敵を撃破。みんなと誓いを立て、いよいよ王女の旅が始まる。

ホリアの歌声だけでなく、各登場人物たちの個性的な衣装、殺陣やアクション、また、的を射抜く矢や、ドラゴン変化する魔人、魔法の火の玉が飛び交う舞台の仕掛けまで楽しめる。テンポもよく、あっという間に物語が進み、飽きさせない。

そして今日の後半は「地下神殿の悪夢」だ。闇王の陰謀を知り、地下神殿に乗り込む王女と仲間たち。だが地下神殿の入り口で、王女が密かに愛する王子グリークに変装した闇の魔法士のだまし討ちに会い、仲間たちはばらばらになる。そこに襲い掛かる地下の巨大な人喰い虫の群れ、闇の騎士団、やっとのことでみんな集まることができるが、リーダーの女戦士が仲間を助けるために瀕死の重傷、神殿の門が閉ざされ、怪力の格闘士と少年魔法士も再び姿を消す。

ここでまたホリアの熱唱、「天が堕ち、地が裂けようとも」が流れる。決してあきらめない王女の心が奇跡を起こし、大音響とともに怪力の格闘士によって地下神殿の門が開く。少年魔法士のエリクサーによって女戦士も復活。

だがそのころ、地下神殿の中では秘密の儀式が行われていた。シリーズを通しての最大の敵の一人、黒の魔法士ファンデモニウスが、王女の髪からもう一人の闇の王女を作っていたのだ。地下神殿の突入に成功したものの、舞台には、こちらもホリアが二役を演じる闇の王女が登場、CG映像なのか、ロボットが演じているのか判別つかぬまま、二人のホリアの合唱となり、やがて1対1の戦いとなる。そしてここですごい見せ場がある。なんと二人のホリアが翼の魔法で空中に飛び上がり、軽やかに空中戦を繰り広げるのだ。戦いは引き分けとなるが、王女と仲間は地下神殿から脱出に成功する。闇王は、闇の軍団を呼び出し、追撃の用意を始めるのだった。

最初、同じ黒ずくめの衣装で登場した闇の軍団は、闇王の呪文で突然舞台で、観客の前でリアルな変身を始めるのだった。

まず二人の闇の兵士は、顔の皮膚が破れ、頭が圧縮空気で膨らみ、一人は長い角のヤギの頭、もう一人は複眼の大きなハエの頭に変化。トリックはわかっているが、すごい迫力だ。次の二人の男女は口が裂け、牙が伸び、女は髪が太く蛇に変わってメデューサとなり、男はウロコが浮き出てトカゲ男となった。

次の二人は皮膚がしぼんで変形していき、一人はガイコツ男、一人はミイラ男となり、次の二人は、腹がどんどん巨大化し、太ったガマ男と、8本の足が髭のようになったタコ男に変化。最後の二人は、上半身がどんどん巨大化していき、他の闇の兵士たちより二回りほど大きい、牛の怪物ミノタウロスと一つ目巨人キュクロプスとなった。

そこに闇の王女が不気味な歌と踊りを踊るガイコツ軍団を率いて登場、怪物たちの前でセフィア王女が愛するグリーク王子を奪おうと歌を歌いだす。

不気味に編曲しなおした「天が堕ち、地が裂けようとも」を妖しく歌い、どんな時もグリークは私のものと叫ぶのであった。そして怪物たちと闇の王女の合唱となり…幕となる。

熱狂的な拍手と歓声の中、ホリアと旅の仲間の俳優たちが出てきて挨拶、なんと今日のこの大掛かりな舞台、人間はこの5人だけで、あとはすべてロボットやからくり人形、プロジェクターの映像などだという。

ホリアのステージの興奮が冷めやらぬまま、レセプションホールで立食パーティーとなる。今夜は遊園地ミステリーランドのオフィシャルホテルバロンの高級レストラン「ビュゴン」と、おなじみのフルーツパーラーの「アンジェラ」が入っている。ビュゴンは、フランス仕込みの高度な肉の熟成技術を持ち、目の前でシェフが焼き上げる熟成肉のレアステーキが大人気だ。またお酒の入った大人の味と評判のアンジェラのフルーツのリキュールシロップ漬けや、ラム酒漬けフルーツジェラードも、なかなかお目にかかれない逸品だ。 

他にも各種サラダやスープはもちろん、ロブスターやカモ肉も手の込んだ上品な味わいで、フォアグラや白トリュフも極上品をフランスから取り寄せて使っているという。

「いやあ、エッグシティで本格的なフランス料理が食べられるとは思わなかったよ」

テリーがボルドーの赤ワインを飲みながらつぶやく。

「テンペスト男爵やルナサテリア夫人も、もともとヨーロッパの出身だから、ホテルに本場のシェフを呼んだらしいよ」

納得するテリー、和やかな雰囲気で会食は進んでいった。

そのとき、どこかでトランペットが高らかに鳴った。誰かが入り口からこちらに歩いてくる。黒の半ズボンをサスペンダーで吊って、革靴をはき、立派な蝶ネクタイまでつけているが、ひょこひょこ歩くその姿は、間違いなくあの卵だ。

「サム・ピート様、占いの結果をお届けに上がりました。チャールズでえす」

招待客が卵の姿になごみ、うれしそうに視線を送った。

すると会場のスポットライトがサムに集中した。例のマイケルボーンズとスカルマリアの銀ラメがぎらぎら輝いて浮かび上がった。そこに卵がちょこちょこ歩いて近づいていく。

長さ1メートルほどの白い卵に手足が生え、近くで見るとさらにかわいい。皮の手袋をはめたかわいい手で、くるくると巻かれて上品な赤いリボンでとめられたプリントがサムに渡された。

「ありがとう、チャールズ。大切に読むよ」

テリーも祝福しようと近づいたが、その瞬間、スポットライトに、七色に輝く黒いスーツから、赤と緑のオーロラが浮かび上がって輝いた。なぜか歓声が上がる。

チャールズは帰りしな、外国の招待客にも話しかけられていたが、驚いたことに、フランス語やアラブ語などで普通に会話していた。

さっそくプリントに目を通すサム。でも笑顔になったり顔をしかめたりと忙しい。

「うんうん、運命ワードは思い起こせで、8割ぐらいはいいことが書いてあるんだけど、2割ぐらいは注意することが書いてある」

するとそこへグリフィスがニコニコしながらやって来た。サムがとびつくように握手を求め、今日の発表は驚いた、ロボットがよくできていて全く分からなかった、などと称賛の声をかけた。

「ありがとうサム。いや、あの時ロボットには、3Dプリンターで作った僕のフェイスマスクが被せてあってね、口だけパクパク動くように仕掛けをしておいたんだけど、バレないかどうかずっとドキドキだったよ」

どうりで表情が硬かった訳だ。楽しそうな二人。だがグリフィスはさらにサムを驚かす。

「それでねサム、約束してた妹を紹介するよ。ホリア、こっちだこっち」

「はあ?!ホリアだって?」

驚くサムとテリー、さっきまで舞台にいたホリアが、世界的アーティストのホリアが、可憐なイブニングドレス姿に着替え、いま目の前にいた。

「サムさん、テリーさん、はじめまして。兄がお世話になってます。妹のホリア・テンペストです。よろしくお願いします」

 おっどろいた、予想できなかった。天才的な豊かな才能と輝くかわいらしさが同時にあった。そういえば、ルナサテリア夫人に目の辺りが似ているような…。そう考えてみれば、スカルパールのブレスレッドをしていても何の不思議もない。

「エリカさん、こっち、こっち」

 そしてホリアがエリカを呼ぶ。エリカがさっとテリーの隣に滑り込む。すごい取り合わせだ。グリフィスがサムに訊く。

「それでどうだったんだい、君の運勢は。当たっているのかい?」

「それが、それがすごく当たっているんだ。僕の好きなものにのめり込む性格も、誰にでも気軽に話しかけるところも、いろんなところが大当たりだよ。すごいねえ」

 そうするとグリフィスは自慢げに答えた。

「実はパパが、世界で一番当たるって言ってる、インドの占い師にライセンス契約を無理やり取り付けてさ、彼の30冊の著作やあらゆる知識、分析力を丸ごと人工知能に学習させたんだよ。当たるはずさ」

 すごい、やっぱりグリフィスの作るものだから、普通ではないと思っていた。

「そうなんだ。じゃあ、これはどういう意味なのかな。ちょっと気になるんだけど」

 サムが指さしたところには、こう書いてあった。…あなたを捜している不思議な人がいる。会うことができれば運が開ける…。

「僕を捜してる不思議な人って誰かなあ」

 するとテリーが思い出したようにふと言った。

「そういえば、エッグベースで見た美少女の幽霊、君に手招きしてなかったっけ…」

「ううん、そういえば…」

 思い出せば、あの超絶美少女の幽霊、動画に映っていた時も、幽霊バスで見た時も、サムを呼んでいるように見えた。すると意外な人がしゃべり出した。ホリアだった。

「あら、そういうことならうちのミュリエルに訊いてみればいいわ。彼女なら霊感占いもできるし、幽霊のことも詳しいし。ね、お兄ちゃん」

「そうだな。今日ならみんな来ているからすぐにでも会えるよ。パパに頼んでみようか」

「そうね、そうしましょう」

 グリフィスが男爵を捜しに駆け出した。なんだ、ミュリエルっていったい誰だ?

「うちのミュリエルって言っていたけど、お屋敷にまだ知らない人がいるの?」

 サムがたずねると、ホリアはこう答えた。

「いいえ、わけあって一緒には住めないの。あの人たちは青い城に住んでいるのよ」

「え…」

 そこにニコニコしながらテンペスト男爵がやってきた。

「ハハ、テリー君には今度青い城に案内するって約束していたんだよな。いいよ、いいよ。パーティーが終わったら、さっそく青い城に行こう。なあに、大して時間はかからないよ」

 そう、そして突然、今日このまま、青い城に行くことになってしまったのだった…。

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