第一章 生徒会のお仕事

 第一章 生徒会のお仕事 1


 「さて。ここが私たちが通う学校、都立異能専門学校だ。」

 学校周辺の名所を周れるだけ周り、きっかり一時間で学校に到着する会長の時間管理に俺は舌を巻いている。

 「今は入学式中盤といったところか。途中入場は気まずいだろう?ここはひとまず、生徒会室へ来るといい。こっちだ。」

 さっさと歩いていく会長に俺は付いていくしかなかった。なんせ俺は学校内の地図を把握しているわけではないのだから。正門から真っすぐ伸びる桜並木を通り、昇降口から学校内へ入ると、昇降口右手側にある階段から二階、三階、四階へ登る。そのまま真っすぐ廊下を行くと生徒会室と書かれた張り紙が張られた教室があった。

 「この部屋は会長、副会長、書記、会計、会計監査の五人の生徒会執行部が集まる部屋でね。ま、今は一応上級生も教室待機となってるから誰もいないはず……。」

会長はポケットから出した鍵を引き戸に差し、右に回すとかちりと音がする。ゆっくり引き戸を開けると、そこには……。

 「……あずさちゃんじゃないか。またさぼりかい?」

 中は仕事机が五つ並べられ、その一つに女生徒が座って何やら熱心にPCの画面を見つめていた。女生徒は腕にと書かれた腕章を付けて、眼鏡をかけている。髪型はショートで、会長とは打って変わっておとなしめの先輩だ。

 「紹介しよう。この子は斎藤梓さいとうあずさ二年生。生徒会執行部会計を担っている女生徒だ。まあ座り給え。目の前のお客様用のソファーにね。」

 目の前には向かい合った二つのソファーと、間に小さな机があり、なんとなく校長先生の教室を思わせる配置だ。俺がソファーに座ると、会長は俺の向かいに座り、何か丸いようなものを取り出す。

 「さて、恭弥くん。唐突で悪いが、生徒会執行部の会計監査をやってみる気はないかね?」

 会長が取り出したそれは「会計監査」と書かれた腕章だった。

 「本当に唐突ですね。それに、今入学してきた一年生に言うようなことでもないですよね?なぜ俺なんです?」

 「それはだな……」

 「会長、男子の支持率低いんですよ。女子の支持率は驚異の98%を記録しましたけど、男子の支持率は約35%。全校男子の7割、それも調子乗ってる陽キャ型の男子ばかりに目の上のたんこぶ扱いされてるんです。現に会長はこの7割の男子に会長就任時から今日までに127回も襲われています。陽キャが怖いから残り三割の男子生徒を執行部に誘おうとしてもやってくれないんですよね。でもこのままだと全員女子になってそれはそれでよろしくない。だからあなたに白羽の矢が立ったんじゃないですか?私はよく知りませんけど。」

 梓先輩から横やりを入れられた会長はさっきからうなずくばかりになっている。どうやら言いたいことを言われたらしい。

 「そういうことだ。それに、さっきの戦闘をみて思ったんだが、君私に異能をだろう?あの時確かに呼吸が合った。間違いない。執行部の人事は私に一切の権限があるんだが、他生徒と戦闘になる可能性はある以上、私と呼吸の合う生徒を起用している。それが男子ならなおさら執行部に欲しい逸材だ。どうだい?会計監査の仕事はさほど多くはならない。なんなら一か月お試し期間をつくっても構わない。頼む。」

 そう言って会長は頭を深く下げる。ここまで言われて、女子に頭まで下げられて、俺には無理ですと言えるだろうか?かっこ悪いことこの上ないじゃないか。

 俺は深くため息をつく。ここまで言われちゃしょうがない。なるようになれ、だ。……俺ってちょろい。

 「分かりました。そういうことだったらやりますよ、会計監査。だから頭上げてください。俺なんかに頭下げてちゃダメですよ。」

 「本当か!?ありがとう!君ならやってくれると思ってたよ!さあこれ!会計監査の腕章だ!」

 「私、まだあなたの名前聞いてません。監査なら私の右腕になるんですから、ちゃんと教えてください!」

 会長が顔を勢いよく上げてノリノリで安全ピンの付いた腕章を俺の右腕に付け、梓先輩は俺を揺さぶっている。梓先輩は思っていたよりずいぶん小さく、150は余裕で無いことに驚いた。

 「光国恭弥です、よろし……揺らすのやめてもらってもい……いったい!ほら安全ピン刺さったでしょ?!とりあえず離れてください!ほら!」

 「お。そろそろ入学式が終わるな。行こうか。恭弥会計監査。体育館まで案内しよう。」

 個性豊かな生徒会室を抜け、会長に連れられて体育館まで行く。体育館にはクラス分けが張られていて、それを見てクラスに移動するという形らしい。

 「生徒会室の位置は覚えているね?じゃあ、また放課後会おう。」

 そう言って会長は去っていく。後に取り残された俺はクラスを確認すると、一年生棟へ向かう。体育館を片付けている一人の生徒の視線に気が付かないまま。




 「そうです、それはそこに片付けてください。おい琴原ことはら書記ィ!お前椅子で遊ぶな!何歳児だお前は!」

 「違いますよー。私は椅子を楽しみながら片付けているんです。何事も楽しく出来れば最高だと思いません?!」

 「まだ一年生いるだろあそこに!執行部の威厳を損なうようなことやるんじゃない!」

 それは先生たちとパイプ椅子を片付けている二人の女生徒。一人はの腕章を付けた髪型ショートのボーイッシュ女子、もう一人はの腕章を付けたツインテールの女の子だ。

 「心音ここね副会長の演説、それはそれは見事でしたよ?あれなら事件起こすような一年生いないでしょうねー。」

 そんな雑談をしながらも、しっかりと椅子を仕舞う二人。

 「……ん?」

 ふとみた一年生の腕に付いている、。目を凝らすと、それの正体が判明した。

 「……はあ?!一年生が執行部かよ?!」

 「あらら~。本当ですね?」

 いつのまにやら隣にいた書記。二人の視線は腕章から、男子生徒の顔へ。

 「まあ、なんとなく悪いことは出来なさそうな顔してんな。」

 「結構失礼なこと言ってるって自覚あるかな心音ちゃん?」

 二人は椅子を片付けながら、会長の真意を考えるのだった。

 

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異能学校生徒会執行部 きょうかさんのお部屋 @kyo_kyokyokyo

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