異能学校生徒会執行部

きょうかさんのお部屋

序章

序章 迷い道に最強の美女を


 ……猫の声がする。辺りを見回すと見事な花を咲かせた桜の木の枝の上で子猫がうずくまり、悲しそうに、にゃー、にゃーと鳴いている。

 「……ランク2、【重力低下】 。」

 そう唱えながら俺は、重力が低くなり枝まで跳ぶことのできる自分をイメージする。そうして跳ぶと、子猫がいる枝まで一跳びで行き、子猫を抱いて地面へ戻る。

 「ほら。もう登るんじゃないぞ?」

 子猫がどこかへ走り去っていき、四月特有の温かな風が吹く。風で桜の花びらも散り、桜のシャワーを浴びながら少年は呟く。

 「……ここ、どこ?」

 完全に迷子になった。スマホは家に置き忘れ、誰にも連絡は出来ない状態。を使えばどうにでも出来るが。

 「まだ学校の異能判定受けてないもんなあ……。あんまり使ったら怒られるんだよなあ。」

 彼は真面目であった。

 と、突然目の前に何かが現れる。

 「むっ、すまない。異能専門学校に行きたいんだが、この通り、迷子でね。道を教えてくれると非常に助かるんだが。」

 腕に「生徒会長」と書かれた腕章を身に着け、髪の毛をポニーテールに結んだ華憐な少女が現れた。

 「(生徒会長……!確か二年生にして異能学校を牛耳る最強の異能者……!)」

 異能とは。個人の才能が分かりやすく具現化したもの。

 異能学校とは。中でも危険な異能を持つ異能者が集まり、指導を受ける全国十か所存在する、高校と同等の学校。生徒会長並びには生徒たちの問題行為を摘発しなければならないため高い戦闘能力が求められる。この生徒会長は間違いなく異能学校最強の生徒の一人だ。

 「……君、確か新一年生だろう。すまない。一年生の名前はまだ覚えきれてないんだ。名前を聞いていいか?」

 「光国恭弥みつくにきょうや、です。先輩は、あの……」

 「うむ。都立第一異能学校生徒会長、剣持美乃梨けんもちみのりだ。私はこの辺の地図は覚えていてね。迷うはずがないんだが……。今日は調子が悪いかな?」

 確かに。俺も異能学校までの道のりは何回も確認しているから迷うはずがないとは思っていたのだが、まるで迷い込むように迷ってしまった。

 「さてさて。恭弥くん。どうやら君を巻き込んでしまったようだ。。いるんだ。私が生徒会長に就任してから、こういう輩がね。」

 ……まあそうなるか。現に周りは白い霧に包まれ、一メートル先を見るのがやっとというところ。

 「光国恭弥、思い出した。魔法マジカルよりも魔法マジックだったかな?私の異能は近接戦には強いが搦め手には弱くてね。君の力が必要だ。……なあに、怒られはしないさ。私から先生方に話をしておこう。緊急事態でしたってね。」

 話している間に霧はどんどん濃く、深くなっていく。

 「……先輩。そこまで覚えてるんですか。正直引きますよ?……まあいいや。ちょっと待ってください。イメージします。」

 俺はこの状況を打破できるような魔法をイメージする。会長の近接戦最強、それを最大限発揮できる環境を作ればいい。

 「できました!魔法マジカルよりも魔法マジックスペルランク2!【正体顕現】!」

 イメージ通りに言葉を叫ぶと霧は一か所に収束し、みるみるうちに一人の人間の形を生み出していく。会長は俺が指示する必要なくそいつの元へ走っていく。

 「よくやった!【光臨せよ、光の刃!】聖剣!エクスカリバーァァァァ!」

 会長が差し出した手の中に光が集まり、光は剣の形を生み出す。光の刃はすでに人型へ変化した煙を貫き、煙を消失させる。煙が無くなった後には、今度こそ一人の男が気を失って横たわっていた。

 「……なるほど。あの煙はこの男、具体的には元康邦弘もとやすくにひろ三年生が纏っていた鎧のようなものか。私の聖剣でも斬れないのは異能者ごと煙に変化させ、実体を気体化させるからか。まったく。厄介な。」

 会長はその男を近くのベンチに座らすと、スマホを取り出しどこかに電話をかける。

 「もしもし?香苗かなえ副会長かな?いや不審者に襲われてしまってね。……そうそう、いつものやつだ。ここから学校へは……まあ一時間はかかるかな?え?そんなにかからないだろって?いやいや。実は光国恭弥新一年生を巻き込んでしまってね。……そう、多分入学式に来てないその一年生だ。その恭弥くんにこの辺のこと教えながら登校しようかなと。先生たちに事情を伝えておいてくれないか?……ありがとう。じゃあまた生徒会室で。」

 どうやらこの後、俺は街中を連れまわされるらしい。陰キャみたいなことを言うかもしれないが、こんな美女と街を歩いたらよくも悪くも目立ってしまう。それだけはごめんだ。俺はそうっと、会長の目線を切りながら移動し、いざ走りだそうとしたとき。

 顔面の横に一筋の光が走った。ゆっくり後ろを振り向くと会長が笑顔で聖剣を俺に向けている。

 「せ、先輩……?」

 「ん?恭弥一年生は私のような可愛い女の子の誘いを無下にするのか?さあ行こうじゃないか。私が案内しよう。」

 ---さっき迷子って言ってたじゃないか!

 会長は俺の首根っこを掴むとずりずりと引きずっていく。例外を除き、異能を使うのを禁止されている身に会長から逃げ出す手段を生み出すのは困難だ。俺はそのまま引きずられていった。



 「邦弘ォ。あのクソムカつく生徒会長を時点でお前に用はねえよ?まあこのまま置いといてもサツが来てお終いだろうけどな。俺の異能で文字通り、《ヤミ送り》な。」

 全身黒ずくめの男が左手を掲げると、気を失いベンチに座っている元康邦弘の体に闇が現れ、体が消えていく。まるで、闇が人間を喰らっているように。

 「女一人消せねえ奴は俺らにはいらねえからよ。《来世》ではうまくやるんだな?ま、俺の異能に喰われた奴に来世も何もないけどなあ?はっはっはっはっは!」

 楽しそうに笑い声をあげると、男の姿は春の朝に似合わぬ漆黒の闇に溶けて消えていく。あとには不気味な笑い声を残して。

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