蟲人魔術師の流浪譚

にゃ者丸

プロローグ

日本のいくつもの家庭、もしくは独身者が正体不明の心臓麻痺による不審死が確認された。

彼らは別に何らかの病に犯されていた訳でもなく、至って健康に暮らしていた。

それは三ヶ月経った今現在においても、解明されていない‥‥‥‥。






❖❖❖






 鬱屈とした森の中、倦怠感と共に俺は目覚めた。


 驚くことに、倦怠感とは裏腹に身体はすこぶる好調、むしろ今までよりも漲るようなエネルギーを感じる。


 だが、ふとした違和感から、俺は自分の手を無意識に見た。


 そして、静かに呻くようにため息を吐く。


 幾度も使身体だ。しかし、俺はそれにこそ疑問を抱く。


 俺は、VRギアを装着していないのだから。



――――――――VRMMORPG『ワールドコネクト』


 レベル制とステータスシステムを廃し、逆に多様な種族と豊富なスキル、そして広大な世界によって一躍VRゲームの頂点に君臨した‥‥‥ゲームだ。


 戦闘系か非戦闘系によって分けられる技能は万を越え、組み合わせに関しては星の数ほど存在する。


 単なるVRMMORPGなら、他ジャンルを差し置いて頂点に君臨するほどではない。だが、このゲームには他とは違う決定的なシステムがあった。


 『ワールドコネクト』には突飛した点が二つある。


 一つはNPCの知能。人間に匹敵する思考能力と確立した自我を持っている彼らは、もはや異世界の人間に変わらない。一説では、『ワールドコネクト』は世界シミュレーションを原点として生まれたのではないかと言われるほどだ。


 もう一つはスキル。これは主に三つに分けられる。


 一定の努力と修練を重ねる事で、プレイヤーであれば誰であれ必ず習得できる【技能アーツ】。


 何らかの条件や、特殊なアイテム、またはクエストをクリアする事で得られる固有能力【異能タレント】。


 そして、最後が種族共通の能力にして特性、例外を抜きにすれば、その種族のみの固有能力【種能パーソナル】。


 『ワールドコネクト』ではスキルのみレベル制を採用しており、一律でLv.1~5を標準とし、それ以上のLv.10が上限とされている。指標としてはLv.1で初心者、Lv.5で一流、Lv.10で達人だろう。


 『ワールドコネクト』がVRゲームの頂点に立てた理由は後者の中にある。


 それは、プレイヤーはゲームシステムに無い、全く新しいスキルを開発する事ができる、というものだ。

 無論、その為にはとあるアイテムが必要となるのだが。それは一先ず置いておこう。

 そのアイテムを用いる事によって、プレイヤーは『ワールドコネクト』の世界でただ一つのスキルを得る事ができる。


 公式ではプレイヤーが開発したスキルは【ユニークスキル】と称されて、運営側はスキルを開発する為のアイテムの情報を名前のみ開示した。


 『ワールドコネクト』に魅入られた人は多い。戦闘以外でも、ゲームの中でしか出来ない事が、夢が、『ワールドコネクト』にはあったからだ。



 かくゆう俺も、その『ワールドコネクト』に魅入られた人の一人なのだがね。


 さて、状況を確認しよう。


 今の俺の姿は‥‥‥『ワールドコネクト』の世界でもポピュラーな、しかしマイナーとも言える種族【蟲人族】の青年だ。


 皮膚の変わりに甲殻が───さながら昆虫の外骨格のように───身体を覆い、虫を人型にしたような姿形をしている。


 しかし、俺は地球の虫をモデルにしていない。この世界特有の種族【蠅王】と呼ばれる怪物をモデルとした【蟲人族】だ。


 黒い甲殻が身体を覆い、頭部は角のような突起があり、目の部分は赤黒いバイザーのようで、口は剥き出しの子供の拳ほどの歯が並んでいる。

‥‥‥ぶっちゃけ、悪の組織の怪人か、それともダークヒーローのような頭部だ。


 身長はだいたい2メートル位はあるだろうか。少し覗いて見たら鎧を纏っているような身体をしている。


 しかし、そんな凶悪な身体とは違い、服装はわりかし地味だ。


 黒褐色を基調に金糸で縁取られたゆったりとしたローブに灰色の袴のようなズボン。いや、これはサルエルパンツと言った方が分かりやすいか?


 目に見える所は全て確認したが‥‥‥‥やはり『ワールドコネクト』での俺の姿、【バアル・ゼビュート】そのもののようだ。


 何となくの感覚で分かるが‥‥‥何か大きな力が自身の胸の奥にあるのが分かる。意識すれば、まるで溶鉱炉をイメージするような熱いエネルギーだ。


 ゲーム内では漠然としたイメージしか無かったが‥‥‥これがMP、『ワールドコネクト』における全てに通ずるエネルギー源【魔力】なのだろう。


 なるほど、まるで血液のようだな。非常に興味深い。


────そろそろ状況の確認は良いだろう。


 どういう訳か。俺は【バアル・ゼビュート】の身体で、どこかの山奥にでも放り込まれたのだろう。

 無論、これは仮説に過ぎないが‥‥‥‥しかし解せない。


 俺はあの時、確実に


 原因不明の‥‥‥‥恐らく心臓麻痺によって。


 一体どういうことなのか。なぜ死んだ筈のワールドコネクトでの姿で生きていて、見知らぬ森の中にいるのか。むしろこの状況は夢なのか、それとも本当に‥‥‥俺はラノベで言う『異世界転生』にでもしたのか。



‥‥‥‥これは、深く考えてもしょうがないな。分からないならどうしようもない。そういう事だと受け入れるとしよう。


 なに、前向きに捉えればいい事だ。


 死んだ筈の俺は生きていて、しかも【バアル・ゼビュート】という強靭な肉体を持っているのだ。

 ならば戦士系や魔法系の技能が使えずとも、逃げるくらいなら出来るだろう。


‥‥‥‥‥今さらだが、普通に地球の人間と同じような【只人族】に設定しておけば良かった‥‥。


 ま、まあしょうがない。むしろ好都合だ。


 【蟲人族】は天然の鎧と状態異常に対する高い耐性を持っている。自己治癒能力や身体能力も高い。夜目も効く。これは‥‥‥控え目に行っても最高と言えるんじゃないか?


‥‥‥‥‥願わくば、この世界が地球じゃなくて『ワールドコネクト』のような世界でありますように。もしくは【蟲人族】が普通に人類として存在する世界でありますように‥‥‥。






❖❖❖






 こうして、【バアル・ゼビュート】として生きていく事を決めた俺は、森を抜ける事を目標に行動するのだが‥‥‥‥。


 とある【獣人族】の少女と出会いを果たし、この世界が『ワールドコネクト』の世界に似た、もしくはそれそのものの異世界なのだと知る。


 それから何やかんやあって森を抜けて。何やかんやあって人里の街に行き、何やかんやあって冒険者となる。


 そう、これは俺の物語。この世界で一人の研究者にして冒険者として、この世界の謎を解明したり、自分の好きなように世界を旅する、流浪の物語である。



「ちょっと!私の事も忘れないで下さいよ!」


「分かってる。分かってるから、頼むから俺の頭から降りてくれ」





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リハビリとして投稿していきます。以前、削除した作品ですがゆっくりと投稿していきますので、楽しんでいただければ幸いです。


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