彼女の事情

春田ぱぃえ

第1話 彼女の事情

 「好きです付き合ってください!!」


 「・・・え!?」


 高校生活に一番必要なものは何だろう?勉強?部活?いやいや一番必要なものは恋愛。つまり恋人だろう。俺は生まれてこの方彼女がいたことはない。


 なので高校では彼女を作って楽しい高校生活をおくりたいのだ。しかし俺は勉強もそこそこ、部活は帰宅部でこれといって人に自慢できるものは何もない。


 あえて挙げるならば背が高いことぐらいだろうか?小学校卒業時は140㎝だった身長が一年で50㎝伸びて今では190㎝。竹の子もびっくりだ。ただ背が高いだけではどうしようもない。


 しかしそんなもの必要なのだろうか?特別に秀でた能力がなくても思い切って告白すれば、意外にすんなりと彼女を作れたりするのではなかろうか?必要なのは勇気、ダメでもともと俺は告白してみようと心に決めた。


 相手は同じクラスの女の子。クラスで一番かわいくて性格も明るい。ショートカットの黒髪、真ん丸でキラキラした瞳、何よりも笑顔が素晴らしい。この子が彼女なら素晴らしい学園生活を送れるだろう。


 「いいよ」


 「え!?」


 答えはまさかのOK。その日俺に初めての彼女ができた。


 付き合い初めて知ったのだが、彼女は中学時代、バスケ部でかなり名の知れた選手だったらしい。なのでバスケ部に入るなり一年生ながら即バスケ部のエース。何回か練習を見に行ったが、素人でもわかるくらいに他の部員とは圧倒的に際立っていた。


 そんな彼女は数々のバスケ部の名門校から引く手数多だったらしいがそれをすべて断り、この平凡な学校に入学してきたのだとか、とは見学中にバスケ部の部長さんから聞いた話である。彼女に理由を聞いても「家から近いから」という何とも言えない理由だった。


 ところで俺は部活に入っていない。帰りは彼女と帰りたいのでバスケ部の練習が終わるまでは暇を持て余す。正直彼女の練習を見てるだけで満足なのだが、この体は目立つし彼女にも何かしら迷惑をかけるかもしれない。そこで俺が考えた末に取った行動は。


 「今日からバスケ部のマネージャーになります。みなさんよろしくお願いします」


 これなら自然に彼女の近くにいれるし一緒に帰れる。当の彼女は不思議そうな顔をしていたが、理由を説明すると笑ってくれた。あと、なぜか部長さんは不満そうだった。なぜだろう?


 そこからの生活は順風満帆だった。学校では教室でも部活でも一緒。帰るのも一緒。休日はデートをしたりと普通の恋人といった最高の日々を謳歌したと言っても過言ではない。


 ただそんな彼女にも不思議に思うことはある。それは、なぜおれと付き合ってくれたのか?俺が告白したのは入学式の日。そんな急にクラスメイトとはいえよく知らない人から告白されたにもかかわらず、彼女は即断即決だった。なんでだろうと思いつつもそんな人もいるのかなと、モヤモヤした気持はほんの少しだが常にあったのだ。


 付き合い初めてそろそろ丸一年というタイミングで思い切って聞いてみた。なんで俺と付き合ってくれたのかを。


 「私のこと覚えてない?」


 そう彼女は聞いてきた。俺と彼女は会ったことがあるのか?記憶を探り必死で思い出そうとする。しかしながら思い出せなかった。


 「私、親が離婚して苗字変わったんだ」


 そう言った後に彼女が言った旧姓を聞いて思い出した。


 それは俺がまだ小学生の時の話。クラスの中で女子のくせに体がデカいという理由でからかわれていた子がいた。とらえようによってはいじめに見えるかもしれない。理由は覚えていないが俺はその時に彼女を助けた気がする。助けたといってもいじってるやつをたしなめた位で大したことはしていない。そのことがきっかけでしばらくは一緒によく遊んでいた。


 「おどおどしてるから舐められるんだよ。笑ったらかわいいんだから、もっと笑うの増やしたらいいよ」


 「うん・・・分かった」


 そう言って笑う彼女はとても良い笑顔だった。


 でもその子は家庭の事情により突然転校してしまった。その子とはそれきりだ。


 当時は眼鏡もしてたしこんなに明るい子ではなかった。あまりの変化に動揺を隠せない。


 「よく俺だって気付いたな。こんなにも見た目違うのに」


 こっちは当時と比べたら完全に別人だぞ。


 「名前は同じでしょう?」


 まあそうだけども・・・でもそれなら。


 「なんで今まで黙ってたの?」


 「それは・・・ちょっとした意地悪・・・かな」


 「意地悪?」


 「だって入学式の日に告白してきたから覚えててくれたんだって感動したのに、全然そうじゃなくて・・・思い出すまで黙ってようって」


 「それは・・・ごめん」


 「いいよもう・・・その代わりに1つだけお願い聞いてくれる?」


 彼女のお願いはとてもわかりやすいものだった。俺も考えていたことだったし、バスケ部の部員、とりわけ部長は泣いて喜んでくれた。それから月日は流れ今日は大会初日、みんな気合の入った表情をしている。そんな俺に彼女が話しかけてきた。


 「緊張してるの?」


 「いや俺は大丈夫だよ」


 「ずっと聞きたかったんだけど、なんで一人称が俺なの?昔は違ったよね?」


 「舐められたくねーから」


 「変わんないなぁ・・・でももったいないなぁ」


 「なにが?」


 「だってこんなにかわいい女の子なのに」


※※※※※


 一人称が俺なのは中学時代の急成長が原因である。小学生時代の彼女同様俺もからかわれていたのだが、溜まりにたまった不満が爆発し、キレて窓ガラスを叩き割ったのがきっかけで俺は不良のレッテルを貼られてしまい、おかげで女子と話す機会も失われてしまった。それからの中学生活は灰色であった。女の子を好きな理由?かわいいからで十分だろ?


 彼女のお願いはバスケ部で選手としてプレーすること。部長にも度々勧誘されていたしこの体は貴重なのだろう。それでも甘やかす気は微塵もなく、今日までは地獄の日々だった。


 「大丈夫だよ。練習通りやれば上手くいくって」


 そういう彼女は今日もいい笑顔だ。緊張も少し和らいだ。


 「ありがとう」


 そう言って彼女を見るときょとんとした顔をしていた。


 「どうしたの?」


 「笑った顔始めてみた・・・」


 「え?そんなことないでしょ」


 「いつもはなんだか作り笑いしてて、何考えてるのか分からない感じだったけど、今のは違ったよね!?もう一回笑ってみて!!」


 「何でそんなテンション高いんだ!!怖いぞなんか!!」


 そうじゃれあっていると、部長に怒られる。そこの百合百合置いてくぞ、と、俺たちは顔を赤くして追いかける。


 2人で笑いながら。

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