恋愛ジャンルのBL作品ということですが、その内容は読む者をグイグイ引きつける読み応え満点のミステリーサスペンスです。
連続殺人事件のキーワードは刺青。その謎を追う若い刑事は重要参考人であるヤクザの情夫と出会い、葛藤を覚えながらも逃れられない恋に落ちていきます。
事件をめぐるヤクザと警察との因縁や、薄幸の青年が抱える秘密、そして伝説の彫師の存在……。様々な要素が複雑に絡み合う展開の面白さ、次々と起こる出来事の数々に目が離せなくなり、いつの間にかどっぷりとこの世界に浸かってしまいます。終盤にかけての怒涛の盛り上がりは息を呑むほど。ページを繰らずにはいられません。
硬派な語り口の中に、こまやかな情景の描写や心の襞を映すような心象描写が冴え、物語をぐっと深みのあるものにしています。登場人物のセリフや行動の端々にそれぞれが持つ人生の肉付きを感じさせ、人間味豊かなドラマに仕上がっています。これもまたこの作品の魅力です。
刺青の秘密が明かされるとき、その感動すら覚える瞬間は、この物語を追いかけてきた者へのご褒美といってもいいでしょう。その美しさには誰もがため息をつき、唸ってしまうことと思います。そして若い二人のこの先に幸あることを願わずにはいられません。
妖しく悲しく美しい刺青の世界。ぜひとも体験していただきたいと思います。
現代日本を舞台に、刺青にまつわる殺人事件を追う新米刑事の久我が、現場付近で花屋を営む青年、撫川(なつかわ)と出会うところから物語は進んでいきます。
連続殺人事件の本格的な捜査と並行して、ややフワフワと不思議な雰囲気を醸し出す撫川と交流していく久我。シリアスで現実的なサスペンスの中に、どこか幻想的な雰囲気が時折フッと挿し込まれるのが本作の魅力。対照的な色合いがどちらをも際立たせながら、事件は少しずつ少しずつほぐされていきます。
また、久我と撫川の視点を基本としつつ、警察やヤクザなど渋ーいおっさんの面々がとてもいい味を出して脇を固めてくれています。笑いあり、人情ありで、緊迫の場面の中、ちょっと息抜きが出来るのもいいバランスになっています。
後半、クライマックスにかけては手に汗握る展開も待っていて、私は思わず一人で叫びました。映画を観ているようで本当にドキドキしました。
警察モノ、事件モノが好きで、しかもBLが好きなんていう方には勧めるしかない傑作です。