江戸・Oh!掃除(落語風)

紫 李鳥

江戸・Oh!掃除(落語風)

 


 えー? ちっとめぇに、もう秋でぃって話したばっかなのに、もう冬でぃ。


 はえーなぁ。“光陰矢の如しこういんやのごとし”か? いきなり寒くなっちまったなぁ。


 しもやけがかい~、なんてガキは今時いねぇだろうが、おいらのガキん頃はこの時期になると、しもやけやら、鼻水やらに悩まされたもんだ。


 それでも、“子供は風の子”なんて言ってな、どんなに寒かろが、鼻水を拭いた袖をテカテカにして、ついでに、まっかっかのしもやけをカキカキしながら、元気いっぺぇに外で遊んだもんだが。


 今時のガキはどうでぃ。えー? 冷暖房完備のポカポカお部屋でゲームにいそしみ、外には一歩も出ねぇでぬくぬく状態だ。おまけに、電気毛布だの、電気カーペットだので至れり尽くせりだ。


 だが、その分、風邪も引きやすくなるわけだ。つまり、過保護ってぇのは人間に限らず、冷暖房もしかりってぇこった。


 なー? 寒かったら重ね着すりゃいい。暑かったら脱ぎゃいいのよ。冷暖房に頼り過ぎてっと、ひ弱になっちまうぜ。


 教訓でぃ、覚えときな。


【冷暖房、なければないで工夫しよう!】


 どうでぃ、いい文句だろ? “創意工夫”ってぇ奴だ。


 何ぃ? 工夫すんのは面倒だ? ッ。めんどくさがってっと、ひ弱のうえに光熱費がかさむぜ。


 なんだ? 貧乏じゃねぇから、そのぐれぇ払えるって?


 ったく、かわいくねぇな。払ってんのはおめぇじゃねぇ。親だろが。


 えー? なんだって? 電気代ケチって、それが原因で風邪引いたら、親が悲しむじゃねぇかって?


 ……ああ、そうかいそうかい、分かったよ。おめぇさんの言うとおりだ。余計なお節介せっかい焼いて、すまなかったよ。


 アッ! しまった。今回のテーマは【大掃除】じゃねぇか。【風邪】と間違っちまったぜ。まじぃまじぃ。掃除に縁がねぇもんだから、うっかりしちまった。


 ペラペラしゃべって損したぜ。ったく。ってか、制限時間が迫ってら。本題のほうが短くなっちまったぜ。やべぇやべぇ。




 えー、大掃除ってぇのは、江戸時代にもあったわけでして。


 〈煤払すすはらい〉は、十二月十三日と決まってましてね。江戸城から長屋まで一斉にだ。


  一般家庭での煤払いは、朝七ツ時 (午前4時ごろ)に息子夫婦が起き出しましてね、夜が明けるやいなや煤払いに取り掛かったわけですな。


 嫁いだ娘が手伝いにやってきて家族総出で大掃除だ。日暮れめぇには終えて煤払い祝儀として、一汁三菜を家族みんなで食べるわけですが。


 一日だけでは終わらず掃除は何日か続き、手伝いにやってきた仕事仲間には蕎麦切そばきりや酒を出すわけだ。


 一般家庭でも家族が集まり掃除をして、その後に飲み食いするという暮れの楽しい一幕ひとまくだったようですな。


 じゃ、ひとりもんはどうしたかってぇと、お察しのとおり、自分でやるわけだが、“隅のちり取り、団扇うちわですます”ってぇ具合だ。だが、恋人がいる奴ぁ、彼女に頼むわけだ。





 長屋住まいの伊吉は独りもんだ。


「な、およねちゃん。そろそろ年の瀬だろ? ……掃除、頼めねぇかなぁ」


「ええ、いいわよ、やったげる。その代わり、ご褒美ほうび頂戴ね」


「えっ! 褒美?」


 大して給料も貰ってねぇ、大工見習いの伊吉は困っちまった。


野暮やぼだね、……もう」


 およねが色っぽい目で見やがった。


「……ああ、そっちのご褒美ね」


 およねの言うご褒美が何か分かった伊吉は、金のかからねぇもんだったんで、ホッと一安心でぃ。


 ところが、仕事から帰った伊吉はびっくらこいた。部屋がちっとも片付いてねぇ。頭にきた伊吉はおよねんちに文句言いに行った。


「なんだよ、ちっとも綺麗になってねぇじゃねぇか」


「あら、ちゃんと綺麗にしといたわよ、布団」


「……くうう」



 ま、必要なもんしか綺麗にしなかったってぇ、小話なんですがね。大人の話だから、いまいちピンと来なかったか?


 えー? 子供でもそのぐれぇ分かるってか? だぁな。おいらより大人かもしんねぇな。“恐れ入谷の鬼子母神おそれいりやのきしぼじん”でぃ。


 えっ? 落語風なら、最後にオチがあるだろって? だよな……。ッ、考えてなかった。どうすっか。……アッ! そうだ。こりゃ、どうだ?


 オチは言わねぇでも、テーマが【掃除】だけに、ヨゴレと一緒に落ちてるよ。


 えー? まあまあってか? ふう~……。そろそろ、幕も落ちるぜ。





※語り:秋風亭流暢しゅうふうていりゅうちょう (架空の落語家)







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____幕____

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