エピローグ ~『幼馴染との再会』~


 金髪赤目の少女リザがそわそわと噴水の前で誰かを待っていた。彼女の服装はいつもの魔法使いを象徴するローブ姿ではなく、女性であることを象徴するように朱色のドレスで着飾っている。


「おしゃれしてきたし、これならジークも気に入ってくれるかな……」


 リザは噴水の水面に映る自分の顔を確認する。整った顔はどこかぎこちない。彼女は愛らしさをアピールするために頬を緩めてみせるが、すぐにムッとした表情へと変わってしまう。


「だ、駄目よ。こんな顔してたら、またジークに嫌われちゃう。それにこんな固い態度だと、気づかない内にまた馬鹿にしちゃうかも」


 リザはもう二度とジークのことを無能だと馬鹿にしないと誓ったが、素直になれない性格が条件反射的に、彼のことを馬鹿にしてしまうかもしれない。何度か深呼吸し、彼女は無理矢理リラックスする。


「この機会を逃すとジークを別の人に取られるかも……最後のチャンスなんだから絶対に失敗できないわ」


 リザは冒険者組合にジークの調査を依頼していた。周囲の評判や交友関係、そしてそこには恋人の有無も含まれていた。


「今まで私としか付き合ったことがないと答えていたし、まだ私にもチャンスはあるよね? まだ諦めなくていいよね?」


 リザは水面に映る自分に話しかける。だが水面の自分は同じ表情を浮かべるだけで、質問には答えてくれない。


「なんて謝ればいいのかな? ごめんなさいでいいのかな? でもそれだけで許してもらえるのかな?」


 リザは部下の賢者がジークに上級魔法使いのグラトンを刺客として送り込もうとしたことに気づき、途中で手紙を渡す命令に上書きした。しかしグラトン以外にも刺客が送り込まれていた場合、彼は危険な目に遭ったかもしれない。


「やっぱりここは素直に気持ちを告げる方が……あなたのことが好きですと、はっきり伝えれば許してもらえるかも……」


 だがリザは生まれ持った性分のせいか素直になろうとしても、彼の前では天邪鬼な態度を取ってしまう。小さくため息を吐くと、彼女の肩が誰かに叩かれる。


「誰よ、私は忙しい――ってジーク!」

「よぉ。久しぶりだな」

「あ、あれ、いつからここに?」

「リザが水に映った自分と漫才を始めてから」

「っ~~~~」


 リザは顔を真っ赤にして、その場にしゃがみ込む。気恥ずかしさでジークと顔を合わせることができなかった。


「それにしてもよく俺がジークだと気づいたな」


 ジークは依然と比べると、二回り以上太っていた。それにも関わらず、リザはすぐに彼がジークだと気づけた。


「当然よ。私たち幼馴染じゃない」


 リザは気を取り直して立ち上がる。まだ顔はタコのように真っ赤だが、少しだけ冷静さを取り戻していた。


「リザの本音が聞けて嬉しかったよ」

「ジーク……」

「実は俺も言いたいことがあるんだが、その前にこれを食べてくれ」


 ジークは近くにあったベンチに腰掛けると、弁当箱を開ける。中には白米と唐揚げ、焼き魚と卵焼き。そして彼女の好物であるコロッケが詰まっていた。


「私がコロッケ好きなこと覚えていてくれたんだ……」

「当たり前だろ。俺たち幼馴染じゃないか」

「うふふ、そうね」


 リザはジークから箸を受け取ると、弁当に舌鼓を打っていく。懐かしい味はそのどれもが彼女の好みに合わせて作られていた。調理人の愛情を感じる弁当だった。


「うっ……ぐすっ……お、美味しい……美味しいよ……っ」


 リザは弁当を食べ進めるに連れて泣き出してしまう。それは失ったジークを取り戻せたような錯覚を彼女が感じたからだった。


「俺の料理で喜んでくれてありがとな」

「ジーク……」

「それにすまなかった。俺も謝りたかったんだ」


 ジークは小さく頭を下げると、リザは謝るべきは自分の方だと頭を上げるように促す。


「ジークは何も悪くないよ。悪いのは私……」

「いいや。俺が悪かったんだ。リザは無能だって俺のことを馬鹿にしていただろ。でも力を手に入れたからこそ分かるんだ。俺の努力が足りていなかった。リザはいつだって真剣に俺のことを強くしようとしてくれていたのに、甘えてしまっていたんだ」

「ジーク……」

「もしリザさえよければさ、もう一度寄りを戻さないか?」

「え?」

「リザ、俺のことを好きだって言ってくれただろ。その言葉を聞いた時に思ったんだ。俺もリザのことがまだ好きなんだって」


 ジークは気恥ずかしそうに頬を掻く。彼の頬もほんのりと赤くなっていた。そんな彼が愛おしくて、リザは彼に抱き着く。


「私もジークのこと大好き。今度は絶対に離さないから!」


 リザはジークを抱きしめる手に力を込める。最強賢者と最強料理人は再び同じ道を歩き始めたのだった。


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これにて第一幕は完結です

もし時間に余裕ができれば第二幕を執筆しますので少々お待ちください

※第二幕公開時はマイページで報告しますので、是非作者のフォローをお願いいたします!

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幼馴染のパワハラに耐えられなくなったので、世界最強のオッサンは定食屋でスローライフを満喫します 上下左右 @zyougesayuu

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