第二章 ~『刺身と大賢者の手紙』~
店の前で騒ぎを起こしていたグラトンとクロウを連れて、ジークは店の中に入る。店内の机の上には食べかけの食事が並び、客の姿は一人も見当たらなかった。
「店の客はどこにいったんだ?」
「お前たちが暴れるから帰ったんだよ……」
誰だって命を賭けてまで昼飯を食べたいとは思わない。グラトンが放った炎魔法の破裂音は逃げ去るだけの十分は脅威を孕んでいた。
「さて、何が食いたい? なんでも好きなモノを言ってくれ」
「なら俺は――」
「いや、私の注文が優先だ。新鮮な魚の刺身を頂こうか……」
「なっ!」
新鮮な魚。それは馬肉や鶏肉とは話が違う。内陸国である王国では決して手に入らない代物で、帝国でなければ手に入れることはできない。その無茶な要求に場の空気が凍り吐く。
「お前、まさか……」
「私の無茶な要求に恐れをなしたか。なら――」
「いや、なぜ目玉商品のことを知っているのか不思議に思ったんだ」
「はぁ?」
「お待ち。刺身の盛り合わせだ」
クロウとグラトンの前に船の容器に乗せられた刺身が運ばれてくる。赤身と白身はどちらも色合いが良く、新鮮であることを証明していた。
「ど、どうやって、魚の刺身を用意したのだ?」
「帝国まで買いに行ってきたのさ」
「だが帝国から王国まで運ぶには時間がかかりすぎる……」
「いいや、問題ないさ。なにせ転移魔法を使ったからな」
転移魔法とは遠くの場所へ一瞬で念じるだけで移動することが可能な魔法であり、賢者クラスに位置する魔法だった。
上級魔法使いのグラトンはジークが自分よりも実力は上だと知り、何かを決意したような表情を浮かべる。
「あなたはこれだけの力をどのようにして?」
「美味しいモノを食べて、太ったからかな」
「なるほど。努力は人に見せびらかすモノではないと。人格まで優れているとは、やはりあなたは大賢者様にふさわしい」
「俺がリザと……」
「実は大賢者様から一枚の手紙を預かっています……この手紙を渡すことが大賢者様のためになるのかと悩み、破り捨てることも考えました……ですが私は、あなたがこの手紙を受け取るだけの価値がある人間だと判断しました」
グラトンは口元に小さな笑みを浮かべると、胸元から一枚の手紙を取り出す。その手紙を受け取ると、封蝋を開けて内容を確認する。そこにはただ一言、『明日の正午、噴水前で待っている』とだけ記されていた。
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