「駅ノート…」

低迷アクション

第1話

(読むんじゃなかった…)


山深くの無人駅に置いてあったノートを読み進める内に“就活生”は後悔を感じていく…


林業組合の面接の後、駅に着いたが、電車は1時間に1本…寒さしのぎに

定刻まで、小さな駅の待合に入った。


時間つぶしのスマホは圏外…代わりに、待合席近くの机に置いてある交流用の

“駅ノート”を読む事にする。ノートには、駅に訪れた人の感想や近況、

イラストなど様々だ。


ページ1枚、1枚に綴られた内容を見て、自分と同じように、この駅で、電車を

待っていた人達の人生を感じる事ができ、就活で荒んだ心が少し慰められた。


これが変わったのは、細かい字が並ぶページを開いた時からだ。それは、

駅に訪れた日時と時刻の記載から始まっていた。


“11月24日17:16  私とした事が帰りの電車の時間を間違えるなんて…

次の電車は45分後、しばらくこの寂しい駅舎で待つ事にする。


11月24日 17:24  携帯の電源が入らない。流石に無人駅、人といえば、駅舎の私と

向かい側のホームに立つ女性だけ…寒い中で変わった人だ。人形のように表情を変えず、じっと、こちらをむいて佇んでいる。


11月24日 17:37  変な事を書くかもしれない。女が消えた。

トイレや、こちら側に来るには、駅舎の前を通る筈だが、その形跡はない。外に出てみた。何処にもいない。家一つない、山間だ。彼女は一体何処に…


11月24日 17:51(字体が乱れる)

風に乗って聞こえる、あの悲鳴のような音は何だ?動物…違う。あれは人…女の声だ。近づいてくる。これを書いている最中も…今のは屋根に飛び乗った音?窓から垂れ下がってくるのは何だ?


電車、早く


17:54(殴り書き…)

め あった。電車こない たすけ  て“


就活生はノートを投げ、ホームに飛び出す。類似点が多すぎた。


駅舎の待ち時間、読んでいる最中に立つ女(今はいない)読書に集中し、気にしないようにしていたが、悲鳴のような音に屋根と窓…違っているのは電車の時間、

現在18:00、目の前にはホームに滑り込んでくる列車がある…


彼が絶句したのは電車が止まったのは反対側だった事…次の電車は1時間後だ。


「そこの人、乗られるなら、急いで」


切羽詰まったような車掌の声と同時に線路を渡った。こちらを指さし、口を大きく開けた乗客を無視し、ホームに駆け上がった就活生に車掌の声が続く。


「絶対に後ろ見ないで、早く」


言われるまでもない。車内に駆け込み、ドアが閉まると同時に、背後の窓が大きく揺れるのを感じた…(終)

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