寝取られビデオレターが届いたけど、女に全く面識がない件

下垣

信じてないし、送り出してもない女からビデオレターが送られてくるなんて…

 金曜日!! 今日は金曜日!! 誰がなんと言おうと金曜日なのだ!! 大学が終わった金曜日の夕方! それは実質休日と同義! 即ち、休日は土曜から始まるのではない! 金曜の授業終わりから始まっているのだ!


 電車から降りた俺は真っすぐ自宅のマンションに向かった。最寄り駅から徒歩30分。そこそこ遠い! だが、仕方ない。俺には自転車を買うお金などないのだから。故に徒歩で歩くしかない。とほほ。


 不動産屋の記載では徒歩30分の距離を、徒歩43分かけて歩き自宅に辿り着いた俺。自宅のマンションに着くと郵便受けを確認する。どうでもいい糞の役にも立たないチラシの下に1通の封筒があった。封筒には、柴山しばやま 玲於奈れおな様と書かれていた。俺の名前だ。


 封筒はやけに分厚く、四角くて固い物体が入っている。なんだこれは。送り主の名前が書いていないな。なんだか不審な荷物だ。切手も貼ってないし、ポストに直接投函されたのだろうか。俺は溢れ出る好奇心を抑えられなかった。


 この封筒の中にはなにが入っているんだろうか。気になる。俺は封筒を手に取り自宅へと向かった。


 自宅へと辿り着いた俺は、鞄を所定の位置に置き。ハサミを取り出した。ハサミで封筒の上部をジョッキンジョッキン切ると中にはDVDケースの中に1枚のDVDが入っていた。


「なんだこれ……」


 不審なDVD。本来なら、差出人不明のこのDVD。本来ならば、その場ですぐ廃棄すべきなのだろう。コンピュータウイルスが仕込まれている可能性があるし、発行元不明のデータは確認すべきではない。だが、俺はこのDVDの中身が気になった。


「今時、記録媒体でウイルスを伝染させようなんてやついないよな?」


 数十年前、インターネットが発達していない時代ならフロッピーディスクなどの記録媒体がウイルスの主な感染源とされていた。だが、インターネットが発達した今では。ネットワーク上でウイルスを感染させるのが主流なやり方となっている。だから、今時こんな古典的なやり方でウイルスをばら撒くやつはいないと判断した。


 だが、念のためウイルスに感染してもいい古いパソコンでこのDVDを起動しよう。このパソコンは俺が一人暮らしをする時に持ってきたものだったが、大学の授業で使うにはスペックが悪すぎた。そのせいで新しいパソコンに買い替えて、今はそっちのパソコンをメインで使っている。そのため、これはネットワークには接続していないし、重要なデータも特に入っていない。万一ウイルスに感染してもダメージは低くて済む。


 俺はパソコンを立ち上げて、DVDドライブにディスクを挿入する。ウィイインという読み込み音と共に、動画が再生された。



 剥き出しのコンクリートの内壁。照明がチカチカとして、薄暗い空間が映し出されていた。


 コツコツと足音が響き渡る。ヒールの音だから、この足音は女性のものだろうか。よく耳を澄ますと荒い足音も聞こえる。こっちは男性か?


 画面の左端から黒髪ロングの細身の女性が出てきた。女性の服装は白いブラウスとカーキ色のロングスカートといった感じだ。どことなく品がある女性。


 女性はカメラに顔を近づける。画面に顔がハッキリと映り、その顔は目がパッチリとしていてまつ毛も長い。眉毛もしっかり手入れされていて、化粧も素材の良さを生かす薄塗だ。語彙力無くした言い方をすればめっちゃ美人やん!


「おーおー。撮れてるかー?」


 酒焼けした男性の声が聞こえてきた。その声と同時に色黒でTシャツとダメージジーンズを着た色黒のギャル男が画面に映ってきた。ギャル男はコッテコテのシルバーアクセサリを身に付けていて、ネックレスやピアス、ブレスレットからジャラジャラという音を鳴らしている。


 このギャル男の方は知っている。同じ大学に通っている飯坂いいさか 慶三郎けいざぶろうってやつだ。仲間内からはケイと呼ばれている。


 俺は情報工学部だけど、あいつは国際文化学部だ。俺らはほとんど接点はない。ただ、飯坂は取り巻きを引き連れて学食で大声を出してみんなに迷惑をかけている。いわゆる悪目立ちをするやつなのだ。学内の女子に手を出しまくっている噂もある。


 飯坂は存在感がある学生で俺も知っているが、飯坂は俺を知らないはずだ。学部が違うし、授業が被ったこともない。俺は目立たない存在だから、飯坂は俺を認識していないはずだ。


 飯坂は見知らぬ女性の腰に左手を回し、厭らしい手つきで撫でまわした。女性の顔は少し紅潮して、甘い吐息を漏らしている。なんだ。俺はなにを見させられているんだ。


「イエーイ。彼氏君見てるー? 今から、キミの彼女を寝取っちゃいます」


 は? 俺は自身の耳を疑った。聴力検査には1度も引っ掛かったことはない。だが、今の俺は自分が難聴じゃないかと疑っている。


「あん……ケイちゃん手つきがえっちだよ……」


 媚びるような女性の声に飯坂は気を良くしたのか殴りたくなるようなニヤケ面をカメラに向ける。


「この通り、キミの彼女は既に俺の手によって落ちてまーす」


 俺の聞き間違いじゃなかった。この飯坂という男はこの見知らぬ女を俺の彼女だと言い張っている。


 いや、もしかしたら人違いかもしれない。封筒には俺の名前が書いてあったけれど、きっと同姓同名の別人だ。玲於奈なんてよくある名前だよな。俺は江崎 玲於奈しか知らんけど。


「玲於奈君ごめんね……私、キミが思っているよりもずっとえっちな女の子だったんだ」


 うわ、俺の名前出しやがった。しかも俺が思っているよりもってなんだよ。お前がどれだけ、えっちなやつか知らんわ。想像したことすらないわ。


「玲於奈君……ん、あ……」


 飯坂と女はキスをした。ねっとりと濃厚なキス。なんかくちゅくちゅ音がなっている。ええ。キスってそんな音なるものなん? 俺童貞だから知らんけど。


飯坂と女は顔を離す。女は蕩けた目で飯坂を上目遣いで見ている。下品な言い方をすればメスの顔ってやつだ。


 いや、なんだよこれ。なんで、俺は良く知らないギャル男と全く知らん女の情事を見せられてるんだよ。女が俺の好きな子とか、彼女とかだったら、俺の心に響くものがあっただろう。だけど、なんも響かんわこんなもん! 勝手にやってくれって感じだわ!


 つまらん。俺はそう思って、マウスカーソルを右上の×ボタンに合わせる。俺の指先1つでこのウインドウは閉じる。ははは、ざまあみろ!


 その時だった。飯坂の手が女の胸元のボタンに伸びる。そして、慣れた手つきでブラウスのボタンを外していく。


 俺はゴクリと生唾を飲んだ。これは……もしかして、おっぱいが見れる流れか? 確かにこの女は知らない女だ。でも美人ではある。よく見たら胸はそこそこでかい。滅茶苦茶でかい爆乳ではない。けれど、でかい。


 ウインドウを閉じるのは、おっぱいを見てからにしよう。そうしよう。俺はスケベ心から視聴を継続する。


「イヤ……」


 女が飯坂の手を払った。飯坂はポカーンとした顔で手を止めた。は?


「ど、どうしたんだよ。サヨちゃん。いつもなら、俺に脱がせてくれるだろ」


「う、うん……だ、だけど……玲於奈君に見られるのは恥ずかしいし……い、一応私が初めて好きになった人だから」


 知らんわ。早く脱げ。


「そっかあ。じゃあしょうがないな」


 なにがしょうがないだ。ボケ。ギャル男のくせに手心を加えてんじゃねえぞ! もっと鬼畜になれよ。ギャル男は鬼畜以外ありえない。鬼畜じゃないギャル男は役割が持てませんぞ。


「私、やっぱり玲於奈君のことが好き。玲於奈君が私に構ってくれないから寂しく浮気しちゃったけど……こんなに近くにいるのに私の存在に気づいてくれないから浮気しちゃったけど……やっぱり玲於奈君が好き」


 うるせえ! 脱ごう!


「そっか……じゃあしょうがないな。幸せになれよ」


 え? なにこれ。意味が分からないんだけど。


 そこで動画は終了した。一体なんなんだこれは。まるで意味が分からんぞ。


 しばらく待っていると次の動画が再生された。動画には俺の通っている大学の風景が映し出されていた。画面の中央に位置しているのは……俺だ。


 え? どうして俺が映っているんだ。俺はこんな動画を撮った覚えはない。ってことは、盗撮!?


「えへへ。かっこいいなあ玲於奈君」


 先程、飯坂と一緒に動画に出ていた女の声が聞こえた。画面内に女が映っていないのに声が聞こえる。ってことは、この動画の撮影者はあの女か?


 あの女はどうして俺を撮っているんだ……


「玲於奈君……」


 またもや女の声が聞こえた。パソコンのスピーカーからではなく、俺の背後から……

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