夢想現実(DreamReality)

大西洋

第1話 悪夢という名の夢のはじまり

真っ赤な夕日で彩られた海の前に自分は立っていた。


「あ~~、やっぱ海はいいな。見ただけで清々しい気分になるし」

腕をおもいっきり伸ばしながら自らの率直な感想を述べてみた。


しかし、ひとつ大きな疑問が頭の中をよぎる。


「……でも自分、なんでこんなところにいるんだ?」


自分には海に来るまでの記憶がまったくなかった。

その場で冷静に考えてみると今はわざわざ海に来るような季節ではないし、海に立ちよればだれもが必ず感じる潮風の香りも一切しない。


不自然に思い、自分の頬をおもいっきりつねってみた。


「イテッ……くない。てことは、うん……夢か」


たいして驚きはしなかった。実はここ最近、自分は立て続けに奇想天外な夢をみている。


会話できるニワトリと戦ったり、筋肉質なネコと相撲をとったり、全身赤色の巨大ロボに乗るなど自分でもわけがわからない。


それに比べて今回の夢はずいぶんとまともである。


……今のところ。


「はぁ~~、とりあえずテキトーに歩いてみるか。めんどくさいけど……」


砂浜を歩くときのジャリジャリとした感触を一歩一歩確かめながら、なにかが起こるのを待った。


でも……正直起こってほしくない。

不気味なモンスターや巨大ロボ、自分は宇宙人だと名乗る謎の文学少女もいらない。


たまにはこの美しい夕日がゆっくりと地平線の向こうに沈んでいくのをただ眺めている、といった感じの夢でもいいではないか。


「ギブミー平穏!!」


そんな自分の希望はもろくも打ち砕かれた。

歩く方向の砂浜に目をやるとポツンと人影が確認できたからだ。


今までの(夢の中の)経験からいってこの人物が今回の夢物語の進行役であるに違いない。


近づいていくと段々その男の恰好が見えてきた。

体の全身をファンタジーゲームで魔法使いがかぶっていそうな茶色いローブで隠して砂浜の上に(たぶん体育座りで)座っていた。


「メチャクチャ怪しい……。あの恰好じゃあ自分で、『私は不審者です』って書いた看板持ってんのと変わらねぇ。あ~~関わりたくね~~!」


頭を抱えながら辺りかまわず大声で叫んだ。


ちなみに普段はこんな行動はしない。

これが全て夢の中の出来事だとわかっているから自分はこのような他人からみればアブナイ人間のような行動をとっているのだ。


…あと、これを聞いて男が逃げることを密かに祈っている。


とりあえず、落ち着いたところで自分は(実際はけっこう速く走れたりするの)カメと競争したら負けそうなぐらいゆっくり歩を進めた。


できるだけ時間を稼ごうという魂胆だったが、いつの間にか自分は男のすぐとなりまで来ていた。


そもそも夢の中で時間を稼ぐという行為が無駄なことだったのを実感した。



美しい夕日で彩られた浜辺で――ローブをかぶった謎の男と二人っきり……。



……最悪だ。ある意味最近見た中で最悪の夢、いや悪夢だ。


心底がっかりした。

支離滅裂で訳の分からない夢を見るぐらいなら、ハッキリとした悪夢を見るほうがマシだと多少思ってはいたが、百歩ゆずってもこんな不快なシチュエーションを伴う悪夢はご勘弁だ。



覚悟を決めて自分はローブをかぶった男のとなりに腰を下ろした。どうせ向こうから話しかけてくるだろうと思いなにも話しかけなかった。


「………………」


男はなにもしゃべりかけてこなかった。

まさか自分の存在に気づいてないわけがない。


なぜならソーシャルディスタンスをガン無視した近さで座っているからだ。


てかさっきの自分の叫び声が聞こえているはずだ。



しかたなく自分から話しかけてみた。


「いい景色ですね。こんなきれいな夕日初めて見ましたよ」

「………………」


「あっ、はじめまして、自分アラシっていいます。よろしく」

「………………」


「そんな恰好して暑くないですか?まあそういう自分も長袖のシャツ着てますけど」

「………………」

「………………」

「………………」


会話にならね~~!

完全に一方通行!

言葉のキャッチボールにならねぇ~~!


自分はこのままローブをかぶった超弩級の不審者と浜辺で2人っきりの時間を過ごすことを覚悟した。


というわけもなく、その場から逃れようと立ち上がった。


「じゃあ、あのう自分ちょっと用事思い出したのでこれで失礼しますね(ウソ)」


「……待て!」

「ぐっ!?」


男はいつの間にか立ち上がり、突然片手で首をつかんできた。

普通つかむとしたら腕とか肩とかつかみそうなものだが……。


「……おまえを待っていた……」

「……な、なら、なんでさっき話しかけた時に無視したんですか?」

「…………」

「また黙るのかよ!?」


首をつかまれながらツッコんだ。


「……まあ座ってくれ」

「今立ったとこなんですけど……」

「…………」

「あっ、やっぱ黙るんですね」


しかたなく男の言われた通り腰を砂浜におろした(2度目)。


「……お前を待っていた」

「さっき聞きました」

「……気が遠くなるほど待っていた」

「そりゃどうも」

「……想像を絶せるほど待っていた」

「すいませんね」

「……もうそれはそれは言葉にはできないぐらい……」

「わかったよ、ものすごい待っていたんだろ!ごめんなさい、遅れて申し訳ない。謝るからサッサと要件話して夢から覚ませてくれ!」


夢の中で謎めいた男にだいぶ無茶苦茶なことを言っている自分がいた。

「……わかった。お前を待っていた理由はただ一つ」

「うん」

「……お前に会うためだ」

「ほうほう」

「……それだけだ」

「…………………………………………」


カァー、カァー、カァー。

どこからともなくカラスの鳴き声が聞こえてきた。


「それぇだけぇかぁ~~い!」


カァー!!


カラスは逃げだした。


「ちょっと待て!なんか俺に頼みごとあるんじゃないの?あんたの村を救ってほしいとか?伝説の秘宝を探してほしいとか?僕と契約してくれとか?」

「……ない」

「頼めよ!なんのための夢だよ!こんな展開のない夢なんて初めてだよ。あんたいったい何のために俺に会いに来たんだよ?」

「…………」


謎の男は黙秘権を発動した。


「だまるなよ!」


俺のイライラは頂点に達していた。


…どうせ夢の中だから、いっそのこと殴ってみるか。


そう結論にいたり、にぎりこぶしを作っていると……


「……いや、一つだけ頼み事を思い出した。」

「あ、そう。なら早く言ってくれ」

「……起きろ。」

「は?」


ドスッ!


突如謎の男に胸を貫かれ、自分の夢は終わりをつげた。

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夢想現実(DreamReality) 大西洋 @TAMA08

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