10話.[そりゃそうだろ]

「帰さないからな」


 彼は物好きだった。

 嫌ってくれるどころかより来るようになってしまうとは。

 あれかな、天の邪鬼さんだったのかな。


「じゃ、じゃあせめて嫌いって言ってからにしてよ」

「嫌いじゃないから言えない」


 こうなったら……勉強を頑張ろう。

 この状態でひとり行動は不可能だ、何故なら彼の方が速いから。

 おまけに家まで知られているわけだし逃げられないわけで。


「あ、連絡先を交換しようぜ」

「な、なんでいまなの?」

「ん? いまだからこそだろ」


 文一くんともしているっていらない情報を教えてくれた。

 あからさまに嫌な顔をしていたんだろう、彼が文一くんを呼んでしまう。


「俺が文一と連絡先を交換していると言ったら嫌そうな顔をしていたぞ」

「そりゃ面白くねえだろ、静はお前のことが好きなんだから」

「あ、なるほど、俺が考えなしだったか」


 そうだそうだ、いまとなっては君が考えなしなんだよ。


「つか仁志、振ったのなら意地悪してやるな」

「え、俺は別に振ってないけど」

「「は?」」


 保留し続けて焦れったくさせる作戦?

 文一くんも驚いているということはそういうことなのだろうか?


「なのに静が勝手に逃げるからむかつくんだ」

「え、ちょ、待て、振ってないのか?」

「だからそう言っているだろ? なのに静ときたら嫌いになってくれとか言ってきてさ」


 彼はこちらのおでこを突きながら「言い逃げとか卑怯だろ?」と文一くんに言う。


「なんだよ、また静が考えすぎただけかよ」

「そうだ、今回も静が悪い」


 なんか俺が悪いということになってしまった。

 でも、そういうことならちゃんと返事をしてくれない彼にも非があるのでは?


「でも良かったな! これで教室から逃げずに済むだろ?」

「いや……別に受け入れてくれるとは言っていないし」

「いや、受け入れるって言っているようなもんだろこれ、なあ?」

「んー、そういうことになるかもな」

「え゛……」


 じゃあ遠ざけようとしていたのが馬鹿みたいじゃん。

 一体なにをしていたのかという話になってしまうじゃないか。


「あの、なんの話ですか?」

「有田か、仁志と静が仲がいいという話だよ」

「それは見ていればわかりますけど……」

「まあまあ、とりあえず向こうへ行こうぜ」


 なんか俺は空気を読んでやったぜみたいな雰囲気を出してる!?

 なんかどうしようもないからとりあえず仁志くんを廊下に連れ出す。


「さっきの話、文一くんがいたから?」

「違う、だから俺は言っただろ、静が頑張るべきなのは勉強だって」


 受け入れてやるからということだったのか?

 ちゃんと言ってくれなければなにもわからないぞ……。


「諦めるために頑張らなくていいんだ、嫌われようとする必要もない、静がしなければならないのは俺の塾生として勉強を頑張るということだ」

「わ、わかった、頑張るよ」


 えー……つまりこれはいい結果なのだろうか?

 とりあえずは教室に戻って勉強をすることになった。


「おい、ひとりじゃ全然できないじゃないか」

「そ、そうだよ、だから君がいてくれないと困るんだ」

「本当に言うことがころころと変わるな……」


 彼は物凄く柔らかい表情で「静らしいけどな」と言うだけ。


「やっぱり文一くんのときと態度違わない?」

「そりゃそうだろ、だって」


 彼はこっちの頭に手を起きながら、


「静は俺の特別な相手なんだからな」


 と笑って言ってくれたのだった。

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13作品目 Nora @rianora_

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