第32話 エピローグ:僕の周りはいつでも銀河戦争
「ふぅ……」
もやのカーテンの向こう。
少年が、広々とした浴場の湯船に身を沈めながら、大きなため息をつきました。
もちろん、彼は天河銀河です。
眼の前には、一面の星空の中に蒼穹の星。
ここは、グライスステーションシップ<サスケハナ>の大浴場です。
彼が、その青い星を感慨深い目で見つめた時でした。
「ご主人さま……」
揺らめく湯気の中から声がしたかと思うと、一つの影が現れました。
彼女の声を聞くなり、銀河の体がわずかに浮かび上がります。
その影は、銀髪の少女となって、湯船の中へと入ってきました。
グライス星間王国のお姫様、トレアリィです。
彼女はもちろん、裸身、です。
たわわと実った二つの乳房と体のくびれ、尻から足のラインが、本当に綺麗です。
「トレアリィ……」
「地球公叙任式お疲れ様でした……」
「ありがとうトレアリィ」
言いながら銀河は、彼女の側へと移りました。
「まったく、本当に疲れたよ……。叙任式よりもパーティが疲れて……」
「お父様やお母様達、兄弟姉妹みんなもおりましたし、地球の方々もご臨席でしたからね」
トレアリィは、銀河の頭を優しくなでました。
「それにしても、あっさりと日本がこちらの要求を飲むとは思いもしませんでしたわ」
「そりゃ、予算の国債分とそれ以上の予算を、毎年グライスが
「そうだったんですか……」
トレアリィは、納得した表情を見せました。
そんな彼女を見ながら、銀河は言葉を続けます。
「それに、感染症のワクチンを提供してくれたり、放射能除染装置の設置を決めたり、メガフロートなどの建造も決めてくれたり、願ったり叶ったりだよ」
「その代わり、日本は、グライスの人間を日本の刑法の対象外とするなどの、不平等条約を結ばされましたけど、よろしいのでしょうか……?」
「よろしくないよ」
銀河は断言しました。
「でも、そこのところは仕方がないよ。力関係では君達のほうが上なんだし。いずれは、平等に持っていかなければならないけれどね」
「他の国もグライスやザウエニア、リブリティアなどと条約を結んでおりますが、いずれも不平等条約ですしね……」
「特に中国やロシアなんかは黙っていないはずだけど、まだ動きはないようだし」
「他星での歴史を見ると、動いてくるのは五〜十年後と言ったところでしょうか……?」
「ま、銀河の歴史がまた一ページ刻まれたってところかな、今のところは」
そう言って銀河が、背伸びした時です。
湯気の中から、二つの影が揺らめきながら現れました。
「銀河ー? 先にお風呂に入っているんでしょー?」
「天河くーん、二番ちゃんー? いらっしゃるんでしょー?」
その声にトレアリィは、自分の顔をあからさまに歪めました。
影の正体は言うまでもありません。
天宮綾音ことプリシア姫と、猫山美也子でした。
「何よプリシア……。あんた、リブリティア本星に帰ったんじゃなかったのよ?」
「それがですねぇ」
プリシアは、シャワーで体を洗いながら笑いました。
「帰ったらお父上にこっぴどく叱られましてー。勘当されましたのよホホホホホ」
「勘当とか言いつつ、実質上の無罪放免と地球留学じゃないの……」
ぶつくさ言いながら、トレアリィは顔の半分を湯の中に沈めました。
「まあまあ。おかげで綾音は、プリシアと一緒にいられるようになったんだし」
「銀河くん、ほんとうにありがとー」
「ありがとう。天河くん。この御恩、いつか必ずお返しいたしますわ」
『二人』がそれぞれの声で、銀河に礼を言いました。
その後、シャワーを浴び終えた二人(いや三人)は、湯船の中へと入ってきました。
湯に浸かりながら美也子は、からかい気味に言いました。
「それにしてもさ、地球公と言っても、領地ってあんたの家だけじゃない? モナコ公国よりもずっと狭い国だなんて、人様にはとても自慢できないわねー」
「まあグライスの法制上はね。でも便宜上はこのステーションシップも、領地として認められるみたいだし……」
美也子の煽りに、銀河が苦笑気味に返したその時。
トレアリィが、突如水中から顔を浮上させると、自慢気味な表情になってこう言いました。
「それに公爵夫人の領地も、公爵の領地として認められるのよ。よって、わたくしの持つ領地は、ご主人さまの領地でもあるのよ!」
「あんたまだ銀河と結婚してないでしょ! 話早すぎ!!」
「二番ちゃん、抜け駆けはゆるしませんよ……!」
二人が文句をつけ、そこから三人は言い合いになりました。
トレアリィの宣言を聴いた銀河だけは、その口喧嘩の外に立ち、苦笑していました。
やれやれ。いつもの喧嘩が始まった。
それから湯船に再び身を沈めながら、思索にふけります。
(そういえば……。僕が、ザウエニアの警察に捕まって事情聴取された際、色々検査を受けたっけ。それで色々なことがわかったんだよな。
一番の驚きは、僕の脳のテレパシー能力は、アキトが脳を作り変えた時に付加されたものではなく、もともとあったものだと。つまり僕のテレパシー能力は、生まれつきのものだと。
その理由としては、おそらく、僕の遠い祖先に異星人がいて、彼か彼女と地球人のハーフの子孫が僕で、テレパシー能力は先祖返りを起こしたものの結果だと。
ディディが脳を調査した時に言っていたのは、当たらずといえども遠からずだったんだ。
そのテレパシー能力が地球に来たアキトを呼び、トレアリィやイズーをも呼んだのだと。
つまり……。今回の事件のすべての元凶は、僕だったんだ)
そこまで思うと、銀河の背筋がひんやりとしました。
銀河は体を動かし、再び目の前にある小さく青い星を見ました。
その星は、彼を責めているような気がします。
(これからこの星の人々は、事あるごとに僕を恨むことになるのだろう。永遠に)
そう思った時です。銀河を、背中から優しく抱く感触がしました。
ふと側を見ると……。トレアリィが、静かに微笑んでいました。
「ご主人さま……。あまり自分を責めないでくださいませ……」
「トレアリィ……」
「ごめんなさい、テレパシーで聴いてしまいました……。でも」
「でも?」
問いかける銀河に、トレアリィは彼を背中から抱きしめたまま、誓いました。
「わたくしだけは、ご主人さまの味方でありたいと思っております。いつ、いかなるときも」
彼女の優しくも力強い誓いに、銀河はしんみりしました。
(うん。トレアリィ、ミャーコ、綾音。皆が味方なら、僕は、何が敵でも戦えるよ)
「うん……」
銀河がゆっくりと頷いたその時。彼の背中に、柔らかい何かが押し付けられました。
(これって……)
「ってあ、ちょっと胸、胸!?」
「何やってんのよこの泥棒猫!!」
「二番ちゃん、初夜のセックスアピールなんて卑怯ですわよー!!」
「貴方達もやってごらんなさい、ふっふーん」
再び沸き起こった姫君達の口喧嘩を、銀河は苦笑しながら優しく見守るのでした。
やれやれ、僕の周りはいつでも銀河戦争だな。
<完>
銀河マニアックス! あいざわゆう @aizawayu1
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