Tubasa(飛翔)
茶猫
成人の時
ここは「サグラス」という世界、子供には翼があって空が自由に飛べる。
でも大人になるための「成人の時」という儀式を行い、タワーという高い塔の上まで飛んで大人になる。
その儀式の後、翼は無くなり、代わりに一生の仕事を貰うのです。
元気に走る若者、名前はチャクロス。
「もう直ぐ成人の時、大人になったらマルタ先生のような医者になるんだ」
横に居るのはサナリアという幼馴染。
「だったら私も医者になって一緒にみんなの病気を治すわ!!」
「チャーは成人の時を何時にするか決めた?」
「来週の月曜日にタワーに飛ぼうかなと思っている」
「月曜ね、分かったわお母さんに話しておくわ」
「チャーは今度の休みもマルタ先生の所に手伝いに行くの?」
「当然だね、マルタ先生が言っていたけど、タワーで教えてくれることだけでは医者はやっていけないらしい、だからマルタ先生に色々教えてもらうんだ……」
「そうなのね、タワーに行っても仕事が決まるだけで、それだけじゃダメなのね……」
「でもあと少しの間しか空を自由に飛べないのよ、今度の休みにマルタ先生の所に行った後で、思いっきり遠くまで飛ばない?」
「今無理するとタワーの上まで飛べなくなるよ……、それに無理させると最悪は翼が無くなるという話もあるから遠出は止めよう」
「仕方がないわね、遠出は諦めるわけど、今度の休みに岬まで行かない?」
「岬ぐらいなら大丈夫かな?」
「決定ね、今度の休みはお弁当持って岬まで思い出飛行よ、約束よチャー」
チャクロスはマルタ先生の所に行くと着替えて手慣れた手つきで病人たちの世話を始める。
もちろん医療行為は出来ないので簡単な世話だけだ、それでもマルタ先生は助かっていた。
「いつも悪いなチャー」
「そんなことはありません、俺も先生みたいな医者になるんです、今の内に色々教えてもらえるのは嬉しいです」
「そうだな、タワーで仕事を決めるとそれに必要な知識は貰えるんだが、実際には新し病気が出て来たり、新しい治療法が見つかることもある、つまり何時までも勉強しないといけないのさ」
その患者さんの包帯を取り換えておいてくれ。
「分かりましたマルタ先生」
いつもの様にマルタ先生の手伝いをしながら、医者になった自分を夢見ていた。
◆ ◆
あれは、チャーが3歳になったばかりの頃だった。
近くに教会があり、その裏に畑があった、そこに美味しそうなパルの実がなっていた。
パルの実は神に捧げられるために育てられている、だから決して人が食べて良い果物ではありません。
だが小さなチャーは美味しそうな匂いに負けてつい食べてしまいました。
毒があるとも言われるパルの実、食べてすぐに気を失ったチャー。
普通は死んでしまうのだが、早期発見だったため直ぐにマルタ先生の所に連れて行かれました。
意識は直ぐに戻ったが、立ち上がることは出来ず、数日の命と診断されます。
助ける方法を聞いても、教会は「神の供物に手を出すなどバチがあったたのだ」と言い取り合わなかった。
それでも父親は藁をもすがる思いで、教会に出来る限りの多額な寄付をした。
そして母親は毎日教会で神に祈った。
だがチャーの病状は良くならなかった。
しかし諦めなかったマルタ先生は出来る限りの知識を集めて治療をした結果チャーは完治した。
治った姿を見ると教会側は「ご両親の熱心さが神に伝わったのだ」と言葉を掛けた。
両親はもちろん神様に感謝し教会に礼を言いましたが、チャーは見ていたので知っていた。
マルタ先生は死ぬかもしれない危険を恐れず、自分でパルの実を少し食べては薬が効くか試していた。
自分の体を使って薬や治療方法を探してくれたのだ。
今の自分があるのは、マルタ先生の死をも恐れず医者として患者を救うという愛であり、その仕事の尊さを思い知った。
その日から医者になると決めた。
◆ ◆
その日家に帰ると母親にタワーに行くことを告げた。
「月曜日にタワーまで飛ぶよ」
「そう、遂に決めたのね頑張ってね」
そういうと母親は奥から白い正装用の衣装を持って来た。
「そうそう、タワーに行く衣装なんだけどね、これを作っておいたから着て行ってね」
そして母親は申し訳なさそうな顔をすると
「それで、悪いんだけど、少しお願いがあって、明日で良いんだけど隣町のサラおばさんにこの手紙とこのお菓子を届けて欲しいんだけど、良いかしら?」
隣村までは山が邪魔をしているので、歩くと1日以上掛かるが、子供は飛べば隣村までは2時間くらいだった。
「チョット遠いけど良いよ」
翌日、サラおばさんの所まで飛んだチャー。
サラおばさんの所に着くと手紙とお菓子を渡した。
するとサラおばさんは机に座るように言った。
「ケーニャの手紙にね、今度の月曜日にタワーに行くと決めたと書いてあったよ、決めたんだね良かったね」
「はい、医者になります、まだまだ勉強もしなければならないけど一生懸命人を助ける仕事をするんです」
「そうかい偉いね……」
「このお菓子はね、チャーと一緒に食べてって書いてあるよ。今までいろいろとケーニャの用事で来てくれたけど翼が無くなるとそう簡単に来れなくなるから一緒におやつでもと書いてあったわ」
「別に死ぬわけでもないのにね、大袈裟だな母さんは……」
「でも来るだけで1日掛るんだ、医者になったらそう簡単には来れないんだよ」
おやつを終えて帰る時おばさんは涙を流して見送っていた、確かに翼が無くなるとそう簡単には来れる距離ではない。
そう思うと涙が込み上げてきた。
帰りを急ぐチャーだったが、
倒れていたのは腹から大量に出血した大人の男だった。
「下手打ったぜ、こんな所で……」
男は気を失った。
チャーにも少しは傷の具合を見ることは出来る。
その見立てでも男の怪我は深かった。
「直ぐに治療所に運んで治療をしなければ助からない」
そう思ったチャーは男を抱えて飛び始めた。
「しっかりするんだ、意識を保って!!」
声を掛けながら一心に飛び続けるチャー、だが大人の男の体重は軽いものでは無く、翼に負担が掛かっていた。
(死なせない……、途中で誰かいないかな、誰かに頼めれば……でも歩いて治療院にいくのは絶対に無理だ……でもこのままでは翼が……)
走馬灯のように不安なことが頭の中でグルグル回っていた。
そんなことを言っていられたのも最初の頃で、重さにだんだん疲れてくる、体力の消耗は激しく、最終的には浮かんでいるのが奇跡的なぐらい前もかすれている状態になっていた。
もう直ぐマルタ先生の治療院だという所まで来ると、翼は鉛のように重くなり墜落するように道に落ちた。
チャーがフラフラ飛んでいるのを見た人たちが心配して見ていた。
墜落するように地面に落ちたチャーを見るとすぐにチャーに駆け寄りチャーと男をマルタ先生の治療院まで運んだ。
薄れる意識の中でチャーは誇らしくひとこと呟いた。
「この人は俺が助けた最初の人だ……」
気が付くと、サナリアと母が居た。
「気が付いたのね……チャー」
母が涙ながらにそう言った。
「いてっ」
チャーは翼の付け根が痛んだ。
それを見ていたサナリアと母は泣いていた。
「どうしたの?」
起き上がると翼の感覚がおかしい?
「えっ?」
翼の付け根を触ると何も無かった。
「翼が・・・」
チャーの目から大粒の涙がぽろぽろと落ちた。
泣いているのだが声は出ない……
「なんで、なんであんな無茶をしたの……ばか!!」
サナリアが涙を流しながら大きな声で怒った。
涙が溢れる中、小さな声だが答えるチャー。
「誰も居ないあの状況で、それに時間が無かったんだ
おれは医者になるんだ、だから傷ついた人を見捨てることなんかできなかった」
サナリアが涙を流しながら抱き着いてきた、
「まだ医者じゃないのよ、これでもうタワーに行けない、だから医者にはなれないし……一緒に……」
「ごめん、それでも助けたかったんだ、死なせたくなかったんだ、人を見捨てる人間が医者になれる訳がないんだ」
チャーは数日元気が無かった、ほぼ一日中布団にもぐりうずくまっていた。
夜にはすすり泣く声が聞こえていた。
◆ ◆
タワーに行けなかった者で、翼が無くなった者は年齢により大人に扱われる。
チャーは大人扱いとなった。
そしてタワーに行けなかった者は職業が与えられない。
つまり 『無職』 だった。
職業が無くても自分に出来ることを探し始めたチャー
「医者にはなれないが、お手伝いくらいはできる。マルタ先生の所で働くよ……」
母親は心配してくれた。
「でもそれはお手伝いでしょ、仕事では無いわね……なにか無いかしら」
そしてサナリアは『成人の時』を別の日に設定しタワーの上まで飛んだ、
帰って来たサナリアは約束通り医者となった、そしてチャーを手伝いに雇ってくれた。
「私もマルタ先生とは別にチャーを手伝として雇ってあげるわ、お手伝いに励んでね、それと私の知っていることは色々教えてあげるわ」
数日経って、マルタ先生の所でお手伝いをしているとき助けた男の人の意識が戻った。
「君が助けてくれたらしいな」
「チャーです」
「悪かったなチャー君……『成人の時』にタワーに行けなかったと聞く、だがここの人はみんな、チャー君のことを思っているんだね、本当に心配しているよ」
「ただなんか、みんなの俺への視線が痛いときもあるけどね……」
「すいません、気にしないでください、僕が助けたくて助けたんですから」
「そうはいかないな……なにか、考えておくよ」
「それより、貴方は、なんであんなところに居たんですか?」
「俺は冒険者、色々な国を巡っているのさ、珍しいものがあると探検したくなるのさ」
「冒険者ですか、でもタワーの職業にそんなのありましたっけ?」
「あるよ、少し代わった仕事だからね、特殊な仕事として探しにくいところに登録されているんだ、多分普通の人は探せないと思うよ」
「冒険者が気楽な者さ♪~、大海原を小さな船で気の向くまま進み♪~、着いたところは新天地♪~、そうさ知らない国さ♪~」
「おれはアレクサンドル、アレクと呼んでもらって良いよ」
チャーはなぜかその男のことが気に入りよく冒険談を聞くようになった。
「魔物だよ、それも大きくて10m以上もあるんだ、最初はもうダメだと思ったよ……」
「アレクさん、よく倒せましたね、人々は喜んだでしょう」
:
「悪霊は存在していることを信じない人が多いからな、悪霊と対峙するより前に信じてもらうことが難しんだ……」
「そうなんですね、霊が本当に居るんですか…なんか怖いですアレクさんは怖くなかったんですか?」
:
「だからだ、その国の王様が馬鹿でな、国民が泣いていた訳さ、それで俺が力を貸してだな、国民と一緒に戦ったわけだ……」
「それは凄いですね…国の体制まで変わるんですね、そんなことは一生のうちに何度もあることでは無いですよね」
:
「多くの国を見てきたが為政者により、その国が良い国か悪い国か決まってしまうんだ」
「まるで国に救う悪い病気で、国自体が病気に侵された病人のようですね」
「そうさ、病んでいる国は、病人も同じだ何らかの処方箋が必要なんだ、良かった国の良いやり方を教えてやりたいくらいだ。病んでいる世界を治すお医者様が必要なんだよな」
「悪い国では国民も住むところを失い、生きて行くことがやっとの人が多いしそれ以下の人も居る」
「チャー信じられるか?俺は何人もの人が家もなく泥水を飲むのを見た、泥水を飲んで死ぬか喉が渇いて死ぬかを選択しているんだぞ、そんな選択をしなければならない国があるんだ」
「アレクさんの言うように国により人の命の重さが変わるなんて信じられないが、本当なら国にも医者が必要ですね」
:
アレクは大怪我だったにも関わらず意識が戻ってから回復は早かった。
本人の話では回復ポーションなる秘薬を持っているとのことだった。
それはマルタ先生も驚く回復力で2週間くらいで歩けるようになった。
「君たちは素晴らしい、このポーションも君達なら有効的な使い方をしてくれるだろう」
そういうとアレクはポーションの残りをサナリアへ託した。
殆ど回復したアレクはある日「俺はもう退院だ」と自分で決めて、治療院を出て行った。
「もし多ければ他の人のために使ってくれ、今の俺にはこんなに必要ないからな」
そう言って持っていたお金を、全てマルタ先生に渡したそうだ。
チャーはアレクが居なくなると冒険談が聞けなくなって寂しくなった。
だが治療院は忙しく、手伝いをしているチャーも忙しかった。
チャーは医者になれなくとも、手伝うだけでも患者の救いになれるのであればと働き続けた。
ある日アレクの話を思い出していた。
「世界の国には病気の国があると言うことだ、ということは国の医者か……冒険者という職業を調査してみよう」
だが幾ら色々な人に聞いても冒険者などという仕事はタワーで選択できないという答えばかりだった。
(不思議だ、冒険者はタワーで与えられる仕事では無いのだろうか?)
その答えは直ぐに分かった。
ある日、治療院への道でアレクにバッタリ会った。
「久しぶりだなチャー、俺は船に戻って色々準備していたんだ、時間があれば少し付き合ってくれ」
アレクは真剣な顔でチャーに話をし始めた。
「前に少し話したけど、俺のためにタワーに行けなかったことについてだが、考えていることがあるんだ」
「だからあれは、俺がアレクさんを助けたくて助けたんだよ、気にしないで欲しい」
アレクは少し呼吸を整えて……
「それでは俺の気が済まないからな。なぁ、チャー、タワーに行けたらどうする?」
もちろんチャーの答えは決まっていた。
「迷うことなく医者になります」
でもアレクは別の答えを期待しているのか、質問を続けてきた。
「本当に医者か?」
実はチャーはほのかに憧れを持っていたので自分でも色々調べたのだ。
でも「冒険者」が選択できるという話が誰からも聞けなかった。
だからそんなことは無いと思いつつも返答をしてみた。
「冒険者があればそっちを選択するかもしれません」
アレクは少し笑いながら。
「曖昧だな、そんなことではタワーには行けないぞ……」
チャーは本当のことを言った。
「本当は冒険者になれればと思ったりしていますけど、実は探してもそんな職業は有りませんし、サナリアもタワーでそんな職業は無かったと言っていました、本当にそんな職業があるのですか?」
アレクは驚くことを話し出した。
「本当のことを教えてやろう、冒険者は『選ぶのではなく選ばれる職業』だ、何故なら神の加護無しに海は渡れないようになっているのだ」
冒険談には多くの国が出てきた、簡単に渡れないというのは初耳だった。
「そんな馬鹿なことが有るの?」
「国の間は行き来が出来ないのだ、職業はタワーで決まるのだが、実は国も決まる仕組みなのさ、タワーに飛んだ国で働くとね、タワーの上からなら色々な国が見えるんだが、後で国を変えることはできない」
「そして冒険者は、普通では行き来が出来ない国を、行き来が出来る職業だ、それだけに選ばれた者だけがなれる職業だ」
そこまで聞いたチャーだったが、項垂れた。
「そうですか、でも僕にはもう翼もないしタワーに登ることも出来ません」
「チャーよく聞け、俺が質問したのは一つだけ方法があるからだ。」
アレクは持っている剣をチャーに渡した。
「この剣はある国の国宝だった剣だ、実は魔法剣であり、抜けば願いが叶うという、だが願いが叶うが呪いの剣だという話もある。つまり願いが叶うと言うことは間違いはなさそうだが、呪いが掛かるかもしれないということだ、信じるか信じないはお前に任せる、これをお前にやるよ。それと冒険者になりたいのであれば、おれの船に乗らないか?」
チャーは剣を受け取り、返事は保留にした。
家に戻ったチャーは腑抜けていた。
「俺は……」
その夜夢を見た。
アレクの話に影響されたのだろう。
チャーは冒険者になっていた。
ある国では大きな魔物を退治し、ついでに植物の化け物を退治していた。
また、ある国では悪い為政者を懲らしめていた。
またまた、ある国では新しい発明品で国を豊かにした。
またまたまた、ある国では悪い病気を駆逐した……
もちろん多くの美味しい食べ物や美しい風景や動物たちにも会えた。
そして最後に言葉が聞こえて来た
「世界でやるべきことがある者が冒険者に選ばれる、
君には世界でやるべきことがある、そうだ君は選ばれたのだ」
君は選ばれた……そう聞こえた。
チャーは起き上がり、外に出た。
まだ外は暗かった。
剣を抜くチャー、だが何も起こらない。
暫く剣を眺めていると
「血を吸わせ……」
低い声で頭の中に響いた。
チャーは剣をその場に落とすと恐ろしくなり震えた。
「やはりこれは呪いの剣なのか?」
「違う違いますわよ……、とりあえず契約として少しの血で良いのでございますよ!!」
今度は高い女の声で聞こえた来た。
話し言葉が優しいので何となく返事した。
「悪魔じゃないのか?」
すると返事が帰って来た。
「そんなことがあろうはずございませんわ、これでも契約者には従順な侍女でございますわよ」
(騙されているかも?)
と少しは疑いながらも少し指先を傷つけ血を出し剣に擦り付けた。
「契約完了でございまね!!、ご主人様!!」
そう言うと明るい女の子が出てきた。
「私はリーチャオですわ、貴方の
「タワーに登りたい、翼をもう一度欲しいんだ」
「簡単ですわ、お任せください!!」
「いや、待ってくれ、出来るかどうか聞いただけだ、翼は今暫く考えたいんだ……」
「分かりましたわ、ご決心がおつきになりましたらまた、お呼びくださいませご主人様」
そう言うとリーチャオは消えた。
その後夜が明けて明るくなってからサナリアに会いに行った。
「もし俺が冒険者になると言ったら……」
「聞くと言うことはもう決めていると言うことかしら?、冒険者か、賛成かな」
「良いのかい、でもまだなれるかどうか分からないんだよ?」
「タワーで色々な国があることとその国の様子を遠眼鏡で見せてもらいました、そこから見えたのは酷い病に多くの国民が苦しむ国や騒乱で傷ついた多くの兵士の姿が見えた国もあったわ、でもそこには私は行けないと言われたわ。アレクさんが言ってたわよね色々な国に行ってきたと。そうよ冒険者なら出来るのよ、だからもしできるなら、私がタワーから見た悲惨な国々を救ってあげて欲しいの。そうよ冒険者なら、多分アレクさんの持っていたようなポーションでみんなも治せると思うの」
サナリアはチャーの手を握り目を見て頷きながら。
「国を跨る冒険者は多分この世界では必要な存在なんだと思う、それだけに貴方は選ばれた存在かもしれない」
「私ならこの国に一生居るわ、何時でも会いに来れるじゃない、大丈夫よ」
サナリアは涙声になった。
「ごめん、必ず帰って来るから、俺、冒険者になる」
引き留めると思ったサナリアは後押ししてくれた。
「サナリアは大人だな」チャーはそう呟き走り出した。
一度家に戻ったチャーは母親が作ってくれた服に着替えた。
「母さんタワーに行ってきます、俺は冒険者になると決めた。ごめん、しばらく会えないかもしれない、ありがとう父さん、母さん」
慌ただしくチャーはタワーに向かって走り出した、そしてタワーの傍まで来ると剣を抜くチャー。
剣を天にかざし願う。
「リーチャオ、やっぱり翼が欲しいんだ!!」
その瞬間剣が光り、頭の中に声が響いてくる。
「はい、了解ですわご主人様!!」
本当にチャーの体に翼が生えてきた。
羽ばたいてタワーの頂上に向かうチャー。
タワーは本当に高い、長い長い間飛び続けた。
「なんて高いんだ、みんなこんなに高いところまで飛んだんだ」
高い塔の頂上に着いた時そこには6本の棒のようなものが立っていた。
「ここが頂上?」
1本の棒から声が聞こえる。
「よく来たね、大人になる時を迎えた者」
別の棒からは別の声が聞こえる。
「なんと、特別な方法でここに来たのか……魔法かい?」
「そうです、反則ですか?」
棒が答えるのだろうか、声が聞こえた。
「いや、構わないよ」
最初の棒から声が聞こえる。
「君の職業を聞こうか?」
サナリアが言っているのと違っていた。
「仕事は選ぶんじゃないんですか?」
「君は選択肢以外の仕事を決めてきたんだろう?」
なるほど、既に分かっているようだ・・・
「冒険者です」
「了解した」
声が響いた瞬間、頭の中が混乱状態になった。
一気に色々な知識が頭の中に入り込んでくる。
それは長い時間続いたような気がしたし、短い時間で終わったのかもしれない。
手には
「冒険者は特別である。
その
多くの国と多くの冒険が君を待つことが分かるだろう。
君は多くの職業の知識を持たねばならない、
もし知識が足らなければ死を意味する。
しかもその知識も研鑽を積まねばならぬ、
なぜならその努力を怠れば死を意味する。
冒険者はそういう職業であると心せよ」
そう声が聞こえ終了したらしい。
『職業:冒険者』
その表示が頭の中に浮かんできた。
「これは、職業が体に刻まれたと言うことか……」
次の瞬間タワーの頂上から吹き飛ばされた。
そして翼が消えチャーは、空中に放っぽり出されタワーから落ちていた。
「わあぁぁぁ~っ、どうしたんだこれは、翼が無くなっている」
「ごめんあそばせ、翼の制御を奪われましたのですわ」
リーチャオが説明してきた。
「まぁ、良くあることですのよ、墜落までまだ少しございますことよ、大船になったつもりでお待ちくださいませ」
「安心してくだされ、キャプテン、わしの所までおろしてやるど」
そう声が響くと落ちる速度がゆっくりになった。
「あれ、制御が変わりましたわ、サーシャル様ですの?」
リーチャオが何か誰かと話をし始めた
「任せときん」
降りて行くに従い色々な国が見えてきた、各国の境目は結界で区切られていた。
タワーで教育中に貰った
遠くからではあるが確かに病に侵されている国も確認できる、どの国も自分を待っている、そう思えた。
どうやら降りる所(冒険の出発地点)はやはり自分の元居た国におりるようだが、どうも海に近いところのようだ。
そしてその着地点が分かって来た、多分下に船が見えてきたがその上だろう。
船の上に降りたが、船には誰も居ないようだった。
「誰かいませんか?」
そう叫び問いかけるが誰も返事をしない。
しばらくすると声が聞こえて来た。
「キャプテン、キャプテン……」
声のする方向に行って見ると一羽のオウムが居た。
「お前が叫んでいたのか、驚かせるなよ」
オウムはチャーを見ると、またおしゃべりを始めた。
「新しいキャプテンようこそ」
「新しいキャプテンだって?」
「キャプテン、アレク前船長より、お言葉があります」
「えっ、アレク前船長って?」
声が船の中に響く。
「おめでとう、このメッセージを聞いているとすると、冒険者になったんだね、この船サーシャル号は、ささやかだが俺からのプレゼントだ」
「そうだ紹介しておこう、オウムはアルマ、航海士だ」
偉そうにオウムは話始めた。
「アルマだ、よろしくな」
剣からリーチャオが出てきた。
「そしてリーチャオは君の従者」
リーチャオが礼をしながら挨拶する。
「
「最後はサーシャル号、この船は意志を持っている」
少し低い声が響き挨拶された。
「新しい
「さっき落下していくのを導いてくれた声だ」
「私アレクはこれから別の世界に行くことになった。私達冒険者を望んでいる国は何もこの世界だけではない、我々は世界すら超えなければならないんだ」
「別の世界……」
「君は冒険者として子供の頃と同じように国々を羽ばたいくように、飛び回れば良い、そうすると君と君に関わる人の何かを変えて行くだろう」
アレクの言葉はそれで終わった。
「分かりましたアレクさん、これからも子供の時のような好奇心いっぱいに飛び回りますよ」
皆に命令をするチャー。
「イカリを上げろ、さあ出発だ」
冒険者チャクロスが自由の海に羽ばたいて行った。
Tubasa(飛翔) 茶猫 @teacat
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