僕たちはひとつで、ひとつだった

きょうじゅ

相対死

 もう三日も寝食を忘れて愛し合っているけど、好きだよ、なんて僕はかつて一度も言ったことがない。別に言うのが恥ずかしいからじゃない。言う必要がないからだ。僕たちは双子で、一心同体。お互いの気持ちなんて、目をつむっていても手に取るように分かる。そういう風に、できているのだ。生まれたときから。生まれる前から。


 僕たちは一卵性の男女の双子として生まれた。ふつう男女の双子は二卵性になるのだが、僕たちは特別だった。どれくらい特別かというと、知られている限りこの世に僕たちしかいないんだそうだ。医者が言うには。


「ねぇ、いいのかな。僕たち、こんなことをしていて」

「いいわけはないよ」

「そうだね。父さんと母さんが帰ってきたら」

「その時までに、すべて終わりにする。そういう約束でしょ」

「うん……」


 そして、あっという間に“約束の期間”が過ぎ去る。僕たちが僕たち二人だけで過ごせた、つかの間の休暇。


 大人になるまで待って。二人で、一緒に暮らして。事実婚でもして。そんな夢も見ないではなかった。だけど、無理だった。僕たちは、過ちを犯してしまった。今の僕たちでは隠し切れないし、知られればきっと引き離される。だから、たった数日。たった数日の、つかの間の蜜月。


「それじゃ」

「うん」

「向こうでも、きっと一緒」

「うん」


 さようなら、世界。来世があるなら、願わくばもう一度、僕たち二人で。

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僕たちはひとつで、ひとつだった きょうじゅ @Fake_Proffesor

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