33.闇に蠢く者達
不思議な感覚とともにイルムは足が地面についたように感じた。体は全く違和感なく動くと言うよりはどこか鈍いというべきか。夢心地のような少し浮遊感がある。
イルムはゆっくりのその目を開く。あの黒いオーラからは全く想像もできない真っ白な世界がイルムの目の前に広がっていた。
見た瞬間、イルムはここは現実じゃないと、すぐに理解できた。
しかし、イルムの左腕は二の腕から先がない。さらに、何故か右腕には魔剣バルムレイクが握られていた。
そしてそんな白い空間の中心には小さな小さな黒い塊が鎮座していた。
「……よぉ、そんな小さくなっちゃって」
イルムはその存在には予想がついていた。だからなれなれしく声をかける。しかしその塊は動くことはなかった。
まるで閉じこもる様に話しかけてくるなというように、黒いオーラを纏わせている。
「……心に取り憑くなんて趣味の悪いことするんだな。お前、何者だ?」
イルムはその異様な気配に目を細める。
すると黒竜を取り付いていた黒いオーラはゆらゆらと形を成していく。それは人の形だ。輪郭はもやもやしており、顔や体格はよくわからない。
しかし、その影は喋り出した。
「やぁやぁやぁやぁ、初めまして『竜殺し』。僕は……そうだな、『混沌を望む者』グリード、とでも呼んでくれたまえ。
……ふぅん、しかし黒竜が自分の深層心理に初めて会った君を連れてくるとは僕も予想外でしたよ。いや必然だったかもしれないが、どちらにしても困ってしまうじゃないか、全く」
グリードと名乗るその影からは表情はよくわからないが確かにその口角は上がっているような声で話す。
ここが黒竜の深層心理、つまり精神世界ならば同じ魔力を宿した魔剣は実在できるということだろう。
イルムは握った魔剣をグリードに向ける。
「そんなニヤニヤして、困ってるなら困ってるなりにしろってんだ。……いつ、どうしてセオに取り憑いた?」
「う〜ん、いつからだろうか。そうだな……ざっと百年前くらいかな。かの英雄が名を馳せ、王国と帝国の戦争が終止符を打ちそうになったからからね。この黒竜使えばまた混沌とした世界が作れるとそう思ったんだけど……さすが英雄なのか、僕の存在に気づいてねぇ、そしたらこんなことに」
はぁ、と溜息を吐いたアルファはまるで子供をあやすかの様に小さく丸まった黒竜の頭を撫でる。
まるで小さな子供が人形を大切にしているかの様だ。しかし、イルムは気に入らない。
「その手を離せ」
イルムはグリードが黒竜に伸ばした手を切り落とす。影であるにもかかわらず切り落とされたそのモヤはフワッと消滅した。
「僕が答える前に斬りかかるなんて酷いじゃないか」
「……その影、魔力の塊みたいだな。つまり魔法か。はっ、馬鹿げてる」
イルム自身が切れたことに驚きを隠せなかった。百年前の魔法が今も持続している。それはイルムにとって笑うしかないほど現実的ではない。
「ふふっ、そうでもありませんよ。今はもう僕の魔法ではありませんから。僕達『混沌を望む者』は常に世代交代し、魔法を受け継いでいく。……それに君もまた、僕達と同じ化け物ではないですか」
「あ?」
グリードは両手を広げて、楽しそうにそう声を上げた。
「その強靭な肉体と身体能力、そして生命力。君は既に人の領域には存在しない! 君も私達と同じ真に竜に選ばれた人間、『世界を作り替える者』の一人。
──君はその力を使って何を成すのですか?」
まるで見定めるかの様なそんな言葉、イルムはめんどくさそうに手を振る。
「はぁ〜、世界を変えるだのなんだの、興味ねぇよ。……俺が欲したのは目の前の大切な人を守る力。自分を犠牲にならずとも、必ず守り、側にいてあげれる力。
……そして仇を討つ力」
イルムはそう言うと、今度は殺気の入った瞳でグリードを睨みつける。
「こっちもひとつ聞かせてもらう。お前のその魔法を受け継いだ奴は誰だ?」
「さぁ? 知りませんよ、そんなこと。でもそうですね、一つ言えることは、欲を司るこの魔法を受け継ぐ人間はそれほど欲を欲している……と言う事でしょうね」
グリードは心の底から笑うようにクスクスと笑みを浮かべる。何がそんなに面白いのか、イルムには全く分からない。
「そうか。──もういい、消えろ亡霊」
その言葉と同時にイルムはその影を魔剣バルムレイヤで斬り刻む。しかし、グリードはそれでも笑みを止めない。
「ふふっ、そうですか、そうですか。なんとも息苦しい世界を望むのですね。僕もあの世で見ておくことにしましょうか。
……君の手の中から何人の人がこぼれ落ちるか、楽しみにしていますよ」
そんな不穏な言葉を残したグリードという影は魔剣の力によって塵となり、消滅した。
あとがき
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すみません、少し長くなったので二つに分けることにしました。でも安心してください。今日の夕方に六時ごろにもう一度更新します。
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