20.天才たちの天災

 粉々になった岩がイルム達の頭上に降り注ぐ。そんな硬い雨に彼等は驚くが、流石というのか判断が早かった。


「散開して!」


「避けて!」


ユリスとリアナが叫ぶように注意すると、彼女らは左右に裂けるように避けていく。ナオとミラは少しもたつきながらもギリギリで旋回する。


「うおぉぉぉぉぉぉ⁉︎」


「──っ!」


回避によって速度が遅くなり、ルートがまわり道になってしまったことで岩が完全に落ち切ったその時を見計らったように後方にいた班が追い抜いていく。


 リアナは悔しそうに彼らを睨むがすぐに立て直し、ナオやミラの安否を確かめる。


「ナオ君! ミラ! 大丈夫⁉」


「大丈夫です!」


「大丈夫だよ、リアナちゃん。それより抜かれちゃった」


リアナの安否確認に返事をしたミラは心配したようにリアナの顔をうかがった。リアナにとって敗北は許されない。


これは王女としてではなく、竜騎士を目指し努力したプライドの問題だ。そのことをミラは知っている。


「うん、でもまだまだ巻き返せる。……でも抜けた瞬間に仕掛けてくれるなんて、やってくれたわ」


「本当よ。アイが傷ついたらどうする気よ」


どうやらミラの心配は杞憂のようだった。リアナもそうだがユリスもまた負けず嫌いだ。


そして今、妨害を受けて最後尾になってしまったことでそんな二人の目には火が付いたように見える。


リアナはメラメラと烈火の如く闘志を燃やす様な真っ赤な炎が、ユリスは静かに凍てつくようだがそれでも青く燃えている。


 そんなリアナたちを見て二人は頼もしく感じたようだが、イルムはアイにぶら下がりながらその様子を訝しむように見つめていた。


リアナはどうか知らないがユリスはむきになると周りが見えなくなる節がある。それはイルムが実体験として知っている。


そしてまた、体勢が崩れ後方の班に追い抜かれた瞬間、イルムはアリオスと目があった。


その目には今のリアナたちと同じように燃える何かを宿していた。何より、この妨害が組織的なものだということだ。


 イルムは常に周りを見渡し状況観察を徹底していたことで、崖に対してのブレスが放たれた瞬間をこの目で見た。


おそらくいくつかの班で共闘し、連携をとっているようでアリオスが指示を出したことで周りの竜たちがブレスを放っていた。


「これは……交流会じゃなくて立派な実践じゃねぇか」


こんなことがありなのかとイルムは尋ねるようにアーサーにアイコンタクトをとる。アーサーはイルムの言いたいことを理解していたのか、腕いっぱいの大きな丸をイルムに見せた。


つまり共闘はありということ。


 しかしこんなことユリスやリアナならばよくわかっているはずだ。そうなってくると共闘した竜たちに先に行かれたことはとても厳しいものになってくることは明らかだ。


道を塞ぐことも、ブレスによる妨害も何でもありなこの状況で彼らのように追い越すというのはとても難しい。


……そう思っていたイルムだったが、その考えは天才たちの前では杞憂に終わることとなった。



「いっけぇぇぇぇ! イブ!!」


「行くわよ、アイ」


火のついたユリスとリアナの進行は異次元のものだった。


崖ゾーンを抜け山ゾーンに入ると、目の前に立ちふさがる竜たちの隙間を縫うように追い抜くと、ナオたちの通る道を作るために山に這える木々をブレスで破壊する。


そう例えるなら天災だ。


二人が通った場所はブレスによって荒れ地とかし、ブレス跡が残る。


 アーサーは呆気にとられるように口を開けてその様子を見ていた。そのあと顔を青くして、怯えた表情になる。


アーサーは監視役だ。ルール違反や危険行為の注意など一年生が暴走しないように止める役でもあるのだ。


しかし、そんなアーサーの頭の中は真っ白になっていた。


ルールはぎりぎり守っている。そして多少の自然破壊は気にしなくてもよいと言われている。しかし、この惨状はどう考えてもやりすぎだ。


止めるべきなのだがアーサーでは彼女らに追いつくことすらできない。それほど本気になった彼女たちの力は圧倒的だった。


 そしてそんな超高速飛行に付き合わされているのはイルムもだった。


イルムは死んだような目で風を全身で感じ、そしてその顔は風でひどいことになっている。何時落とされてもおかしくない状態で何度死を感じたことか。


 彼女らに必死についていこうとするナオとミラもまた何度か死を感じていた。


二人の意志はユリス達についていくというもので、それだけがパートナーである竜に伝染していた。竜たちは二人の意志につられるようにイブとアイと離れないようについていこうとする。


 そうしてしばらくして、ユリスとリアナの異次元飛行は先頭にいるアリオスの背が見えてきた時にようやく落ち着くことになる。


結局アリオスに追いついたのは最終ゾーンである湖ゾーンだった。


湖とはいえその大きさは特大だ。


ここは折り返し地点となっており、湖を進んで折り返しまたもや同じ道を通ってスタート地点に帰ってくる。


なのでここが障害物競走の重要なゾーンということにもなる。


 しかし涼しい顔でアリオスの背を見るユリスとリアナに比べて、ナオとミラは目に見えて疲労していた。


ひどく荒い息切れに、額からは大量の汗をかいていた。無理をした代償だろう、体が竜についていかなかった証拠だ。


そしてイルムもまたアイの足もとで白目をむいて意識を失っていた。


「──! ……アイ、先輩を起こして」


「ガァァ」


アイは億劫そうに鳴き声を上げるとイルムの体を足の指でデコピンを喰らわせた。


「グヘッ! ──ハッ! ここは」


突然の衝撃に意識を戻したイルムはキョロキョロとあたりを見渡し、そして未だにアイにぶら下がっていることに絶望していた。


そして今一度正面を向くと、見覚えのあるアリオスの後姿を確認し、うんざりしたように顔を顰めた。


イルムは嫌な予感を感じながらナオをミラの姿を探す。そして案の定二人は満身創痍。


「ユリス、お前……いつになったら集団行動っていうものを覚えるんだ?」


「……悪いとは思ってるわ。だから速度を落としたんじゃない。少し無理をさせてしまったわ」


どうやらユリスとリアナが速度を落としたのは後方の二人の様子に気づいたからだったようで、ユリスもそうだがリアナも心配そうに二人を見ていた。


自分が突進していたことを反省しているんだろう。


おそらくユリスという自分と対等な力を持った存在がそれを促進させたのだろう。


 だからこそ、イルムはユリスを責めなければならない。学生であるリアナはまだしもユリスは軍の戦場を生き抜いた軍人だ。


そんな軍人が学生相手に本気になって周りを見失うなんてもってのほかだ。


「頭を冷やせ、馬鹿。この交流会において俺たちの優先しなきゃいけないものは何だ」


「王女殿下と、そして彼女に関わる者の身の安全」


「そうだ。確かに王女が交流会で一番を狙うのならそれをサポートするのはしたきゃしろ。学園生活をどうするかは自由だ。だがむきになって任務を放棄することは許されない。それに、注意しろっていただろ……わかってるな?」


「……えぇ、わかってるわ。ごめんなさい」


ユリスの沈んだ声とアイからの殺意のこもった目を感じながらもイルムは自己嫌悪に陥る。


ユリスに先輩として偉そうなことを言ったが、イルムはこの交流会においてできることはほぼないと言えるだろう。


交流会では武器の着用は不可、イルムの腰には黒剣は疎か木剣すらも差されていない。


今のイルムが何を言っても恰好はつかないだろう、しかしことユリスにならそれは違った。


「ふぅ……」


小さく聞こえる深呼吸の声にイルムは安心したように目を細める。


心を冷やして落ち着かせてくれるようなそんな綺麗な吐息は昔からよく聞いたことのあるものだった。


 しかし瞬間、海の底から何か湧き上がる者がイルムの視界に入りこんだ。


「ユリス! 下だ!」


それは水の奔流。水面を巻き上げるように現れた竜巻が彼等を襲う。



あとがき


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