19.悲鳴を置き去りに
「ちょ、待って、まじやばいって! うおぉぉぉあぁぁぁぁ!!!!」
そんな悲痛な叫びを上げるイルムだったがその声は風切り音によって掻き消される。
竜の大進行と言えるだろう。四十体近くの竜が同じ方向を目指して飛び進んでいる。
「壮観ねー! ミラ!」
「う、うん! ちょっと怖い」
白竜のイブに騎竜したリアナは楽しそうに両手を広げて風を感じ、ミラは辺りを見渡すようにキョロキョロ見ながらパートナーの竜の背中を抱きしめている。
班ごとに固まって飛行移動する状況下でイルム達の班はどの班よりも前に進んでいた。
これはリアナとユリスの力もあるが、ミラとナオもまた才能の持ち主ということだろう。
この交流会の障害物競走のルートは大きく分けて五つある。荒野、森、崖、山、湖である。
今は荒野を抜けて森の中の木々を避けながら飛んでいる。そして避けるたびにイルムは木の枝に当たりそうになり悲鳴をあげている。
その様子にナオとミラ、アーサーはヒヤヒヤした目で見ており、どこか憐れんだ顔をしていた。それに対してユリスは真剣な面持ちで前を向いていた。
フォーメーションはユリスとリアナを前に置き、その後ろをついていくようにミラとナオとアーサーがいる。ユリスの指示によって進む場所を決めている。
今のところそれぞれの班は様子見なのか、一定な距離を置いていつでも仕掛けれるようにイルムたちの後ろについている状態だ。
そしてユリスもまたどこでこの後続から距離を離すのか考えているようだ。下から悲鳴なようなものが聞こえるがユリスの耳には全く届いていない。
それもそうだ竜の加護により、騎乗時の風の抵抗が減らされている。前、下からの風は空間的に通りにくくなっており、位置的に下部にいるイルムの声は聞こえずらくなっているのだ。
まぁ、ただ無視していると言うことも否めないのだが。
そんな状態であるイルム班が森の中心部に差し掛かった時、思わぬ場所からの妨害が襲い掛かった。
「おいおい丸太……って⁉ ユリス、このまま突っ込む気か! 待って、俺が死ぬ、絶対に死ぬ⁉」
その妨害はコースを邪魔するようにいくつもの大きな丸太が振り子のように道を塞いでいた。
イルムは呆れたように声を出すが、まったく速度が変化しないアイを見てユリスの考えを察して大声を出すがユリスは聞き耳を持たない。
「皆、突っ込むわ。自分のパートナーを信じて」
「当然!」
「が、頑張ります」
「うん!」
ユリスの掛け声にリアナ、ミラ、ナオと答えて賛成の意を見せる。
そんなメンバーを見て後ろで見守っていたアーサーは少し感心したような顔をする。
そのあとアイにぶら下がったイルムが未だに何か叫んでいるところを見て、何とも言えない表情になったりもしているがそこは気にしない。
ユリスとリアナは速度の調整に入る。竜とのパートナー契約によって竜と意識を共有することができる、そして二人はほかの生徒とは違い本契約を済ませて年月が経っている。
そのこともありパートナーとの意識共有は深いものとなっている。それはまるで自分の体を動かす様に竜に乗れる。
竜騎士とは竜と心を通わせ、一つになる者と言われている。二人はまさしくそれだ。
一心同体、騎乗するものが竜の一部かのような乗りこなしに後ろを飛ぶ班メンバー、そしてほかの班の生徒もその動きに見惚れてしまう。
丸太を避けるその動きはまるで舞でも踊っているかのように美しく滑らかで、そして機微な動きだった。
そして気づいた時にはユリスたちの班は丸太ゾーンを超え、先に進んでいた。
それに気づいた後続も習うように進んでいこうとするが、そう簡単なものではない。何人もの脱落者が出ていく。
丸太に当たる者、竜から落ちる者、竜同士がぶつかってしまう者、それら様々な要因による失敗でそのゾーンを抜けた者は最初の参加者から半分ほどとなっていた。
班が全員脱落したものもあり、後ろからは悔しそうな声や痛みを訴える声も聞こえてくる。
「死ぬ、死ぬ、死ぬ……あいつら加護あるから竜に守ってもらえるけど、俺事故ったらそのまま地面に埋まる」
イルムは背後の様子を見て、絶望した顔になる。彼の視線の先では竜が落ちる瞬間何か明るい色のバリアのようなものが騎乗者を包み込んだ。それによって落ちた瞬間の衝撃が打ち消されている。
守護防壁、刻印に込められた魔力を強制的に契約した竜が操作し魔力によるバリアを生成しているのだ。
慣れれば騎乗者が意図的に出すことはできるがそこはまだ新入生、竜の手を借りその力を強制的に出させている。
青い顔をするイルムにユリスは前を向きながら、何気なくイルムを励まそうとする。……毒付きで。
「大丈夫、そんな下手はしないわ」
「ユリス……お前」
「不恰好なまま埋まらせないわ。落ちるなら首までちゃんと埋めてあげるから」
イルムは静かに絶句する。
いや、そもそもユリスに励ましという行為を期待したイルムが悪いのだがそれでも一瞬の感動が凍りついたようだった。
「……アイ、お前のパートナーまじイカレて……なんでもないです。──だから落とさないでくれ⁉︎」
イルムは落ち込んだ様子で頭上のアイに声をかけるが、凄みのあるギロっとした目で睨み返される。
そしてアイは黙れというようにイルムを掴んだ腕をぶらぶらと揺らしてみせた。
その様子にユリスはよくやったというように優しくアイの背中を撫でた。
「それにしても思ったよりも削れたわね」
「えぇ、でも仕掛けてくるとすれば次のゾーンじゃない?」
「そうね。……もうすぐ森を抜けるから注意しましょう」
ユリスとリアナは落ち着いた様子で次のことを話し合うようだが、その後ろに続く二人は少し疲れの色を見せていた。
ユリス達に合わせた飛行は竜だけではなくその騎乗者の体力も削る。初めてに近い高速飛行はナオやミラにとってきついものがある。
「大丈夫? ミラさん」
「っだ、大丈夫です。リアナちゃん達に……ま、負けたくない」
「──っ! うん……僕も」
後方の二人は意地を見せるように疲れを吹き飛ばし、前方についていく。
そしてアーサーはその様子にうんうんと頷きながらも、自分の余力を確かめる。アーサーは三年の最上級生で、しかもその中でもトップクラスの生徒だ。
それでも少し本気を出さなければこのスピードについていけない。そして先程の舞のような動きに関しては恐らくアーサーでは不可能だろう。
あれは本契約を済ませ、ともに育ったパートナーだからこそできるものだ。優秀とは言えどもアーサーはパートナーと出会ってから三年しか立ってはいない。経験値が違う。
入学初期でこれとは末恐ろしいとアーサーは今一度感じるのだった。しかしそれは何も前方の彼等だけではなく、あの丸太ゾーンを超えてきた者にも言えることだ。
そして丸太ゾーンから少しして、森が晴れる。現れたのは崖だ。剥き出しの岩で作られた崖に囲まれた空間は広々としてはいるが、逆を言えば障害物が何もない。
例年、丸太ゾーンを抜けこの森を抜けた瞬間、交流会名物とも言える争いが行われる。
「ガァァァァァァァ!!」
突如としてイルム達の背後から赤色のブレスが飛んでくる。イルム達が避けるでもなく、そのブレスは掠ることもなく横を通り過ぎていった。
そして──崖が崩れた。
あとがき
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あの、今日が日曜ということをすっかり忘れていました。今日は夕方にもう一話更新します。
あと少しで3000pv突破します!
執筆頑張ってます!
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