13.『加護なし』という二つ名
教壇の上でイルム達を見ていたリアナは少し呆れた様な顔でイルムの問いに答える。
「そうね。イルム君の貴族像というのがどれだけ高いのかはよく分かったわよ。そんな人そうそういるものではないでしょうけど」
「……いいや、いるさ。俺はそんな人を知っている」
イルムはそう自信満々に答えた。その瞬間イルムの隣から息を呑む声が聞こえる。そしてそれは目の前も同じだった。
「レムリアナ殿下……何故このようなものと……」
驚いたようにそう言ったアリオスの目は信じられないようにリアナを見た。
「別に私が誰と仲良くしようと貴方には関係ないでしょ。そんなことより君達、そろそろ話も終わりにして席に着きなさい。ホームルームが始めるわ」
それだけ言うと興味を失ったようにリアナはしっしっと手を振ってミラの隣に座った。シンとすると教室でイルムは突然妙な息苦しさを覚えた。
「あれ、なんか息が、ぐぐぐ、ちょ、ユリス手、手」
「黙りなさい。さっきから偉そうに貴族でもない貴方が何を語ってるの。気持ち悪い」
「ひ、ひでぇ」
イルムはそのユリスのいいように傷つくが、ようやくいつも通りに戻ってきたことに少しだけ笑みを浮かべた。
それをめざとく見ていたユリスは気持ち悪そうにイルムを睨む。
「何笑ってるのよ。はぁ、もういいわ。アリオス君、結局私に話って何?」
「……いや、もういい」
アリオスは歯を食いしばり拳を握るとそう言って静かに空いた席に座り、何か考えるように肘をついた。
そんな風に物分かりよく消えてくれたことに疑問に思ったが、結果良ければ全てよし。イルムは疲れたようにその場の席に座り直した。
「お前、まだ男苦手なのかよ?」
「……別に」
「あぁ、そう。で、あいつが言っていた『加護なし』っつのは俺のことを言ってたんだよな……ってどうした?」
ユリスからナオに視線を向けて話しかけるとナオはなんだかまるでヒーローを見るような顔をして興奮したようにイルムを見ていた。
「イルム君ってカッコいいね!」
「……この男のどこにそんな要素が?」
何故かそれに疑問を口にしたのはユリスだった。
「だってユリスさんを助けるためにあぁやって貴族に面と向かって話すなんてすごいよ。僕じゃ絶対出来ない」
「それが打算的じゃなければな」
ナオの理想溢れる解釈になんだか居心地の悪くなるイルムは早くそのキラキラした目を抑えてもらうために説得に掛かる。
「打算?」
「ほら、俺って今竜がいないだろ? その間ユリスのパートナーの竜に世話になるんだよ。だからここで何もしないわけにはいかなかったって話」
そんな言い訳じみた話にナオは訝しむようにイルムを見ていると少し面白そうと思ったのかユリスもナオの方についた。
「あら、貴方私が止めないといそいそとどこかに行こうとしてなかったかしら?」
「んぐっ」
おい、と言うようにユリスを睨むが彼女はどこ吹く風、ナオはそんな二人の会話を興味深そうに聞いている。
「ねぇ、もしかして二人は付き合ってるの?」
「「──それはない」」
綺麗に揃った二人の拒否にナオは苦笑いする。ここは触れてはいけないところのようだった。
イルムは大きくため息を吐くと振り払うように手を振り、仕切り直そうとする。
「もういいだろ、さっきのことは。それより『加護なし』ってどう言うことだ?」
イルムとしてはこちらの方が緊急性を要してると言える。バレたら退学待ったなしだ。
「契約した竜がいない、竜に嫌われた、その二つからイルム君は竜の加護を持ってないんじゃないかって」
まさかのドンピシャだった。イルムは額に冷や汗を流す。
「……そ、そんなことあるわけないだろ。は、ははっ」
「そうね。加護がなければこの学園の入試すら受けさせてもらえないでしょうに。それに左手の刻印が見えないのかしら」
ナオは少し表情に影を落とし、申し訳なさそうに話す。
「うん、確かにそうなんだけど。……所謂蔑称だよ。そこは特に理論的なものはないんだと思う」
「ま、そんなもんだろうな。……これで俺も二つな持ちか。悪いなユリス、俺は先に行くぜ」
イルムは理由を聞いたことで安心したようにすると、キリッとキメ顔をユリスに向ける。
そんな顔をユリスはまるでゴミを見るように見ると鼻で笑って、イルムの鼻思いっきり捻った。
「いててててて! もげる、もげるから!」
「ふんっ」
イルムが涙目になったところでようやく離したユリスはまたしても窓の方を見た。鼻を大事そうに触るイルムにナオは苦笑いする。
涙ながらにイルムはチラッとアリオスの様子を確認する。別におかしなことは何もないが様子がおかしい。
取り巻きの話を聞いていないように黙って何かを考えているようだ。そんな彼の姿にイルムは実害がありませんようにとヒリヒリする鼻を抑えながら祈るのであった。
あとがき
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【一月25日】
ここまで、文章の間や誤字修正、終了。
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