第二章 案の定の称号

6.竜との仮契約

 閑散とした講堂の中、イルムは口を半開きにして呑気な顔で寝ていた。既に入学式は終了しており、他の新入生は次の案内に従い、その講堂からは立ち去ってしまっている。

 イルムの隣で入学式を受けていたユリスはいつのまにか居なくなっており、イルムはまるでいないユリスにもたれかかる様にとてつもなく不安定な態勢で微妙なバランスに保っている。


 そんな時、講堂の中にイルム以外にまだ残っていた一人の大人しそうな少女が遠慮気味にイルムに近づいた。

 その少女は紫色の髪で左目を隠すように前髪が分かれており、身長も同い年の少女よりも少し低い。

 その様子はどこか緊張している様な戸惑っている様な面持ちで、近づいては遠ざかり近づいては遠ざかるを繰り返していた。


「……」


 それも凄いことにこの少女は入学式が終わり、それから寝ているイルムに気づくと今の今までずっと同じことをしているのだ。


 そんな一人押収をようやく切り上げたのか、その少女は自分を元気付ける様に力拳を胸の前に持っていくとゆっくりとすり足でイルムに近づいた。そしてイルムの肩に手を置こうとした瞬間、突然その手首を誰かに掴まれた。


「ひっ!」

「……あ?」


 その手を掴んだ張本人のイルムは眠気眼でそれをしたのか、少女の驚きの悲鳴を聞いて顔をしかめた。


「え、と誰?」


 眠たい目を擦って少女をその黒い瞳で捉えるが、見覚えのない顔にぼーっとその顔を見つめてしまう。


「あ、あの、その、わ、私」


 イルムにじっと見つめられてか、手をつかまれたからかは判らない。だが徐々に赤くなっていく顔にようやくイルムは目を覚ました様にその手を離し、起き上がる様に伸びをした。


「ん゛〜、あれ? ほかの奴は?」

「あの、もう入学式は終わってて、み、皆んな竜と契約しにグラウンドに向かってます」


 不思議そうなイルムに少女は離された手首に触れ、しどろもどろになりながらそう簡潔に伝える。


「そっか。まだ間に合うよな。ってお前はどうしたんだよ。同じ新入生だよな?」

「え! えっと、そ、それは、その」

「ん?」

「わ、私も寝てたんです! 今日が楽しみでなかなか昨日眠れなくて」


 少女はイルムから目を離して、手をふりふりと胸の前で振ってそう答える。しかし、その感じには見覚えがある。ユリスだ。彼女も言えないことがあると目を逸らし、最初の言葉を強調する。


「ふ〜ん。まぁいいや。俺はイルム=アストル。これからよろしく」

「あ、えっと、ミラ=ハングルです。どうぞよろしくお願いします」


 ミラ……そんな名前に聞き覚えがあるとイルムは頭を悩ますが、寝ぼけているのか思考がうまい具合に働かない。


「ミラね。よしっ、ミラもグラウンド行くんだろ? 一緒に行こう。一人で行ったら目立っちゃうし」

「──! そ、そうですよね。わ、私もそう思います」


 イルムはそんな少しはに噛む様なミラの笑顔になんだかネイを重ねてしまい、薄く笑みを浮かべた。しかし、すぐにその顔を見たミラは恥ずかしそうに笑顔引っ込め顔を逸らして席の間を抜けていった。

 イルムはミラへの反応に自分のシスコン具合に少々危機感を覚えるが、しょうがないと諦めミラの後を追うことにした。


 そうしてミラとイルムは小走りで走るとすぐに校舎から出る入り口があり、そこから外に出た。そして目の前に広がった広大な大地とそこに集まった何体もの竜に二人は目を奪われる。

 その大きな巨体はいるだけで人を威圧させ、纏う雰囲気はどこかこの世のものでないようだ。

 その美しいさまざまな色の鱗が全身を覆い、閉じてはいるが存在感のある両翼。彼等の赤眼は集まる新入生に向いていた。まるで狙っているように見えなくもないが、その竜達はそこから一歩も動くことなく大人しいものだった。


「お! やっと来たな! 遅いじゃないか! 名前は!」


 呆然としていたイルム達に大きく声をかけたのは竜の前に立ち、新入生を地面に座らせていた男。

 学園の教師かとも思ったがその格好はイルム達の着る制服と酷似していた。イルム達の制服のネクタイやリボンの色が紺に対して、その男のネクタイは赤。恐らくは上級生なのだろう。


「すいません。イルム=アストルです」

「ご、ごめんなさい。み、ミラ=ハングルです」

「ううん、時間丁度だから気にしないで良いよ。名簿にチェックするだけだから。さっ、適当なとこに座って」


 その上級生の男は爽やかで人の良さそうな笑顔を浮かべて、そう即してくる。


 整った綺麗な顔立ちでその真っ赤な顔がいいアクセントになっている。言葉遣いもどこか上品だ。

 毒気に抜かれた様にちょこちょことその新入生の集まっているところに混ざり込むと、その男は名簿を見つめるとパッと新入生を見回した。


「よしっ、これから君達は竜と仮契約をしてもらう。あっと、自己紹介がまだだったね。僕はアーサー=バルファルト、三年生だ。よろしく」


 バルファルト、というのは苗字は竜騎士になるのを夢目指すものなら当然知っている苗字だ。

 現聖竜騎士団、団長グレン=バルファルトの一人息子、それがアーサーだ。その知名度とそのイケメンな顔立ちは新入生に憧れと尊敬を一瞬にして手に入れて見せた。

 歓声が飛び交う中、アーサーは口元に人差し指を置き新入生を黙らせる。


「話を続けるよ。中には何人か本契約を既に済ませている人もいると思うけどその人はまた後で話すとして、まずはまだ竜と契約してない人達からね」


 仮契約というのは竜騎士になるために竜とパートナーとして契約する本契約の体験版というところだ。

 とは言ってもあまり仮も本番も変わらない。

 何故なら仮契約をしている期間に人間と竜が互いにパートナーとして認めるとそれは本契約にシフトされる。その際には人間の左手の刻印が竜の左手の甲に刻まれる。


「まぁ、知ってる人も多いと思うけど竜はとてもプライド高く、誇り高い。人の心を見通し、その人の人間性を測る。そして気に入ったものだけにその身を委ね、パートナーとして契約してくれる。それは仮契約の時も同じだ。だから、君達は真摯に彼等竜と向き合い、そして互いに認め合ってくれ。

──では始めてくれ。触れられれば仮契約は成立だ。まずは君達が気になった竜に話しかけてみて、触れさせてくれそうならそのまま契約まで一直線だ」



あとがき


──次回、イルム保健室へ


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それと、初星を貰えました。


ありがとうございます。


聞いてみたいのですが、カクヨムコンテストとスニーカー大賞が同時期で来ますが皆さんはどちらに応募しようとしてますか?


自分は現在スニーカー大賞よりです。

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