良いもの

少し敏感な人が、昼時におぼろな人影を見た。

気になった敏感な人は人影に話しかけた。

「何をしているのですか?」

人影は答えた。

「旅をしています」

敏感な人が「どちらへ?」と言うと、人影は少し考えるそぶりをして答えた。

「どこにでしょう?」

敏感な人はあきれた。

「あなた、目的もなく旅をしていたのですか?」

人影は首を横に振った。

「いいえ、ただ良いものを探していたのは確かです」

「良いもの?」と敏感な人が人影に問うた。

「はい、良いものです。ただ、不思議なんです。良いものは一度見つけても、しばらくしたら消えてしまうのです」

敏感な人はそれを聞いて、少し考えて、言った。

「それはあなたが見えなくなっただけではないですか?」

人影はその言葉を聞いて、少し首を傾げ、考えるそぶりをしてから、言った。

「どうしたら、見えなくならないようになるでしょう?」

敏感な人は、また、少し考えて答えた。

「見えなくなったら、また見えるまで待ってみるのもいいかもしれません」

人影は、また考えるそぶりを見せ、頷いた。

「そうします」


それから、しばらくして、敏感な人は再び人影を見た。

人影は花のそばに座り、少し薄くなっていた。

敏感な人は人影の横に座った。

「しばらくぶりです」

「ああ、しばらくぶりです」

「良いものは見つかりましたか?」

「さぁ、ただ、この花のそばにいようかなと思いました」

「なるほど。では、旅はどうされます?」

「それもわかりません」

「そうですか、まぁ、良いことがあるといいですね」

「そうですね」


また、しばらくして、敏感な人が訪れると花は枯れていた。

人影はいなくなっていた。

旅に出たのか、どうか。

それは、わからない。

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掌編や考えた事。 羽原みちばけ @HMitibake

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