耳をあなたに
「音が苦手だ」
彼はいつもそう口にしていた。
「音楽なんてやかましい」が口癖の人だった。
いつも本を読んでいて。
絵画が好きで美術館によく行った。
そんな彼に私は無神経に言ってしまったのだ。
「耳が無ければと思ったことはない?」
すると彼は憮然としていった。
「考えたけど、お前の声が聞けなくなる」
彼はいつも私の声をほめていた。
外見に気を使わない私だけど、それが理由で声を磨いた。
彼は私との会話を楽しんでいた。
世間に疎い私は、彼を楽しませるために世間のことを知ろうとした。
彼は私との時間を大切にしていた。
忙しい私は、頑張って彼との時間を作った。
でも、もうそれもかなわない。
あなたは声の届かない所に行った。
あなたの声が聞こえないくらい遠くへ。
ねぇ、出来るなら私の耳をあなたの元へ送れないかしら?
そしたら、あなたの声を聞けるもの。
一人で部屋にいるときも静けさに耐えられるもの。
ねぇ、どうして耳が私のところにあるのかしら?
あなたの声が聞こえるの。
ふと、気づけばあなたの声を聞いているの。
そんな寂しい思いももうおしまい。
あなたと会話をしに行くわ。
ちょっと待ってて、準備をするから。
それが終わったら、また話をしましょう。
そちらがどんな所かわからないけれど。
あなたの耳が私の声を聞くためにあるなら。
私の耳はあなたの不愛想を聞くためにある。
お互いそう決めたでしょう?
だからまた、お話しましょう。
ねぇ、あなた。
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