大空に憧れる

雨世界

1 ずっと君を探してる。

 大空に憧れる


 登場人物


 今野桃 中学一年生 十三歳


 遠野杏 中学一年生 十三歳


 プロローグ


 ずっと君を探してる。


 本編


 これ、あなたにあげるね。


「これ、桃ちゃんにあげる」

「え?」

 そういって遠野杏は今野桃に自分の宝物を手渡した。

 桃の手のひらの上にあったもの。それは小さな銀色をした翼のアクセサリーだった。それは杏が去年亡くなった杏のお母さんから誕生日にもらった、杏のとても大切な宝物だった。(それを桃は知っていた)

「こんなに大切なもの。もらえないよ」

 桃はいった。

「お願い。もらって。桃ちゃんにもらってほしいの」

 ぎゅっとその両手で桃の手を握って杏はいった。

「『絶対また会えるって約束して』。お願い、桃ちゃん」

 ぎゅっと桃の手を握りしめながら、泣きそうな目をして杏はいった。

「わかった。『絶対に会えるって約束する』」と桃は涙で目をいっぱいにして、杏にいった。

 すると杏は「……ありがとう」とずっと我慢していた涙を流して、桃にいった。

 杏子の涙を見て、結局桃も泣いてしまった。

 さよならの涙を我慢することなんて、もう全然できそうにもなかった。

 杏は桃の一番の友達だった。世界で一番、離れ離れになりたくない、……本当の本当の本当の、……友達だった。(人生で一人か二人、出会えるかもしれないっていうくらいの、自然とお互いの心を許し合える友達だった)

 杏とお別れをした、その日の午後。

 桃は杏と再会の約束した大きな木の下で、お気に入りのクジラの絵が描かれている真っ白な帽子の下で、小さな銀色の翼のアクセサリーを見ながら、大粒の涙を流して一人、……号泣した。

 それから一人になった桃は(友達はたくさんいたけど)空を見る時間が多くなった。

 桃はだんだんとそうやって、あの手の届かない遥か高い場所にある、無限に広がっているかのように見える、青色の大空に憧れるようになった。

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