&α 彼視点

死んでからは、かなり仕事が楽だった。


やはり、一旦死んで戸籍をリセットすると動きやすい。特に、官邸と街の裏を縫って動けるのが大きかった。街の正義の味方も、それなりに援護してくれる。官邸からは公安が手助けしてくれている。


なるべく早く、仕事を終わらせて。彼女のところに帰りたかった。彼女。あんなかわいい顔して中身は清純なので、本当に死んでいると思っているかもしれない。


最後に彼女と寝たときに、軽くこれから死ぬことといずれ違う名前で生き返ることは言ってある。でも、抱いたあとだったので、彼女が記憶を飛ばしていた可能性は否定できない。彼女はいつも、液体と一緒に意識まで飛ばす。


『おい』


通信。誰だ。この通信網だと、街の正義の味方かな。誰だろう。聞き覚えがない。


「あい」


『なに考えてた?』


「恋人のこと考えてました」


『えっちなことか?』


やたらぐいぐい来るな。


「すいません。どなた?」


市長かな。


『はあ?』


通信が切れた。


なんだったんだろう、今の。


とりあえず、もう行かないと。仕事もいよいよ大詰め。あとは最後の一押しだけ。


「よし。行くか」


立ち上がって。


その瞬間に。後ろから突き飛ばされた。


慌てる。いままで、恋人以外に後ろをとられたことはなかった。誰だ。


「んなっ。おい。なんでここに」


恋人がいる。


「どなたって何よ。どなたって」


「え?」


『どなたって何?』


「うそだろ?」


通信。なんで彼女が。


「へへ。来ちゃった」


「来ちゃったじゃないよお。いま仕事中だよお」


「あ。わたしも。転職しました。今日からわたしもせいぎのみかた」


「うそだろ?」


『本当です』


正義の味方しか使えない通信網を、知っている。本当に、正義の味方になったらしい。


「ね。もうちょっと待てなかったの?」


「何を?」


「俺が生き返るのを」


「え?」


「いや、行ったじゃん。最後に一緒に寝るとき。死ぬけど、じきに生き返るって」


「いや、聞いてないけど。どうせわたしがまだびくびくしてるときに言ったんじゃないの?」


「ん。まあ、そう、かな?」


「わたし、液体と一緒に意識も飛ぶから。そんなきもちいいときに何言われても分からないわ」


「そすか」


「さ。行きましょ。仕事仕事」


彼女。意気揚々と歩いていく。


「あ。終わったら、夜通しするからね?」


「はいはい」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

デッドエンド & アルファ (※えっち注意) 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る