第4話不思議な写真たち
部屋には写真が並べられている。
始めは一枚しかなかった机の上には、一枚、また一枚と数を増やされ随分と賑やかになったものだ。
そのどれもが、夜になると中で動き出す不思議な写真なのである。
写真の中の人物たちは時にチームを組んで対抗戦を繰り広げる。
また別の夜には男女に別れて「恋バナ」を咲かせたりもする。
時にはモデルとなった現実の人物について語り合ったり、新たな仲間となった写真が来るまでの部屋の様子を思い返したりもした。
古い写真は百年以上も前のもの。新しい写真は数年前のもの。
百年以上前に現実にいた子どもを写して切り取った写真。その中にいるのは、もちろん当時の姿のままの幼い子どもである。
数年前の写真の中にいるのも、同じように写真が撮られた当時の姿のままの人物である。
彼らは、常識から考えれば決して同じ時間に存在するはずのない人である。
現実ですら出会うこともないかもしれない人物である。
しかし、写真の中の「彼ら」は同じ部屋に並べられ、出会い、交流を重ねた。写真を撮られ、動き出した日の夜から彼らは彼らの時間を刻み始めたのだ。
同じ部屋に並ぶ彼らは、今ではよき友人である。
たとえ現実の人物が老いて、この世を去っても彼らはこのままの姿で在り続ける。
彼らは現実から切り離された時間を生きる、写真の中の人物なのだ。
今夜も彼らは時間を刻む。
写真の中で自由に動き回り、彼らだけの時間を重ねる。
例えばそれはミルフィーユのように。
写真が一枚一枚持つ真実を重ね合わせて、一つの部屋を作り上げる。写真が一夜一夜を重ねる度に、彼らだけの時間が積み重なって一枚の「作品」を作り上げていく。
さあ、今夜も夜の始まりだ。
写真が動き出す、彼らの楽しい自由な時間が始まる。
それは例えばミルフィーユのように。
今夜も新しい時間を重ねて、写真たちは一見変わらず、しかし見えない部分が大きくなるのだろう。
夜にはその部屋を訪れてはいけないよ。彼らだけの時間を邪魔するのは失礼だ。
カメラマンは静かに部屋の前から去っていった。
扉のノブにはカメラだけがかけられた。
みるふぃゐゆ-in the photograph 犬屋小烏本部 @inuya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます