第3話2枚目の写真
ある日、二人の少年が写る写真の横に新しい写真が置かれた。少年たちのモデルとなった人物たちは、既に老衰でこの世を去っていた。
新しい写真の中では、一人の男の子が花束を抱えてしかめ面をしている。その隣には同い年であろうおさげの女の子が花の冠を頭にかぶり、男の子と同じようにしかめ面をしている。
写真をことりと置いた青年が言った。
「あのときさ。もっと素直になれたらこんな思いしなくてすんだのにな」
この写真を撮った次の日、この子事故で死んじゃったんだよな。
そう言い残して、青年は部屋から出ていった。
そうして、夜がやって来た。
写真の中の男の子と女の子はそのしかめ面を一変させて笑顔を見せる。
男の子は両手で抱えていた花束を丁寧に下へ置き、背景である花畑を元気よく駆け回る。女の子はそんな男の子を追いかけて走り出す。
花畑で咲き乱れる花たちは風に吹かれて葉を揺らし、時折花びらを散らしていた。写真の中から子どもの笑い声が聞こえてくる。
「元気な子たちが来たね」
隣の写真から、足を川に浸けたまま二人の少年たちは言った。
朝が来て、窓から日が差し込み始めれば写真は元の姿へと各々戻っていく。
部屋にかざられた2枚目の写真。
それは、花畑の中で撮られた、花束を抱える男の子と花冠を被る女の子の写真であった。
この写真が撮られた日、彼らはすれ違い喧嘩をして帰路についた。次の日、男の子は一晩中考えてやっぱり謝ろうと仲直りを決意して再び同じ花畑を訪れた。
しかし、女の子は、来なかった。
来れなかったのである。
女の子も男の子と同じように仲直りをしようと花畑に向かった。しかしその途中の道で事故に遭い、命を落としたのであった。
二人は仲直りをすることができず、永遠に喧嘩をしたままとなってしまったのだ。残された写真には、喧嘩をしてしかめ面となっている二人の子ども。
それから何年も経ち、男の子は青年となり大人になって結婚をした。妻となった女性には人一倍優しく接した。息子には素直に生きろと何度も言った。自分には喧嘩をしたまま仲直りができない子がいるからと。
息子は父親となった男の子に言う。
じゃあ、謝ればいいよ。
父親となった男の子は首を横に振って、その子とはもう二度と会えないんだよと悲しそうな顔をして言った。
男の子と女の子には、仲直りをするはずだった「明日」が訪れることがない。
男の子は後悔をしたまま一生を終えるのだ。
これが、現実の「真実」の話である。
さて、写真の中ではどうだろうか。
写真が現像され、動き始めたその夜のうちに男の子と女の子は仲直りをした。
女の子はいなくはならないし、二人とも昼間ではしかめ面で仲の悪い子どもを演じている。
何十年も現実の男の子が抱える後悔は、写真の中ではたった一晩で解決されてしまったのである。
毎晩毎晩花畑で飽きずに二人で遊び、現実で男性が結婚する頃には彼らは親友、いや恋人となっていた。
これが、写真の中の真実である。
もしかすると、女の子の事故さえなければ現実でもこんな結果になっていたのかもしれない。
そんな「もしも」は現実のどこを探しても見つからないのだが。
今日も朝がやって来る。
写真の中では男の子と女の子が名残惜しそうに繋いだ手をほどき、笑ってまた今夜ねと言い合って「喧嘩中」を演じる。
写真の中からは、香るはずのない花たちの香りが風に乗って運ばれてくるようである。
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