11、戦闘狂の猫
その日の
合計討伐数────小型災厄獣八匹。
その報告を聞いた第六部隊の隊長の口元が、不自然に引きつった。
四番通りから七番通りまでの巡回を担当した彼らの討伐数は、小型災厄獣五匹だ。
個人の数字ではない。第六部隊全体での実績である。
「さすが第五部隊。
ケイトはそれに平然と返した。
「今回は一番通りから三番通りの担当でしたから。当然のことをしたまでです」
本日の夜間待機組である第三部隊に引き継ぎが終われば、巡回は終了だ。それぞれ戦闘車両に乗り込んで、本部に帰還する。
後部座席だけでは乗り切れないので、その後ろにある負傷者用の担架を固定する空間に、隊員たちは思い思いの姿勢で座っていた。
今日は担架に固定されている怪我人がいない。そのため、車内には和やかな空気が流れていた。
「ねえねえ、高崎さん。さっき第六部隊のおっちゃんが言ってたの、アレどういう意味っすか? キルケニー何とかってやつ」
長い手足を投げ出すようにして伸びていた森村が、無邪気な調子でそう言った。腹筋を使って起き上がり、話を聞く体勢になる。
森和宏。十八歳。第五部隊の最年少の新人だ。
暗めの茶髪に、猫のようにくるくるとよく動くつり目。人懐っこい言動で第五部隊のムードメーカーとなっている。
対する高崎は、四十代後半、第五部隊で最年長のベテランだ。背はそれほど高くないが、横幅は広い。全体的に四角く、がっしりとしているので、よく可愛くない熊のようだとからかわれていた。
「
「〈クリスタ〉の方の言い伝えだよ。喧嘩を始めた二匹の猫は、お互い尻尾だけになるまで戦ったっていうやつ」
高崎の言葉を補足するように美夜子がそう言うと、森村ははしゃいだ声を上げた。
「なんだそれ、かっけーじゃん!」
「だよねー! 格好良いよね!」
ハイタッチを求めると、第五部隊のムードメーカーは快くそれに応じてくれた。
手を打ち合わせる美夜子と森村を見て、梨乃と高崎がため息をつく。
「美夜子先輩··········」
「カズ、お前なあ」
「えー、なんすかその反応。良いじゃないっすか。
「何、猫っぽい人って」
「ケイト隊長は
自分の目を指しておどける森村に、中山が穏やかな口調で言った。
「俺も結構好きだけど、第六部隊の人は悪口のつもりで言ってるからね」
「なんで?」
「隊長によって、考え方が色々なんだよ」
A地区を巡回する五部隊のうち、災厄獣の討伐数が一番多いのは第二部隊、次点が美夜子たちが所属する第五部隊だ。最下位は第六部隊である。
ケイト率いる第五部隊の方針は、『可能な限り討伐すること』だ。
第六部隊は違う。もちろん、何が何でも討伐をしなければならない一番通りから三番通りまでの担当になれば、彼らも災厄獣を見つけ次第討伐する。
だが、彼らは五番通り以降で発見した災厄獣に関しては、積極的に討伐しようとしない。
どの通りで何匹発見したのかを報告するだけに留めているらしい。
「第六部隊は、何よりも隊員たちの命を大切にしてるんだ。だから、負傷者率が低い」
「うちは特攻かます奴が多いから、怪我人ばんばん出るからなあ。おい、中山。お前だって他人のこと言えないんだからな」
高崎がしみじみと言う。中山は驚いたように、自分を指した。
「え、俺なんですか? 美夜子ちゃんとかカズくんじゃなくて」
「自覚がない奴はこれだから。この前のこともう忘れてるのかよ。なあ、朔間」
「はい?」
朔間はこてんと小首を傾げた。何を言われたのかわからないという顔だ。
話を振った高崎がため息をつく。
「あー、すまん。俺が悪かった。お前、どっちかって言うとみゃあこチームだったな」
「あー」
「確かに」
「朔間は、うん。そうだね」
森村、梨乃、中山が腑に落ちたように深く頷く。
「何ですか、美夜子さんチームって」
「そうですよ、何ですか、私チームって」
朔間と声を揃えてそう聞くと、それぞれから大真面目な答えが返ってきた。
「うーん、なんて言うか、災厄獣絶対ぶっ倒すぜーみたいな」
「
「まさに
最後に高崎が、雑に言い切った。
「要するに、二人とも考え無しの特攻野郎ってことだな」
「えー! なんですかそれー!」
「…………高崎さん。私も美夜子さんも女性なので、野郎は間違いです」
美夜子は頬を膨らませ、やや顔をしかめた朔間が少しズレたことを言う。
その日の戦闘車両の中には、実に穏やかな空気が流れていた。
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