第1話 危険区域

 牧場の脱走に成功した三匹。絶対に捕まらない様に、絶対に見つからない様に真夜中は朝日が登るまでずっと走り続けていた。


 ただ行く宛も無いまま、直線を走っていた三匹は見知らぬ地域に到達する。いや、牧場が日常だった家畜にとっては、野生の頃の記憶はとうに忘れ、外の世界は全て見知らぬ光景だ。


 そうこうしていると三匹が気づかぬ内に、自身らに変化があった。


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《共通スキル:意思疎通》

 人外(人型種族を除く)と意思疎通が可能になる。

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 そこは山岳地帯。大きな山々が三匹にとって死角を作り、無我夢中に走っていた事で道も分からない。そして体力は限界にある中、入り組んだ山岳地帯はいつモンスターに襲われても可笑しくない状況だった。


「モーーー……(畜生、体が重くてもう走れねえ……)」

「ブ、ブヒ(一体此処は何処なんだよ)」

「ココ、コケッ(逃げたは良いものの、ワシらはやはり無能な草食動物に過ぎない。此処で野垂れ死ぬのか……)」


 疲労困憊で絶対絶命の状況、三匹は嫌な想像を繰り広げる中、最も最悪な状況が彼等を襲う。


 目の前にいるのは、朝から獲物を探す狼だった。野生の狼の前に家畜だった牛と豚と鶏がいる状況、どう考えても異質な光景だ。


 鋭く見つめる眼光と、グルルと唸る喉に口から垂れる涎。抵抗できない三匹はこんなにも早く脱走劇が終わるのかと恐怖で目を瞑った瞬間、狼は三匹に話しかけて来た。


「ワンワンッ!(何でこんな所に人間じゃなくてお前らがいるんだよ。此処は危険だ。喰われたく無けりゃさっさと何処かへ消えろ)」


 三匹は呆気に取られた。絶対に喰われると思えば、狼は流してくれる猶予を与えたのだ。いやそれよりも、狼の言葉が分かることに唖然とする。

 元より動物らは同じ生物同士でテレパシーのような固有言語で会話していたため、同じ家畜でも会話が成立したことはない。

 これによりまた同時に先ほどまで三匹がそれぞれ言っていた言葉を理解する。


 だが、そんなことより今すぐこの場から逃げたい。そうしたいのは山々だが、疲労が限界に達している三匹にそれは叶わなかった。


「モオォ……(体が、動かねぇ)」

「ブヒブヒ……(さっき、そこの牧場から脱走して来たんだ。だから、少し休ませてくれねぇか?)」

「コーコケッ(ワシは豚の背中に乗っていただけだが……もう眠気が……)」


 話が通じると分かった三匹はそれぞれの疲れを狼に伝える。狼はそれを聞いて、一つため息を吐いた。


「ワウゥ……(おいおい嘘だろ? 人間から逃げ出して来たって事は、追われの身でもあるってか。ったくしょうがなあ。俺の巣で少しの間匿ってやるよ)」


 どう見ても格好の餌が目の前にいる狼が匿うという発言に三匹はビクッと反応する。本当について行って良いのだろうか。


 狼は縄張り意識が高く、侵入した者を容赦なく襲う。それを元々備える野生の勘で無意識に感じていた三匹は、狼が自分達の天敵である事を思い出し、警戒する。


 その警戒を感じ取った狼は、安心させる言葉を発する。


「ワフ……(安心しろ。俺の巣と言っても縄張りの外だ。他の狼に襲われる心配はねえよ)」


 しかし三匹は狼の言葉に警戒を解くことは無かった。

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家畜達の脱走大冒険 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs

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