信じられない一日だったねー
「おはよー」
翌朝の通学路。明里はマンションの前で由美に声をかける。
「おはよー。眠いねー」
「だねー。今日はよく寝れそう」
「あんたまた授業中寝てたら教科書ではたかれるよ」
「えー、まあその時はしゃーない」
「しゃーないじゃないでしょ。昼休みまで我慢しなー」
「へーい」
明里は気のない返事をする。
◇
「ねえ聞いたー?」
「なになに?」
「昨日樫村先生亡くなったんだって」
「うそ!なんで?」
「なんか交通事故で病院に運ばれてそのままらしいけど。怖いよねー」
「昨日樫村先生の化学の授業受けたばっかりだったのに。ヤバイなんか泣けてきた」
「ちょっと泣かないでよ。私まで泣けてきた」
◇
「由美」
「なに?」
「樫村先生、亡くなったって」
「!うそ…」
「今日朝から体育館で全校集会らしいよ」
「昨日あのあと何かあったのかな…?」
「わからないけど、何か説明あるかもね」
「そっか…」
明里も由美も、それ以上言葉はなかった。
◇
「樫村先生は昨夜、事故に遭い、命を落とされました。皆さんとこの様な形でお別れすることになり、先生としても本意ではなかったと思いますが、先生に教えて頂いたことを思い出し、これからも勉学に励んで下さい。また、交通事故は…」
校長先生からの話は続いていた。
明里と由美はまだ現実として受け止めきれないでいた。
◇
結局、今日の授業は中止となり、希望者にはカウンセリングが受けられることになった。
「失礼します」
明里と由美は保健室に入室した。
二人で話したいことがあると希望した。
市から専門のカウンセラーも派遣されてきたが、二人の担当は保健室の先生だった。
「どうぞ」
先生の前に二人は座った。
「お茶淹れるわねー紅茶でいい?」
「はい、ありがとうございます」
由美は少し緊張していた。
明里もどことなく所在なさげな雰囲気だった。
「はい、どうぞ」
「どうも」
「じゃあ始めましょうか。今日は二人から話したいことがあるって聞いてるけど?」
「はい。樫村先生のことで」
「突然のことだったからねー、驚いたでしょう」
「はい。私達昨日も先生の授業を受けてたので」
まだ夜に学校で会ったことは伝えていない。
「そうだったわね。あなた達のクラスの授業が最後だったかしらね」
「それで、交通事故と聞いたんですが樫村先生はどこで事故に遭われたんですか?」
「ちょうど学校から帰る途中に事故に遭われたらしいけど、詳しい場所までは。あ、ちょっと待って」
先生は机に出していたバインダーを手に取る。
「ええと、午後6時ごろ学校近くの公園の前の交差点で車と接触、病院に緊急搬送されたけどその夜亡くなられたそうよ。」
「…え?」
「うそ…」
二人は言葉を失う。
「午後6時って、そんなまさか」
「え、だって…」
言葉にならない。
「二人とも落ち着いて。少しお茶を飲んで、ゆっくり深呼吸して。」
各々お茶を手に取り、口に含んで飲み込んでから深呼吸する。
呼吸がまだ上手く出来ない。
「少し落ち着いた?何か話したいことがあるならゆっくり話してご覧なさい」
二人は昨夜の出来事を伝える。
所々、涙が浮かんで話が詰まる。
「そう。そんな事があったの」
先生は頬杖をつく。
「もしかしたら突然のお別れになって、樫村先生も学校に未練があったのかしら」
「そうなんですか」
「分からないけどきっと、学校にお別れを言いに来たような、そんな気がするわね」
「そう…ですね」
明里と由美はうつ向いてしまった。
「先生も最後に二人に会えてきっと喜んでいたんじゃないかしらね」
もう涙が堪えられない。
「先生…先生…」
二人は静かに保健室で落涙した。
◇
帰り道、すっかり夕暮れになってしまった街を二人で歩く。
「今日は大変な日だったねー」
「そうね」
無言になる。
「…」
「…」
「先生、最後のピアノの邪魔しちゃったかな」
「そんな事ないわよ、きっと聞いてもらいたかったんじゃないかな」
「そうかな」
「そうよ」
二人は並んで歩く。
明里は自転車にまたがる。
「じゃあまた明日ー」
「じゃあね」
いつもの由美のマンションの前、二人は別れる。
自転車を漕ぎながら明里は呟く。
「明日は面白いことあるといいなー」
おもいでのメロディ 相朱 愛 @keythke
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