すっかり遅くなっちゃったねー

明里が音楽室の扉を開く。

スマホのライトを向けた先には。



「樫村先生?」

「おわ!誰ですか?」

「え?あ、私達は忘れ物の宿題を取りに来たら音が聞こえたので…」

「ああ、そうでしたか。こんな夜遅くに」

明里の後ろから由美も室内に顔をのぞかせる。

「すみません、もう帰りますので」

「いやこんな夜遅くだ。私が送って行きましょう」

「え、そんな。わざわざすみません」

「いえいえ、私の方こそ驚かせてしまったようで。すみませんね」

「そんなことないです!じゃあお願いします」

樫村先生は由美と明里の後ろについて音楽室を出る。


「樫村先生は音楽室で何をされてたんですか?ピアノを弾かれてたみたいですけど」

「ああ、つい昔懐かしくて」

「先生ピアノやられてたんですかー?」

「小さい頃にね。中学に入って学習塾に行きだしてから勉強が忙しくなって止めてしまったんだけどね。」

「そうだったんですねー。意外でした」

深夜の帰り道、明里は自転車を押しながら樫村先生に尋ねる。

「音楽、好きだったんですか?」

「そうだね、嫌いではなかったと思う」

「じゃあ止めちゃったのは残念でしたね」

「うん。だから時々、当直の日に音楽室でピアノを触ったりしてたんだ。二人とも今夜のことは秘密だからね」

「「はーい」」

明里と由美の二人の声は重なって、由美は先にマンションに帰っていった。


「私のうちここなんで」

明里は自転車を停めて言った。

「そうですか、ではまた明日。きちんと寝て登校してくださいね。ではおやすみなさい」

「はーい、おやすみなさい~」

明里も自宅の門扉をくぐった。

楽しかった深夜の学校探険を終えて、明里は満足そうに寝床についた。

「あー、今夜は楽しかった。また明日も面白いことあるといいなー」



明里を送って学校の当直に戻ってきた樫村は、音楽室の電気を消し忘れていることに気付いた。

「あれ?さっき部屋を出る時消してなかったか」

階段を上がって音楽室へ向かう樫村。

その時。

「ピアノが鳴ってる…?」

「また誰かのいたずらかな?」

音楽室の扉を開くとそこには。

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