柵越えて入る時が一番ドキドキするよねー

「ママー、明里が宿題忘れたからコピーさせて欲しいって。ちょっとコンビニ行ってくるー」

「あんまり遅くならないようにねー」

「はーい」


由美はエレベーターを降りて駐輪場へ向かう。

「ふっ、ホントに暇人ねー」

「由美だって。大して変わんないでしょ」

明里は自転車にまたがって笑っている。

「まあねー」

「さ、夜も遅いしさっさと行っちゃいましょ」

由美は明里の自転車の後ろに乗りかかる。

「行くわよー。幽霊いるかなー?」

「いないよ、多分」

「ふふ、まあ行ってみたら分かるから」

「ホント楽しそうね」

「まあねー」

明里の自転車は夜の通学路を駆ける。



「さてと、到着」

由美は自転車から飛び降りる。

「自転車どうしよっか」

「そこ置いとけば?こんな時間なら鍵かけときゃ大丈夫でしょ」

「そうね」

明里は校門の脇に自転車を停める。

「そっちの通用口の柵の方が低いかな?」

由美は通用口の方に歩いていく。

「ああ、そっちなら飛び越えられそう」

明里も少し遅れて続く。

「大丈夫かな。んしょっと」

追い付いた明里が先に登っていく。

「大丈夫?人いない?」

由美は不安そうに辺りを見回す。

「あー、全然大丈夫」

明里は柵の上から校内に飛び降りる。

「はぁ。いしょっと」

続けて由美も柵を越える。


「いやー静かね」

「そうねー」

明里と由美は通用口から下駄箱の方を通り抜けて校内に入っていく。

「西校舎の三階か。音楽室遠いよねー」

「誰か来なきゃいいけど」

由美は校舎の中でも振り返ってキョロキョロしている。

「誰も来ないって。大丈夫だよ」

「分かんないじゃん」

「もー由美は心配性だねー」

「慎重なの」

二人は言い合いながら階段を登っていく。

夜中の学校は声が響くので普段より小声で。



「やっとついた音楽室」

「不気味ねー」

「でもここ来るまで何も音しなかったねー」

「そうね、さっさと確認しちゃいましょ」

由美に急かされて明里は扉に手を掛ける。

「じゃ、開けるよ」

ガララ。

音楽室の扉を開くとそこには。


「誰もいないね」

「まあそりゃそうよね」

「はぁ。そりゃそうかー」

まるでお楽しみ会が終わってしまったような、そんな口ぶりで明里は扉を閉め直した。

「帰ろうかー」

「そうね。幽霊もいなかったことだしね」

二人はもと来た道を戻り始めた。


「何か聞こえない?」

由美は立ち止まって後ろを振り返る。

「え?」

「ピアノ。鳴ってない?」

「うそ?鳴ってる?」

「鳴ってるよ…」

「…行ってみる?」

「え?」

「音楽室。もう一回見に行こ」

「ホントに?誰かいるかも知れないよ?」

「だから行くんじゃん」

明里は戻りかけた廊下をまた音楽室に向かって行く。

「えー、ちょっと。待ってよー」

由美はそろそろ腰が引けてきている。


再び音楽室の前。

「開けるよ」

明里は扉に手をかける。

「うん」

由美が頷くのと同時に明里は扉を開ける。

由美と明里がスマホのライトを向けた先には。

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