おもいでのメロディ

相朱 愛

何か楽しいことないかなー

夏のよに 響く音色は しの記憶



「ねーつまんないねー」

明里は前の席の由美の背中に向かって、スマホを突っついている。

「何よ。また帰りにスタバとか寄ってく?」

由美は背中のスマホを払いのけて、振り向いて言った。

「えースタバは一昨日行ったし、金欠だから止めとくー」

明里はふて腐れたような顔でスマホの画面を見始める。

「じゃあ何?近所の公園でも行く?」

「それもなー。パッとしないなー」

明里のうだうだに付き合っていると4時間目のチャイムが鳴った。

「はーい席について。授業を始めますー。」

4時限目、化学の樫村先生が教室に入ってきた。

「起立、礼、着席」

昼休み前の一番かったるい授業が始まった。



「ねぇ知ってる?また出たんだって」

「なになに?何が出たの?」

「深夜の音楽室、誰もいない時間にピアノが鳴ってたらしいよ」

「うそー。誰かが忍び込んだんじゃないの?」

「それが当直の先生も誰も見てないらしいのよ」

「ほんとー?しんじらんないー」



明里はぼんやりしながらホウキを左右に振っている。

「ほらちゃんとゴミ集めないと掃除終わんないよ」

由美は明里の脇腹を肘で小突く。

「うぐっ。わかってるわよー」

明里はたらたらとホウキを振って周囲のゴミを集める。

「しかし今さら七不思議とか、ないわー」

「何言ってるのよ」

「いやーさっき廊下で話してるの聞いてさー」

「あー。また何か出たらしいね」

「由美はどう?いると思う?音楽室の幽霊」

「いないんじゃない?もしピアノが鳴ってたんなら別の原因だと思うけど。」

「別の原因ねー。何だろ?風とか?」

「風でピアノは鳴らないわよ。もっと別の、例えば何か物が落ちてきたとか」

「まあ実際、そんなとこなんだろうねー」

明里と由美はゴミをちり取りに集めてゴミ袋に詰めていく。

「でもまー見てみたいっちゃあ見てみたい気もする」

明里はホウキを片しながら由美の反応を伺う。

「えー夜中とかめんどくさくない?」

「まーね。家出るといちいちうっさいし」

「でしょー」

いっぱいになったゴミ袋の口を縛って、由美はゴミ捨て場に持っていく。

「七不思議の幽霊かー」

ホウキを仕舞った掃除用具のロッカーを閉じながら、明里は1人呟いていた。



「さっきの話だけどさー」

帰り道、明里は自転車を押しながら由美と歩いてる。

「何のこと?」

「あのピアノのやつー」

「ああ。あれ」

「うんー、由美今夜暇だったら行ってみない?」

「え?…まじ?」

「うん。何か最近楽しいことあんまないし、ちょっと気晴らしもかねて」

「気晴らしって。あんた他にやることないのー?」

「ないから楽しくないんじゃん」

「まあ、そりゃそうか。」

公園では小学生達が楽しそうにブランコの周りを走り回っている。


「えでもホントに行く気なの?」

「何か深夜の学校とか面白そうじゃない?」

「えーそういうのは小学校で卒業しとけって」

「そう言わずにさー」

「うーん」

「行ってみようよ~」

「…はあ。しょうがないなぁ」

「やったー!じゃあ夜10時ごろ、由美んちのマンションの駐輪場で待ってるから」

「はいよー」

由美と別れた明里は自転車で帰路に着いた。


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